20 / 63
第二章 奥様はドラゴンだった!?
第20話 なりゆき妻の思い出
しおりを挟む
―リユ視点―
殿方を慕う……こんな気持ちを持ったのは、生まれて初めてかもしれない。
見ず知らずのアタシを、ディータは快く迎え入れてくれた。不法侵入者だったのに。
それだけで、ディータに惚れた。ディータを思うと、胸が切なくなってくるのだ。
ディータは誰よりも、他人を思いやる人である。
いつものように、アタシが孤児たちと遊んでいたときだ。
昼食になると、子どもたちがなんか憂鬱な顔になっている。
「どげんしたんじゃ?」
「このカレーとかいう料理が、辛いの」
確かに子どもたちは、パンかライスしか手を付けていない。
「そんなに辛いかのう? アタシにはちょうどええんじゃが?」
皿に残ったカレーを、アタシはペロリと舌で舐める。
ちょうどいい辛さだ。しかし、苦手な人は苦手なのかも。
「言われてみると、そうだね。待っていなさい」
席を立ったディータは、子どもたちに色々聞いて回る。
厨房に入り、カレーについて調理師にダメ出しをしていた。
「こんなの、辛すぎる」
ディータは、舌が敏感である。
「お口に合いませんか?」
「ダメだな。子どもでも食べられるようにしないと」
「ですが、これがバリナンの伝統的な味でして」
調理師は、反論した。彼はもともと、バリナンの店で腕をふるっていたコックである。自分の味に、誇りを持っていた。ムキになるのも仕方ないか。
「伝統を重んじる精神は、立派だ。しかし、ここはシンクレーグなんだ。新しく作り直して、ウチの名産にしてはどうだろうか」
「バリナンから、非難されませんかね?」
「そもそも国王は、新しい物好きだと聞く。むしろ『新メニューです』って言ったら、飛びついてきそうじゃないか?」
「それはいいですね。やってみましょう」
最初は不満を漏らしていた調理師も、チャレンジ精神を焚きつけられて奮起していた。
調理師を頭ごなしに否定せず、彼の腕を信じて思いやるとは。
後日、ハチミツと、すりおろしたリンゴを混ぜ合わせた甘口カレーが完成する。
子どもたちは、たいそう喜んだ。
「見事じゃ。子どもの気持ちをよくわかっとる」
「自分も、子どもたちの背格好と大差ないからね」
ディータ本人は、そう笑った。
おそらく、違う。人様に食べさせるものだから、用心しているのだ。
~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~
―ディータ視点―
「んあ……」
僕は、隣で寝ているリユの体温で、目覚める。
ここは、シンクレーグの王城か。
「もしかして、リユが僕をここまで運んでくれたの?」
「そうじゃ」
僕はまる半日、眠っていたらしい。
リユが、僕をおぶってくれているのか。
「そのまま寝とれよ。身体にムリをさせすぎじゃ」
「ダメだ。客人を待たせている。だろ、トラマル?」
僕は隣で立っている、鉄じかけのゴーレム執事に声をかけた。
「はい。応接間にお通ししております」
「よし。すぐに向かうと知らせてくれ。お茶のご用意も」
「かしこまりました」
シンクレーグの城で、改めてドワーフの王女から自己紹介をしてもらう。
「テッシム国の王女、レフィーメ。父王の代行として、ディータのところへあいさつに来た」
ショートカットのお姫様が、僕にお礼を言いに来た。
「テッシムの王様は?」
「父王は、テッシムをシンクレーグの属国にする許可をいただくため、ボニファティウスにあいさつへ向かっている」
その後テッシム王は、すぐに北東へ趣くそうだ。カイムーンでやり残している、境界用の壁づくりを再開するという。
「無礼は承知。でも父王は、『ワシのようなヒゲ面がお出迎えするより、お前のような美人にお礼を言われる方が、シンクレーグ領主殿はうれしかろう』と」
「ガハハハ! ちげえねえのう! あのドワーフ王様、ダンナ様の生態をよくわかってらっしゃるわい!」
レフィーメがいうと、リユが膝をたたきながら大笑いした。
「かまわないよ。寝ていた僕が悪いんだから」
僕も、激しく同意である。堅苦しいお礼なんて、必要ない。それより、自身の仕事に打ち込むべきだ。僕に礼儀なんて、不要である。
「それにしても、ずいぶんとラフな正装なんだね?」
お姫様ではあるのだが、レフィーメの格好がサスペンダーとショートパンツなんだよな。ドレスとかではない。
「ごめんなさい。仕事柄、ドレスを着る機会がない」
なんでも、ドワーフは「体型に見合った可愛い服を着ると、弱体化する」という。着慣れないドレスコードでは、本来の力を発揮できないらしい。
ドワーフは、仕事の神様に愛されている。仕事以外のことをすると、神の怒りによって祟られるそうで。
「公務で北東カイムーンに正装して行く途中で、あの魔族どもに襲われた」
面倒だな。
「じゃあ、ウチの領内ではラフな格好で構わない」
「ありがとう」
「ではさっそく、ここをテッシムの王様が治めてもいいように、父上に掛け合ってみよう!」
相手は王様なんだ。僕より偉い人じゃないか。
そんな人に治めてもらったほうが――。
「ならん」
ですよねー。
殿方を慕う……こんな気持ちを持ったのは、生まれて初めてかもしれない。
見ず知らずのアタシを、ディータは快く迎え入れてくれた。不法侵入者だったのに。
それだけで、ディータに惚れた。ディータを思うと、胸が切なくなってくるのだ。
ディータは誰よりも、他人を思いやる人である。
いつものように、アタシが孤児たちと遊んでいたときだ。
昼食になると、子どもたちがなんか憂鬱な顔になっている。
「どげんしたんじゃ?」
「このカレーとかいう料理が、辛いの」
確かに子どもたちは、パンかライスしか手を付けていない。
「そんなに辛いかのう? アタシにはちょうどええんじゃが?」
皿に残ったカレーを、アタシはペロリと舌で舐める。
ちょうどいい辛さだ。しかし、苦手な人は苦手なのかも。
「言われてみると、そうだね。待っていなさい」
席を立ったディータは、子どもたちに色々聞いて回る。
厨房に入り、カレーについて調理師にダメ出しをしていた。
「こんなの、辛すぎる」
ディータは、舌が敏感である。
「お口に合いませんか?」
「ダメだな。子どもでも食べられるようにしないと」
「ですが、これがバリナンの伝統的な味でして」
調理師は、反論した。彼はもともと、バリナンの店で腕をふるっていたコックである。自分の味に、誇りを持っていた。ムキになるのも仕方ないか。
「伝統を重んじる精神は、立派だ。しかし、ここはシンクレーグなんだ。新しく作り直して、ウチの名産にしてはどうだろうか」
「バリナンから、非難されませんかね?」
「そもそも国王は、新しい物好きだと聞く。むしろ『新メニューです』って言ったら、飛びついてきそうじゃないか?」
「それはいいですね。やってみましょう」
最初は不満を漏らしていた調理師も、チャレンジ精神を焚きつけられて奮起していた。
調理師を頭ごなしに否定せず、彼の腕を信じて思いやるとは。
後日、ハチミツと、すりおろしたリンゴを混ぜ合わせた甘口カレーが完成する。
子どもたちは、たいそう喜んだ。
「見事じゃ。子どもの気持ちをよくわかっとる」
「自分も、子どもたちの背格好と大差ないからね」
ディータ本人は、そう笑った。
おそらく、違う。人様に食べさせるものだから、用心しているのだ。
~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~
―ディータ視点―
「んあ……」
僕は、隣で寝ているリユの体温で、目覚める。
ここは、シンクレーグの王城か。
「もしかして、リユが僕をここまで運んでくれたの?」
「そうじゃ」
僕はまる半日、眠っていたらしい。
リユが、僕をおぶってくれているのか。
「そのまま寝とれよ。身体にムリをさせすぎじゃ」
「ダメだ。客人を待たせている。だろ、トラマル?」
僕は隣で立っている、鉄じかけのゴーレム執事に声をかけた。
「はい。応接間にお通ししております」
「よし。すぐに向かうと知らせてくれ。お茶のご用意も」
「かしこまりました」
シンクレーグの城で、改めてドワーフの王女から自己紹介をしてもらう。
「テッシム国の王女、レフィーメ。父王の代行として、ディータのところへあいさつに来た」
ショートカットのお姫様が、僕にお礼を言いに来た。
「テッシムの王様は?」
「父王は、テッシムをシンクレーグの属国にする許可をいただくため、ボニファティウスにあいさつへ向かっている」
その後テッシム王は、すぐに北東へ趣くそうだ。カイムーンでやり残している、境界用の壁づくりを再開するという。
「無礼は承知。でも父王は、『ワシのようなヒゲ面がお出迎えするより、お前のような美人にお礼を言われる方が、シンクレーグ領主殿はうれしかろう』と」
「ガハハハ! ちげえねえのう! あのドワーフ王様、ダンナ様の生態をよくわかってらっしゃるわい!」
レフィーメがいうと、リユが膝をたたきながら大笑いした。
「かまわないよ。寝ていた僕が悪いんだから」
僕も、激しく同意である。堅苦しいお礼なんて、必要ない。それより、自身の仕事に打ち込むべきだ。僕に礼儀なんて、不要である。
「それにしても、ずいぶんとラフな正装なんだね?」
お姫様ではあるのだが、レフィーメの格好がサスペンダーとショートパンツなんだよな。ドレスとかではない。
「ごめんなさい。仕事柄、ドレスを着る機会がない」
なんでも、ドワーフは「体型に見合った可愛い服を着ると、弱体化する」という。着慣れないドレスコードでは、本来の力を発揮できないらしい。
ドワーフは、仕事の神様に愛されている。仕事以外のことをすると、神の怒りによって祟られるそうで。
「公務で北東カイムーンに正装して行く途中で、あの魔族どもに襲われた」
面倒だな。
「じゃあ、ウチの領内ではラフな格好で構わない」
「ありがとう」
「ではさっそく、ここをテッシムの王様が治めてもいいように、父上に掛け合ってみよう!」
相手は王様なんだ。僕より偉い人じゃないか。
そんな人に治めてもらったほうが――。
「ならん」
ですよねー。
0
あなたにおすすめの小説
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる