じゃじゃ馬王妃! ~フランス王妃アン・ド・ブルターニュが、悪徳貴族と魔族共を裁《シバ》く!~

椎名 富比路

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第三章 Est-ce que votre jeunesse brille?(君の青春は輝いているか)

敵を欺くには味方から

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「姐さんはアタイを信じてくれたッス。このジャネット、死力を尽くします」

「分かりました。そういうワケだけど、どうかしら、メルツィ?」

 もう一人の親衛隊、メルツィに話を振る。

「王妃殿下のお考えには、感服致しました。我が名はフランチェスコ・メルツィ。我は単細胞なので、色々と迷惑をかける。我がカバーできない部分のフォローを、よろしく頼む」

 しっかりした青年だ。特に威張るでもなく、目下に頭まで下げた。

「ジャネット・カプロッティ、ッス。貴族様のマナーとかてんでダメなんで、それ以外なら任せてくださいッス」

 互いの挨拶も終わったところで、二人を自室まで連れて行く。

「では、あなたにも武器が必要ね」

 机の引き出しを開け、アンは鞘付きのナイフをジャネットに渡す。

「これはクナイといって、ニホンの武器だそうです。私はニホンの文化には明るくないので存じませんが、強力な武器だそうで。それ一本だけでもメイドが半月雇える額だそうです」

「うへえ。働いているのがバカらしいっすね」
 冗談交じりで、ジャネットはつぶやく。

「ではメルツィとジャネット、情報収集よろしくお願いします」

 二人は姿勢を正し、街へと出向いた。

「本当によろしいので?」
 二人がいなくなった後、オルガがアンに尋ねる。
「フランチェはともかく、ジャネットは信用できるかどうか」

「それも含めて、私は彼女を泳がせる必要があると思ったの」
 書斎まで戻ってきた。

 アンは、ジャネットが「本当に」取ろうとしていた本を、書棚から出す。

「それは……!」
 恐ろしいものを見るような目をして、オルガが後ずさる。

 本の表紙には、こう書かれていた。


「毒ガスの作り方」と。


 著者は、レオナルド・ダ・ヴィンチだった。

 と言っても、中身は
「生ゴミと便を混ぜて街中にまき散らそうぜ!」
 などといった、さっぱりデタラメな内容だったのだが。

「貧民出身の彼女が、どうしてこんな本を?」

 オルガが疑問を出すのも、無理はない。

 貧民出身の少女が、どうして毒ガスなどといった高度な科学に興味を持つのか。

 クーデターを起こすつもりなのか? 
 あるいは、別の影が動いている気配がする。

「それを調べるの。ジャネットには、貧民を仕切っている関係者を当たってもらっている。フランチェは二重スパイを任せるわ。ジャネットを陰で操っている人物を探し出してもらう」

 ジャネットが敵と密通しているなんて、アンも信じたくはない。事情があるのだと思いたいが。

 敵がバロール教団だとしたら、アンも本気で動く必要がある。
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