じゃじゃ馬王妃! ~フランス王妃アン・ド・ブルターニュが、悪徳貴族と魔族共を裁《シバ》く!~

椎名 富比路

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第四章 Ne pas se mettre en forme, Mauvais voeux(うぬぼれるなよ 邪悪な願い)

誰をスパイにする?

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 学校が用意したプリントには、各教師の名称と続柄が書かれていた。

「しかも、教師の一人が謎の死を遂げて、教職に欠員が出たって言うじゃない! 娘が入学する学校で事件なんて、親としては放っておけないわ!」

「それはいけませぬ! もしレミ教授がバロールのトップなら、お嬢さんから引き離さなくては!」


「私が教育者として侵入するわ!」
 いてもたってもいられなくなったアンが、とんでもないことを言い出す。


「ダメだって、アン。王族なら誰だってあんたの顔を知ってる」

 もしアンが教鞭を振るったりなどしたら、学校はパニックに陥るだろう。授業どころではない。

「あんた、学校まで行って『余の顔を忘れたかーっ!』とかやりだしかねんさ」
「まあ、それもそうね」
「否定しないところが怖いよ」 

 リザの一言で、アンは正気に戻った。

「ウチらはおとなしく、殺人事件の線を洗おう、アン。依頼だって出てるんだ」

 教師の母親から、殺人の捜査依頼が来たらしい。
 現在は、モリエールたちが検証している。

「じゃあレオを」

 レオナルド・ダ・ヴィンチに教わるなど、本来すごいことだ。
 実際、ジャネットの連れているきょうだいたちは、レオの知識をモリモリ吸収している。

「吾輩の本格授業など、眠くなりますぞ」

 モノを教えるのは得意だが、本気モードのレオが相手では辛かろう。

「リザ、お願いできる?」

「無理だよ。あたしは勉強はからっきしなんだ。魔法の技術を教えていいならいいけど」
 リザは手をあげる。

「あと、アンの姐さんと同じ理由で、モリエールさんも無理ッス」

 彼は貴族ではないが、商売人として有名すぎた。

「アタイは、商売のイロハならいけそうッスけど」
 そういうジャネットも無理だ。

「そうだわ。イコが」

「不可能です、殿下。イコ殿は、お子様がクロード様と同じ学園に通わせるそうです」
 アンの提案を、オルガが遮った。

 だとしたら、ニホン人のイコは余計に目立つ。
 味覚がフランスと違うため、給食センターに忍び込ませるわけにもいかない。

「オルガは、無理よね」
「クロードお嬢様は、わたくしなんぞの指導に従わないでしょうね」

 ときに友達感覚、時に口うるさい小姑と、オルガはいい意味で、クロードに遊ばれている。

「じゃあ誰を侵入させればよくて!?」

「いるではありませんか、殿下。我々のようにお嬢様に面が割れておらず、かつ城にも自由に行き来できる人物が」


「そんな便利すぎる人材が……いたわ」


 アンたちと同じ部屋にいるのに、何一つ発言せず、誰からも名前を呼ばれなかった人物が。

 みんなの視線を独占したその人物は、パサパサのパスタを美味そうに頬張ったまま、首をかしげていた。
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