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第四章 Ne pas se mettre en forme, Mauvais voeux(うぬぼれるなよ 邪悪な願い)
授業:二人組を作る
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体育の授業は、グラウンドで行う。
全員が、汚れてもいい古着に着替えている。
柄は統一されていないが、だいたい白地だ。
「はい。では皆さん、準備運動をします。二人組になってー」
メルツィは、生徒に呼びかける。
生徒各人、親しい女子たちとチームを組む。
だが、あぶれている女子が。クロード姫だ。
王家に近づくのは恐れ多いのか、誰も近づこうとしない。
クロードも無理に呼びかけようともせず、かといってどうしていいか分からず、立ち尽くしている。
これまでもそうだったのだろう。
だが、教師である自分が手を貸していいのだろうか。
クロードはもう七つだ。
同年代の女子とも仲良くなる必要はあるのではないか。
なにより、同じ年頃の子と語らうことは、幼少期には重要だ。
孤独に慣れると、自己完結能力は確かに上がる。
だが、コミュ力の習得は、大人になると難しい。
成功体験が乏しいからだ。
よってさらに孤独になっていき、今度は孤立していく。
「あの、姫さま!」
そんな中、一人のニホン人が、孤独な姫に手を差し伸べた。
あの子は確か、イコこと愛洲移香斎の娘、ローザである。
クロードより少し背が低く、細い。
が、背筋はシャキッとしていて、どの女子生徒より目立っていた。
彼女には、西洋人にはない温かみが感じられる。
「お手をどうぞ」
不器用ながら、ローザが手を伸ばした。
「ありがたく、ちょうだい致します」
安心した様子で、クロードはローザの手を取る。
準備運動を終えて、周辺を軽くランニングをした。
全員がヘトヘトだ。唯一、クロードとローザの二人は、メルツィにどこまでも追いついてきた。
その後、授業を開始する。
「今回教えるのは、護身術でーす。皆さんも、知らないおじさんに声をかけられて、さらわてしまう可能性があります。その際に役立つのが、この護身術です」
まず、生徒の一人に、後ろから抱きついてもらうことに。
メルツィはしゃがんで、女生徒たちと同じ目線になる。
「では、あなた。僕に後ろから組み付いてください」
「えっ!」
ませた女生徒は、顔をリンゴのように赤らめ、後ずさった。
他の生徒たちも、メルツィに抱きつこうとしない。
さすがのクロードも、及び腰になっている。
どうするか。これでは授業にならない。
他の先生に頼むしかないか。
「わたし、やります」
一人、ローザが手をあげた。
「では、僕に後ろから抱きついてみて」
「こうですか?」
両腕を抱え込むように、ローザはメルツィに抱きつく。
「ポンッ!」
かけ声と共に、メルツィは両手を挙げた。
ローザの腕からすり抜ける。
「ほええ、ウソみたいだ!」
ローザが、目を丸くしていた。
メルツィの腕力なら、ローザの腕などたやすく抜けられるが、ローザなりに強く締め上げたつもりなのだろう。
「このように、両手を挟み込まれても、思いっきり腕を上げて腰を落とせば、抜け出せます。みんなもやってみてください」
グラウンドに、少女たちの「ポン」という声が響き渡った。
全員が、汚れてもいい古着に着替えている。
柄は統一されていないが、だいたい白地だ。
「はい。では皆さん、準備運動をします。二人組になってー」
メルツィは、生徒に呼びかける。
生徒各人、親しい女子たちとチームを組む。
だが、あぶれている女子が。クロード姫だ。
王家に近づくのは恐れ多いのか、誰も近づこうとしない。
クロードも無理に呼びかけようともせず、かといってどうしていいか分からず、立ち尽くしている。
これまでもそうだったのだろう。
だが、教師である自分が手を貸していいのだろうか。
クロードはもう七つだ。
同年代の女子とも仲良くなる必要はあるのではないか。
なにより、同じ年頃の子と語らうことは、幼少期には重要だ。
孤独に慣れると、自己完結能力は確かに上がる。
だが、コミュ力の習得は、大人になると難しい。
成功体験が乏しいからだ。
よってさらに孤独になっていき、今度は孤立していく。
「あの、姫さま!」
そんな中、一人のニホン人が、孤独な姫に手を差し伸べた。
あの子は確か、イコこと愛洲移香斎の娘、ローザである。
クロードより少し背が低く、細い。
が、背筋はシャキッとしていて、どの女子生徒より目立っていた。
彼女には、西洋人にはない温かみが感じられる。
「お手をどうぞ」
不器用ながら、ローザが手を伸ばした。
「ありがたく、ちょうだい致します」
安心した様子で、クロードはローザの手を取る。
準備運動を終えて、周辺を軽くランニングをした。
全員がヘトヘトだ。唯一、クロードとローザの二人は、メルツィにどこまでも追いついてきた。
その後、授業を開始する。
「今回教えるのは、護身術でーす。皆さんも、知らないおじさんに声をかけられて、さらわてしまう可能性があります。その際に役立つのが、この護身術です」
まず、生徒の一人に、後ろから抱きついてもらうことに。
メルツィはしゃがんで、女生徒たちと同じ目線になる。
「では、あなた。僕に後ろから組み付いてください」
「えっ!」
ませた女生徒は、顔をリンゴのように赤らめ、後ずさった。
他の生徒たちも、メルツィに抱きつこうとしない。
さすがのクロードも、及び腰になっている。
どうするか。これでは授業にならない。
他の先生に頼むしかないか。
「わたし、やります」
一人、ローザが手をあげた。
「では、僕に後ろから抱きついてみて」
「こうですか?」
両腕を抱え込むように、ローザはメルツィに抱きつく。
「ポンッ!」
かけ声と共に、メルツィは両手を挙げた。
ローザの腕からすり抜ける。
「ほええ、ウソみたいだ!」
ローザが、目を丸くしていた。
メルツィの腕力なら、ローザの腕などたやすく抜けられるが、ローザなりに強く締め上げたつもりなのだろう。
「このように、両手を挟み込まれても、思いっきり腕を上げて腰を落とせば、抜け出せます。みんなもやってみてください」
グラウンドに、少女たちの「ポン」という声が響き渡った。
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