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第四章 ドキドキ動画合宿! BANの危機があるからポロリはナシ!

第21話 田舎には、よく帰る?

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 オレたちは、海の家で休む。ああ、ラムネがキンキンに冷えてやがる!

「海の家って言ったら、ラーメンだろ!」

「わたしは、カレーかな」

 各々注文をして、畳の間に着席した。

 オレのラーメンは、いわゆる中華そばだ。メンマと薄いチャーシュー、ナルトが乗っている。シンプルな見た目なのに、やたらと誘ってきやがる。
 夢希ムギの頼んだものは、いわゆる具がゴロゴロした田舎カレーだ。こっちも、いい香りが漂う。

「それもいいな。じゃあ、いただ……あっ、ちょっとまって」

「どうしたの?」

「シェアしよう」

 オレは、店員を呼ぶ。

「すいません。小皿を」

 オーダーすると、店員さんがお椀を二つ用意してくれた。

「これでシェアできるな」

「あーん、でよくない?」

「た、たしかにな。でもラーメンやカレーであーんって、難しくねえか?」

 麺はビローンって、伸びるからな。あーんとかは、ちょっとやりづらかった。絵面的にも、見栄えが悪い。

「これがお前の分な」

「ありがと。うわあ、おいしそう」

 ラーメンもカレーも、どっちもうまそうだ。

「足りなかったら、言ってくれ」

「そんな食いしん坊じゃないし。はい。カイカイの分」

「ありがとうな。じゃあ、いただきます……おおおおお!」

 うめえ! 超絶に雑な味付けなのに、マジでうまい。

「どう?」

「うまい!」

「ホントに? じゃあ、いただきます! はむ……うーん!」

 夢希の顔がほころんだ。

「カレー最高」

「ラーメンも、なんか独特だぞ」

「ホント?」

 小鉢をもって、夢希がラーメンをすする。

「いいだろ?」

「うん! おいひい。しかも、なんか懐かしい!」

「そうなんだよ!」

 こんな昭和臭がする昔ながらの中華そばって、食ったことがない。そのはずなのに、なぜか食べたことがあるような気がしてくる。インスタントでも、似たような味付けのものはもちろんある。だが、この味には到達できないだろう。

 本格的とはいい難く、素人感は満載だ。しかし、これはこれで完成しているんだよなあ。

「カレーも食べてみて。いい感じだから」

「おう……うんうん! 言いたいことはわかる! なんとも形容しがたいうまさだわ、たしかに」

 コクが、ハンパねえ。チェーン店ほど整っていなくて、専門店ほどパンチが効いているわけでもない。しかし、なんだろう? この店でしか食えないうまさがある。 

 たしかにどちらも、専門的な味には程遠い。
 海の家の料理は微妙、と言われている。

 だが、このうまさはなんだ? 日の当たる場所で食ってるからうまいって次元を、この料理ははるかに超越している。

「ごちそうさまでした! と思うだろ? まだあるぞ」

 ジャン! の掛け声とともに、かき氷を用意した。オレはシンプルないちごで。夢希はメロン味だ。もちろん……あーんで食べさせ合う。

「では、お互いの質疑応答、ってのをやってみる」

 よく考えたら、動画であまりお互いに干渉しなさすぎなんだよな。

「というわけで、始めるぞ」

「カイカイは、田舎には、よく帰るの?」

「たまにな。お葬式があるときくらいかな」

 あとは両親が、法事に顔を出す程度である。

 父方と違い、母方の親戚は、あまり金にがめつくない。とはいえ、オレたちの家からは遠すぎる。なので、自然と足が遠のいちまった。

「ぶっちゃけ、こんなチャンスがなかったら、まあ帰らないだろうな」

「海いいなあ。海産物おいしそう」

「ぜひ食べて帰ってくれ」

「ありがとー」

 続いて、夢希の番だ。

「ムゥの実家の田舎って、どんな感じなんだ? 答えられる範囲で頼む」

「えっとねえ……山の方」

「そうか。オレが海の方だから、ちょうど反対側だな」

 夢希はオレにだけわかるように、ジェスチャーをする。「わかるでしょ?」って感じで。

 オレも声に出さず、「なるほど」とうなずく。だいたいの場所はわかった。日本一高い山がある場所だ、ってことくらいは。

「ふたりとも、田舎から都会に出てきて、そこで知り合って、わたしが産まれたの」

「おんなじ田舎だったんだな?」

「そうそう」

「毎年、帰るのか?」

「うんうん。キャンプで山を見に行くの。登らないけどね」

「おう」

 絶景なんだろうな。口には出せないが。
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