62 / 269
第一部 完 前編 親子丼は、罪の味 ~ドワーフ定食屋の親子丼~
ズルい女
しおりを挟む
「いただきまーす。うわあ、卵だぁ」
朝の食卓を囲んでいるシスターたちが、色めき立っていました。
今日の朝食は、ゆで卵です。
カゴの中には、白い卵が並んでいました。
ひとりにつき、三個です。
しかも、農家から譲っていただいた、産みたてですよ。
我らシスターにとって、数少ないぜいたくの一つといえるでしょう。
わたし個人としては、卵かけご飯をいただきたかったですねぇ。
ですが、ぜいたくも言っていられません。バチが当たります。
他の女子たちは、丁寧に行儀よく食べています。
おいしそうに、愛おしそうに。
教会では、貴重品ですからね。鳥のようについばんでいる女性もいました。
「ぱくっ」
殻をむき、わたしは一息で口へ放り込みます。
雑穀パンと一緒に食べると、これはまた。
うん。はい。物足りません……。
「はあ……」
もっとがっつりと卵料理が食べたいですねー。
オムライス? ハムエッグ?
たまごサンドもいいですね。
あと、プリンですか。
今日は、どこへ行きましょうか。
「どうなさいました、シスター・クリス?」
そんなふしだらなことを思案していると、後輩シスターちゃんが声をかけてきました。
「なんでもありませんよ! ささ、お食べなさい」
わたしは、後輩ちゃんに卵を分け与えます。
「いえいえそんな! 貴重な卵をおひとついただくなんて!」
「いいのです。みなさんには、少しでも健康になっていただかないと」
わたしは、付け合せのサラダとおかずに、雑穀パンをかじりました。お昼は豪華に行こうと心に誓います。
「その代わり、あなたは誰かに優しくして差し上げて」
「承知いたしました、シスターッ!」
後輩ちゃんは、午後の掃除当番を変わってくれるそうです。悪いので、もう一つの卵も与えました。
期せずして、一時的脱走の布石が整ってしまうとは。
主よ。わたしは、ズルい女です……。
「実は、またダイエットに失敗しました……」
ザンゲ室に来たのは、また例のジョギング女性のようです。
「あのスケルトン食堂は身体に毒だと思って、別ルートで走っていたんです。大通りの三本隣の脇道でした」
そこは住宅街で、市場からもやや外れています。誘惑らしきものはないはずですが。
「しかし、誤算がありました。その道沿いにも食堂があったのです」
通りの脇にあった食堂は、ドワーフの親子が営んでいるそうです。
「工具も手作りだと言っていました。そこの親子丼が、また最っ高だったのです」
「そのお話、詳しく!」
またも、食いついてしまいました。これはいけませんね。
「寡黙なドワーフ大将が作る親子丼は、フワフワしていて絶品でしたね。鶏肉の弾力といい、ダシの風味といい、格別でした」
「お酒が進んだでしょう?」
「よくご存知で。三杯イキました」
この方の生活リズムが、わたしにもだんだんわかってきた気がします。
「大将には息子さんがいるんですが、そちらはおうどんを担当しているんですよ。このうどんがまた、最の高なんです。親子丼でネットリに粘り気のこびりついた舌を、さっぱりと洗い流してきまして」
なんて、罪作りなお話をするのでしょう。
「ドワーフさんがいるということは、鍛冶場が近いと?」
「はい。外れに調理道具用の工房がありまして、利用者が食べに来ているようでした」
「たしか、近くに川がありますね。田んぼも」
それで、住宅街でも食堂があるというわけですね。ニワトリも卵も、農家から譲ってもらっているのかも。
ならば罪なのは、この女性ではありませんね。いえ、誰も悪くないです!
「例のごとく、メモを書きなさい」
「はい。免罪符ですね」
厳密には、違いますが。
「その場所まで赴いて、浄化して差し上げましょう。そうすれば、煩悩は取り除かれるはずです」
「ありがとうございます。場所は、こちらになります」
相談者から、メモを受け取りました。出発です。
朝の食卓を囲んでいるシスターたちが、色めき立っていました。
今日の朝食は、ゆで卵です。
カゴの中には、白い卵が並んでいました。
ひとりにつき、三個です。
しかも、農家から譲っていただいた、産みたてですよ。
我らシスターにとって、数少ないぜいたくの一つといえるでしょう。
わたし個人としては、卵かけご飯をいただきたかったですねぇ。
ですが、ぜいたくも言っていられません。バチが当たります。
他の女子たちは、丁寧に行儀よく食べています。
おいしそうに、愛おしそうに。
教会では、貴重品ですからね。鳥のようについばんでいる女性もいました。
「ぱくっ」
殻をむき、わたしは一息で口へ放り込みます。
雑穀パンと一緒に食べると、これはまた。
うん。はい。物足りません……。
「はあ……」
もっとがっつりと卵料理が食べたいですねー。
オムライス? ハムエッグ?
たまごサンドもいいですね。
あと、プリンですか。
今日は、どこへ行きましょうか。
「どうなさいました、シスター・クリス?」
そんなふしだらなことを思案していると、後輩シスターちゃんが声をかけてきました。
「なんでもありませんよ! ささ、お食べなさい」
わたしは、後輩ちゃんに卵を分け与えます。
「いえいえそんな! 貴重な卵をおひとついただくなんて!」
「いいのです。みなさんには、少しでも健康になっていただかないと」
わたしは、付け合せのサラダとおかずに、雑穀パンをかじりました。お昼は豪華に行こうと心に誓います。
「その代わり、あなたは誰かに優しくして差し上げて」
「承知いたしました、シスターッ!」
後輩ちゃんは、午後の掃除当番を変わってくれるそうです。悪いので、もう一つの卵も与えました。
期せずして、一時的脱走の布石が整ってしまうとは。
主よ。わたしは、ズルい女です……。
「実は、またダイエットに失敗しました……」
ザンゲ室に来たのは、また例のジョギング女性のようです。
「あのスケルトン食堂は身体に毒だと思って、別ルートで走っていたんです。大通りの三本隣の脇道でした」
そこは住宅街で、市場からもやや外れています。誘惑らしきものはないはずですが。
「しかし、誤算がありました。その道沿いにも食堂があったのです」
通りの脇にあった食堂は、ドワーフの親子が営んでいるそうです。
「工具も手作りだと言っていました。そこの親子丼が、また最っ高だったのです」
「そのお話、詳しく!」
またも、食いついてしまいました。これはいけませんね。
「寡黙なドワーフ大将が作る親子丼は、フワフワしていて絶品でしたね。鶏肉の弾力といい、ダシの風味といい、格別でした」
「お酒が進んだでしょう?」
「よくご存知で。三杯イキました」
この方の生活リズムが、わたしにもだんだんわかってきた気がします。
「大将には息子さんがいるんですが、そちらはおうどんを担当しているんですよ。このうどんがまた、最の高なんです。親子丼でネットリに粘り気のこびりついた舌を、さっぱりと洗い流してきまして」
なんて、罪作りなお話をするのでしょう。
「ドワーフさんがいるということは、鍛冶場が近いと?」
「はい。外れに調理道具用の工房がありまして、利用者が食べに来ているようでした」
「たしか、近くに川がありますね。田んぼも」
それで、住宅街でも食堂があるというわけですね。ニワトリも卵も、農家から譲ってもらっているのかも。
ならば罪なのは、この女性ではありませんね。いえ、誰も悪くないです!
「例のごとく、メモを書きなさい」
「はい。免罪符ですね」
厳密には、違いますが。
「その場所まで赴いて、浄化して差し上げましょう。そうすれば、煩悩は取り除かれるはずです」
「ありがとうございます。場所は、こちらになります」
相談者から、メモを受け取りました。出発です。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
37
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる