神が愛した、罪の味 ―腹ペコシスター、変装してこっそりと外食する―

椎名 富比路

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第一部 完 後編 カレーうどんは、罪の味 ~ケータリングで食べるカレーうどん~

ポテチの袋と、彼女の罪

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 後日、あれだけ強気だった相手方は、耳を揃えてお金を返してきました。

 誰の手引かは、すぐにわかりましたが。

 ことの顛末を聞くため、港で待ち合わせています。わたしは手に、ポテチを。うん、独り占めはやっぱり罪深うまいですね。

 やがて、すべての世界が止まって、背景がモノクロのようになりました。

「おまたせ」

 その中で唯一、白い馬車だけがこちらにやってきて、止まります。

「やはりあなたでしたか。ローラさん」

 シスター・ローラこと、元魔王のドローレスさんが、馬車から降りてきました。やはりというべきか、彼女の仕業だったようです。

 もはや、エンシェント院長とローラさんの組み合わせはチートと言わんばかりですね。
 
「で、例の女性は? どうなさったのです?」
「借金のカタに、大事なものをもらったんだ」

 うわあ。なんだか、聞きたくありませんね。

「で、どちらに?」
「あっち」

 そこには、日陰で地べたにうずくまっている、幸薄い老婆がいました。

「彼女から、あなたは何を奪ったのです?」
「寿命さ」

 お金をあげるかわりに、老婆になってもらったと。

「ひどいことをなさるんですね?」
「あいつの武器は、美貌だったからね」

 よく考えると、彼女は自分の知恵が回るタイプではありませんでした。指名手配されているというのに、金をむしり取ろうとしたあたりなんて特に。

 取り巻きも、彼女の容姿にだまされたがゆえに協力していたのでしょう。不憫なものです。

「が、そういった悲劇も、当分は起きないだろ。やつは最大の武器である美しさを失った。そうなれば、モロイものさ」

 シスター・ローラは言います。

「もちろん、返してやるよ。返せたらだけど」

 わたしは絶句しました。返せるわけないじゃないですか。あんな身体で。

「あいつにゃ、ちょうどいい制裁だよ」
「彼女が更生してくれれば、あるいは……」
「ムリだね。性根が腐ってる。あのまま死んだほうが、世のためだろうね」

 身も蓋もない。

「じゃあ、アタシはこのへんで」

 なんのフォローもなく、ローラさんは帰っていきました。

 まったく、あの元魔王シスターは……。



 モノクロだった景色が、元に戻りました。


 わたしは、ポテチを食べ終えようとします。

 残っている小さいポテチを、袋に詰めたまま手でグシャグシャに潰します。

 そうやって、一気に口へ流しこむ食べ方が、わたしは一番好きなのでした。



 物乞いまで落ちた彼女に、あげないのかって?
 
……それはそれです。
 
 シスターとしてなら、同然なのでしょう。

 しかし、わたしはシスターである以前に、モーリッツさんの友だちであることを大切にしたい。

 そう考えると、わたしが彼女に施しを与えるのは難しいのです。

 わたしは、彼女を許したわけではありませんから。

 実に、後味の悪いお話でしたね。

 ポテチも、なんだか味がしません。大好物だったはずなのに。

 最後のひとかけらって、もっとおいしかったはずだったんですけど。



 おや。

 一人の小さな少年が、老女と化した女性にパンを分けてあげました。


 坊や、その人はいろんな人に迷惑をかけた大罪人ですよ。

 そう教えてさしあげようかという邪な考えが、浮かんでしまいました。

 わたしの闇も、相当深いですね。

 何も知らなければ、彼女は悲しい物乞いの老女ですから。

 ですが、坊やがパンを置いた場所が最悪でした。

「あっ!」

 エサだと思ったのか、海鳥さんが一斉にパンを狙って急降下してきます。


 わたしはとっさに、空の袋に空気を詰めました。



 パァーンッ!



 空気が目一杯詰まった袋を、わたしは勢いよく叩きました。



 袋が破裂し、盛大に音が鳴ります。
 わたしの腕力もあって、とびきり大きな音が港に響き渡りました。

 その音にびっくりして、多くの人が頭を伏せます。

 海鳥さんたちも、音で飛び去っていきました。
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