神が愛した、罪の味 ―腹ペコシスター、変装してこっそりと外食する―

椎名 富比路

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パンケーキは、罪の味 ~港のオープンカフェのパンケーキ~

メシハラ

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 王女はわたしの前で、馬車を降りました。「どうぞ」といって、馬車に乗せようとします。

「ありがとうございます。でも、汗まみれで」
「そんなの、どうってことありませんわ。あなたの汗なら汚くありませんもの。ねえ?」

 御者さんが、ニコニコとうなずきました。

「ささ、早く早く」

 なおも、王女は催促します。

「では、お言葉に甘えて」

 わたしは、馬車に乗せてもらいました。ちょっとしたお散歩です。

「ごきげんよう、朝から運動ですの、クリスさん?」
「ええ。王女はこれからどちらへ?」
「習い事ですわ。といっても、また淑女たちの愚痴大会なんですけれど」

 心底嫌そうな顔をして、ウル王女はこぼします。

「右も左も、パワハラの嵐ですわ。うら若き乙女たちって、どうしてああも人の揚げ足取りに必死なのでしょう?」
「それは、うら若き乙女たちだから、ですよ」
「ほう、哲学的ですわね」

 大げさに、ウル王女が聞き耳を立てます。

「自分では何もできませんから、不安なのでしょう」

 温室育ちのお嬢様。世間のことなんて、何も知りません。
 自分だけで何かをなし得たことだってないでしょう。
 お嫁に行くのが、怖くて仕方がない。

「だから、他の方をあげつらって、自身を少しでも優位に保ちたい、と思っているのでしょう。そういう弱さが、悪口という形として現れているのかと」
「なるほど。自分のことで精一杯で、人のことなんてかまっていられないのですわね?」
「その点、あなたは仕事をなさっています。たとえばあのガス灯」



 わたしは、馬車の窓からガス灯を指差しました。


 ウル王女の成果は、街中にあるガスの灯りです。
 彼女たち王族がガスを市民にも提供してくれたおかげで、わたしたちは街を安全に歩けるのです。

「また、ロースター焼き肉という発明も」
「あれは、別の方ですわ。労働者階級の方です」
「それでも、ガスが普及しなければ貴族の独壇場でした」
「え、ええ。でもあれは、お父様が安心して夜遊びしたいと勝手に」

 わたしは、王女の口に指を当てました。

「あなたの優しさのなせる技です。お父様が夜を抜け出すのも、それによってあえて街の警備が強化されるからです。いわば、方便」
「よくご存知ですわね? まさか!」

 ウル王女が、頬を染めながら口を抑えます。

 あらら、誤解を招いてしまったようですね。

「いえね、以前、貴族のお嬢様を助けたことがありまして」
「あー。存じ上げております。ヘインズ男爵王女のステファニー・ヘインズでしょう?」

 ステフさんのことですね。
 彼女は貴族の地位を捨てて、ラーメン屋さんになりました。

「あなたのお話をステフから聞いて、俄然下々の生活が気になり始めましたの。お父様ったら、お忍びでラーメンを食べに行った話をわたくしに聞かせるのですよ! わざわざ! あれはメシハラですわ! もうイヤになりますわ!」

 メシハラって……。

「まさか、あなたの手引ではありませんわよね?」
「わたしがどうして、王族の外食に随伴をする必要があるのです? シスターは、夕方以降の外出は許可がいるのですよ?」
「そうですわよね。だいたいハシオが連れて行かれるし。まさかハシオが本命とか? ゆくゆくは側室に?」
「気が早すぎますよ、王女」

 そんな変な妄想を日頃からなさってるから、お父上はあなたとの行動を避けてらっしゃるのに。

「あ、着きましたわ」
「稽古場ですか?」
「いえ。朝食をいただきに」

 そういえば、朝食後にしてはえらい早いお着きだと。

「こちらでお食事にいたしましょう。ご一緒していただけるかしら?」
「は、はあ」

 ここ、さっき食べたところじゃないですか。

 気まずいながら、再び店員さんとあいさつをして着席します。

「あー、モーニング、おいしいですわ!」
「それはよかったです」

 マヨネーズたまごサンドをパクつきながら、ウル王女は幸せになったのでした。
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