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ヤンキー巫女と炭焼きサンマと、罪の秋 ~咎人青春編 その1~

秘境神社のヤンキー巫女

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 教会とは反対方向にある、山奥の神社へ、わたしは足を運びました。

 こんにちは、シスタークリスです。

 今日は、神社へやってきました。はじめてではありません。夏祭りのときに、お邪魔していますよ。

 あのときは浴衣でしたが、もうあんな薄着では肌寒い季節になりましたねぇ。

 教会と神社といっても、我々は敵対しているわけではありません。
 どちらが優れているでもなく、どちらを信じていてもいいのです。
「変な詮索や干渉はしない主義」を、貫いているのでした。
 棲み分けって、大事なんですよ。

 石段を登りきると、紅白の衣装を着た巫女さんが、ホウキで落ち葉を掃いていました。

「よっ、シスター・クリス」

 気さくに、長い黒髪の巫女さんが声をかけてきます。
 作業を終えてこちらに手招きをしてきました。
 わたしより遥かに背が高く、大きな胸にサラシを巻いています。
 それでも、はちきれそうですね。

「ごきげんよう。ソナエさん」

 彼女の名は、ソナエさん。

 この神社の跡取りで、「カンナギ」というクラスです。
 モンクであるわたしと同じ、「回復と武道をたしなむ」クラスですね。
 戦闘になったら剣術と巫術を使って戦います。

 まあ、わたしたちがパーティを組むことはめったにありません。
 役割が同じなので。

 ではなぜ、知り合いなのかと言うと……。

「持ってきたかい?」
「ええ」

 わたしの手には、生のお芋が。
 ソナエさんから「もってこい」と言われたので、大量に持ってきましたよ。

「足りますか?」
「ああ。十分だ」

 もうおわかりですね?
 わたしたちは「健啖家」仲間「でも」あるのです。

「庭に行こうか。さすがに神社で火は炊けねえや」

 二人がかりで落ち葉をアイテムボックスに入れて、神社脇の自宅へ移動しました。

「よっし。ここならいいだろ。やろうか」
「はい」
「まず、アイテムボックスから落ち葉をザバー」

 庭に、山のように落ち葉を積み上げます。

「続いて……フッ」

 ソナエさんが、手のひらに小さな鬼火を展開しました。
 それを、落ち葉にインします。

 わたしとの最大の違いといえば、ソナエさんは攻撃魔法が使えることでしょうかね。

「で、お芋もインしましょう」
「待った!」

 火の中へお芋を放り込もうとしたわたしを、ソナエさんが止めました。

「しばしの辛抱……と」
「そうなんですか?」

 これで、落ち葉が燃え尽きるのを待つというのです。長そうですね。

 その間に、ソナエさんとお芋に串を指していきます。

「焼き芋ってのは、火に直接かけちゃダメなんだよ。炭の熱になるまで待つんだ」

 燃え盛る火の中へ沈めても、表面がベチャッとなって中身が焼けないままなのだとか。勉強になりますね。

 パチパチ、と、落ち葉が音を鳴らします。
 この音だけでも、癒やされますね。

「そろそろだな」

 段々と火が消えて、炭の状態になりました。

「もういいぞ。そのまま、おき火で芋を焼こう」
「はい。どれくらい待つのでしょう?」
「一時間」

 うへえ……。

「まあまあ、その間、火にでも当たろうや」
「そうですね」

 二人して軒に座り、手を火にかざします。

「まだ、本格的な焚き火の季節じゃねえけどな」

 ソナエさんが、軒に出しておいたお酒の瓶を掴みました。
 歯で栓を抜きます。
 湯呑でドボドボと、漏れるのも構わずに注いていきました。

「あんたも?」
 お酒の口を、ソナエさんはわたしに向けてきます。
「いえい。わたし、お酒はちょっと」
「そうだったな。待ってな」

 言って、ソナエさんは台所へ。
 しばらくすると、急須をと汲み出し茶碗を持ってきてくれました。

「ほうじ茶ですか」
「焼き芋には、それが相性ピッタリだ」

 はあ、癒やされます。このお茶だけでも、十分満足できますね。

「くつろぐのは、まだ早いぜ。のんびり火にあたってようぜ」

 ソナエさんが、お酒を煽ります。

「あれからどれくらい経つ?」
「五年、ですかね」
「早いな。あたいがアンタにケンカふっかけたの」

 そう。わたしたちはケンカで知り合ったのでした。
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