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第三部 湯けむりシスター 冬ごもり かに……つみ…… ~温泉でカニ三昧~

カニ雑炊で、罪の深淵を覗く

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 女将役の女優さんが、わたしたちに問いかけてきました。

「先に殻を火で炙っておく方法もあります。香ばしさは強くなりますが、カニ本来の旨味が飛んでしまいますので」
「なるほど。いいよ、このままで頼む」

 女将が告げると、ソナエさんがうなずきました。
 ここは女将に任せることにしたようです。

 わたしたちが食べたカニの殻を、女将が水を張ったお鍋の中へ。
 そのまま、ガスを通したコンロで茹でます。
 目の前で茹でてくれるなんて、いいですね。

「いい香りがしてきましたよ」
「興奮するよなぁ」

 ソナエさんとともに、できあがりを待ちわびます。

 しばらくすると、カニのエキスがお鍋の中で熟成されていきました。
 色が出てきましたよ。

「これで、うどんもイケるんだよ」
「その手がありましたか。そちらもお楽しみとして覚えておきます」

 次の機会があれば、ぜひお試ししたく。

 ダシを取った殻を、女将とポーリーヌさんがすくっていきました。
 これも演技シーンだそうです。

 女将が箸で挟んでいた殻がぶつかって、ポーリーヌさんの持っていた殻がお鍋にダイブしてしまいました。

「おっと」

 お湯が跳ねてきます。わたしはサッとかわしました。

「あ、危ないでしょ!? お客様にかかったらどうなさるおつもりだったの?」

 ハプニングを、アドリブで乗り切るおつもりでしょうか?
 女将役の女優さんが、ポーリーヌさんを攻め立てます。

「申し訳ありません!」

 三指をつき、ポーリーヌさんがわたしにお詫びしてきました。

「お気になさらず」

 小声で、わたしは頭を下げ返します。

 しかし、今の動きですが……。

 最後にライスと生卵を入れます。

 おしょうゆで味を整えて、雑炊が完成しました。

「いただくよ……こいつは、厄払ヤバい!」

 先に、ソナエさんが大興奮します。

 続いて、わたしもいただきましょう。

「では、いただきますね……うーん! 最高に罪深うまいィ!」

 声が裏返りました。

「ととのっています! ノドも舌も!」

 ああ、まだこんな隠し味を残していましたか。なんとまあ。

 女将がすくった雑炊の量は、ほんの少しです。
 なのに、味がとても濃い。
 さっき食べた身とはまるで違う味わいが、舌からノドをカニ歩きしていきました。

「あったまりますね」
「カニの温泉を食ってるみたいだ」

 外の湯けむりを眺めながら、ソナエさんが感想を述べます。

「いい表現ですね」

 温泉に使ったカニのエキスを、直に頂いている気がしますね。
 これはすばらしい。

 とんでもない料理と巡り会いましたね。

「あ、しまった」

 思わずと言った様子で、ソナエさんが口を手で覆います。

 そうでした。喋っちゃダメだったんでしたね。

 めっちゃ感想戦になってしまいました。

 非礼をわびて、黙礼します。

「撮り直しでしょうか?」

 小声で、監督に聞きました。

 監督は首を振ります。
 OKサインを指で作って、我々を落ち着かせてくれました。

 その後、演技の方は順調に進みます。

 我々はエキストラに徹し、カメラを意識しないように雑炊を食べ続けました。

 途中、ちょっとしたハプニングもありましたが、何事もなくてよかったです。

 休憩に入ったので、我々はストーカー被害について話し合いました。

「それにしてもさ、妙だよな」
「と、いいますと?」
「熱狂的なファンの仕業にしては、手口がヌルい。しかし、効果的だ」
「そうですよね」

 つけまわすまでは、彼女が怖がるだけです。
 手紙に関しても、簡素なんですよねぇ。

「なんだか、愛情が見られません」

 この手の犯行には、歪んだ愛ゆえの葛藤などが見られるはず。
 ポーリーヌさんの話からは、歪さがありません。
 さっぱりしすぎています。

「そこだよ。あたしが言いたかったのは。つまり……」
「はい。ストーカーに見せかけた嫌がらせなのではないかと」

 そこまで言いかけて、突然旅館が騒がしくなりました。

「みなさま、そこを動かないでくださいまし!」

 現れたのは、ウル王女です。
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