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第三章 今度の敵はバイク! 魔獣少女の夏

第25話 魔獣少女の弟

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 今日は、夏休みの宿題を我が家でやることになった。

「ああ、疲れた」

 また一時間も経っていないのに、マナさんがもう音を上げる。

「ちゃんとなさいよ、マナ。まだ歴史が終わったばかりじゃないの。まだ英語とかあるのよ」
「だってよお」

 臨也イザヤさんの手にかかると、さしものマナさんもすっかり子どもじみた感じになる。

 ウチにお友だちなんて連れてきたのも、ずいぶんと久しぶりな気がする。陰キャなので、まともに友だちなんてできなかったのだ。魔獣少女になって、少し得をしたような気がする。

 ドアをノックする音が。 

「姉ちゃーん、ジュース」
「今開けるー」

 お盆を持って、弟が立っていた。ユニフォーム姿で。お盆には、ジュースと茶菓子類が乗っていた。

「こ、こんにちは」
「こんにちは、ジローくん。ジュースありがとー」

 ユキちゃんが率先して立ち上がり、ジュースを受け取る。

 軽くユキちゃんの手が触れただけで、我が弟ジローは赤くなった。

「どうしたの?」
「い、いえ」

 どストライクのお姉さんに顔を覗き込まれて、弟ジローはなおも赤面していく。

「ちょっと失礼」

 わたしは一旦ドアの向こうに、弟を壁ドンした。

「おい、お前はユキちゃんが好みなのか? それとも聖乳が好みなのか? だったら臨也さんなどもよりどりだ」

 花山薫のような選択を、弟に迫る。

「姉ちゃん、そいつは言っちゃあいけねえな」

 戦闘になっても仕方ないほどの殺気が、みなぎってきた。

「ジローくんは試合なの?」

 張り詰めた姉弟の熱気を鎮めたのは、ユキちゃんの言葉である。

「はい。練習試合で他県の生徒と」
「がんばって!」
「ありがとうございます。失礼します」

 弟は去っていった。

 いけない。友だちに色目を使ってきたので、ムキになってしまうとは。

 でも、あれからユキちゃんを守らないと。うーん。

「ヒトエの弟って、ジローって言うんだな?」
「はい。サッカー部のエースです」

 試合は夕方からだっけ。ちょっと覗いてきてやるか。

「だから、ユニフォームを着ていたのね?」
「きれいな女の子に囲まれて、ドキドキしてましたよ」

 軽く談笑した後、ユキちゃんの話題に。

「ねえ、前から気になっていたんだけど、来栖クルスさんと藤白フジシロさんって、接点なんてなかったわよね?」
「そうですね。一年の頃は別のクラスでした」

 ユキちゃんも、うんうんとうなずく。

「いつごろ仲良くなったの?」
「つい最近ですよ」

 彼女との出会いは、魔獣少女絡みだ。

「えっと、夜に誰かにつけられている気がして、ヒトエちゃんに相談したの」
「来栖さんは、警察官のお嬢さんだもんね」
「うん。それでね。家も近いから一緒に帰るように」

 実はそのストーカーが、魔獣少女だった。その少女は、ユキちゃんのようなおとなしそうな子を手籠にしようとしていたのである。

 そのストーカーを、わたしが撃退したと。

『楽勝だったぜ。あのヤロウ』

 バロール先輩が、みんなに聞こえないように威張る。 

 少女の方は、父に任せた。魔獣少女だった当時の記憶もなく、ユキちゃんとの面識もなかった。今は、ユキちゃんを追い回すような真似はしていない。

 もちろん、ユキちゃんはわたしの正体には気づいていないはずだ。

 マナさんのようにカンが鋭くなければ。

 その後も勉強をしていたが、だんだんと飽きてきた。

「さすがの私も、こうも勉強漬けだと頭が茹で上がるわね」
「じゃあ弟の試合、見に行きます?」
「いいの?」
「いいですよ。こんなに美少女が応援に駆けつけたら、アイツは喜びますよ」
「じゃあ、おにぎりでも持っていこう」と、話がまとまる。

 わたしたちは、思い思いのおにぎりを作った。弟は昼飯を食って出ていったが、オヤツ程度にはちょうどいいだろう。

「学校は、すぐそこなのでええええええええ!?」

 なんと、弟たちが倒れていた。

 グラウンドの中央にいたのは……。

「うーん、ショタショタ。みーんな、ショタッ!」

 バイクと一体化した魔獣少女だった。
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