カリスマ女社長から「キミしかいないんだ」とせがまれて、月収三〇万でポンコツ美人社長のゲームコーチに配属された。これは辞令ですか?

椎名 富比路

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第七章 コレは社員旅行ですか? 合宿にしか思えないのですが?

メンバー限定 疑似デート動画

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 ひめにこに扮している社長を、オレに撮影して欲しいという。

「オレが相手役、ですか?」
「はい。隣にいるという設定でお願いします」

 スマホを構え、社長の後ろに続けばいいらしい。

「社長のアシストなんて、オレに務まるでしょうか?」
「あなたじゃなければ、サブスクリプション用の疑似デートは不可能です」

 我が社も「サブスクリプション」制度を始めた。つまり、月々に定額料金を納めてもらうシステムである。代わりに有料メンバーへ向けて、限定動画を提供するのだ。

 マヒルちゃんは、個人のチャンネルで有料契約者を募集していない。人をお金で区別する気がないからだ。全員が客だと、マヒルちゃんは考えている。

 だが、ひめにこのコンセプトは「人集め」だ。なので、メンバーは募集する。

「梶原さんと一緒では、ダメなんですね?」
「はい。梶原さんは、背が高すぎるんです。撮影スタッフとしても難しくて」

 二メートル近い梶原さんと一緒だと、デートという雰囲気が出ない。視点が高すぎるのだ。

「それに、ゲームライターさんは面が割れています」

 いくらデートっぽく映そうとしても、視聴者からはどうしても、梶原さんの顔がちらついてしまう。これではどれだけデートと説明しても「取材でしょ?」と思われる。

 取材なら、梶原さんがベストだ。だが、今から撮影するのはデートである。主役は、視聴者なのだ。

「その点、花咲さんなら問題はありません。デートっぽくなるでしょう」

 オレは、ぴよぴよさんの説得に応じた。

「やってみましょう。顔を映さないことに注意ですね」
「そうです。では本番いきますので」

 遠目から映す役割は、ぴょぴよさんたちがやってくれるとか。

「イヤホンから指示を出しますから、聞こえますか?」
「大丈夫です」

 確認のあと、すぐに撮影がスタートした。

「じゃあ、行こうか」

 スマホをコクコクと動かし、うなずいている雰囲気を出す。
 社長から、手を差し伸べられた。

「繋いで。繋いで」と、指示が飛ぶ。

 黙ってうなずき、オレは社長の手を取る。

 すごく熱い。社長も、緊張しているんだな。それに柔らかい。

「どうした、手が熱いぞ。緊張しているか?」

 飯塚社長が、首をかしげる。

「え、しゃべっていいんですか?」

 一応、ぴよぴよさんに確認を取る。

「構いません。音声は編集時に、マヒルちゃんのを乗せるので」

 万が一顔が映っても、ひめにこの顔で上書きするという。それくらいの設備はあるらしい。

「はい。じゃあ社長、こっちです」

 オレが声をかけると、社長はムスッとした。

「イーさんと呼べ、ハナちゃん」
「そうだったな。じゃあイーさん。こっちだ」

 まるで、ホンモノのひめにこを連れているかのようだ。二〇代後半の女性が制服を着ているなんて違和感も、すっ飛んでいく。

「いいですよ。そのまま移動しましょう」

 ぴよぴよさんの先導で、記念館を進む。

「こっちに面白いマシンがあるぜ」

 イーさんの手を引いて、エレメカを遊ぶ。じゃんけんマシンをやっているだけでも楽しい。オレも、童心にかえったように楽しんだ。

「エアホッケーしよう」
「おっ。いいね。オレもゲーセンでよく遊んだよ」

 対戦ゲームといえばこれ、と言われるほど、有名な筐体だ。

「負けたらジュースな」
「ドンとこい、ハナちゃん」

 一〇〇円のカップジュースを掛けて、エアホッケーでの勝負が始まった。

 ディスクを打つ。

 カコン、と軽快な音を立てて、イーさんがディスクを跳ね返してきた。

 オレは、強めに打ち返す。

「あっ!」
「よし、一点」
「容赦ないな。レディーファーストとはいかないか」
「ジュース掛かっているからな」

 次のターンは、イーさんのサーブだ。

「よーし、ハナちゃんが弱そうなポイントを狙って」

 イーさんがかがんだ。その拍子で、イーさんの胸の谷間が制服の隙間から。

「スキあり」

 なんてことのないサービスエースで、オレは一点を返される。

「今のわざとだろ?」
「何がだ?」

 オレが抗議すると、イーさんはきょとんとした顔になった。サービスエースが華麗に決まったと、本気で思っているらしい。

 その後、オレは適度に勝って程よく負けた。共にマッチポイントという、いいカンジの状況を作り上げる。

「懐かしいなぁ。こんなの、高校のとき以来だ」

 学生時代、友だちとチームを組んで遊んだっけ。ボーリング場に置いてあって、息抜きでエアホッケーも遊んでいたのを思い出す。そこからゲーセンに行って、カラオケをするのが定番だった。

「私は初挑戦なんだ。友だちがいなくてな」

 イーさんが落ち込む。

「高校入学当時から、企業を計画していたから」
「作ろうと思ったことは?」
「ないな。当時は、同学年の人脈を広げようとは、想像したこともなかった」

 イーさんは学生らしいことを、あまりしたことがないという。
 JKという数少ない貴重な体験を、イーさんはビジネスに費やしてしまった。それこそ人生の価値戦略だと思って。
 そのせいで、女性らしいことはすべて捨ててしまっている。

「じゃあ、オレがイーさんのズッ友だな!」

 イーさんが硬直し、ポイントが入った。

「あっ、イーさんジュースおごりだぜ」

 最後くらい、イーさんに勝たせようと思っていたんだが。
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