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第七章 コレは社員旅行ですか? 合宿にしか思えないのですが?
二人きりになってしまったな
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「たこ焼きがあるぞ!」
縁日をめぐりながら、イーさんがはしゃぐ。
オレの方は、片手にスマホ、もう片方の手は買ったもので塞がってしまった。
「待ってろ。食べさせてやろう」
爪楊枝で、イーさんがオレにたこ焼きを食べさせてくれる。
「ありがとう。うまい!」
「ソースが口に」
上等なハンカチで、イーさんがオレの口周りを拭いてくれた。
「スマン。いいハンカチなのに」
「ハンカチは、こういうときのために使うんだ。遠慮しなくていいぞ」
見晴らしのいい場所まで、イーさんと移動する。
「きれいだな! 迫力がある!」
とても乙女の感想とは言い難い発言が続き、二人で花火を眺めた。
嬉しそうなイーさんを撮りながら、オレは黙り込む。花火が打ち上がる中、オレはイーさんに声をかけられずにいた。
熱々だったはずのたこ焼きも、すっかり熱を失っている。買ってから、相当の時間が経っているのだろう。それくらい、沈黙していた。けれど、不思議とイヤな流れではない。しみじみと花火を見ながら、まったりしている感じである。
「なんか、二人だけになってしまったな」
会話を弾ませようとしたのか、イーさんが声をかけてきた。
「そうだな。でも、いいんじゃないかな? 撮影もあるし」
「うん。うむ……」
どうしたんだろう? やけに歯切れが悪い。
イーさんの顔が、花火に照らされた。どことなく、言い淀んでいることがあるかのような。
しかし、聞けば二度と口を聞いてくれない気がして、オレから切り出すことができなかった。
「前から気になっていたのだ。仮にだぞ? ハナちゃんは、年上の女性はどう思うんだ? 恋愛対象になるか?」
「あ、その、なんだ。気にしない。まったく。恋愛は、自由だろ」
オレだって、いい歳だ。選り好みはできない。第一、選んでいる時点で恋愛と呼べるのか謎じゃないか。
「奥さんと一五離れた知り合いがいるんだが、三人の子供に恵まれて幸せにしている。だから、関係ないかなって」
「そうか。キミは、そういうと思っていた」
はあ、とイーさんがため息をつく。その後、少し黙り込んでしまう。
「たこ焼き食って、一息入れるか?」
腹に何かを入れたら、落ち着くかも。
しかし、イーさんは「いらない」と遠慮した。
「では、社会的にステータスの高い女性となったら、どうだ? やはり、引いてしまうんだろうか?」
イーさんの質問に対して、オレは首を振る。
「拒絶するなんて、がんばっている人を否定する行為だろ。もし交際してくれるなら、全力で応援するさ」
代わりに家を支えてくれと言うなら、喜んで引き受けよう。
「カネ目当てだとか、ヒモと思われたりするかもしれないんだぞ?」
「言わせておくさ。そんなの」
たしかに、オレだって好き勝手欲しい物を無限に手に入れられるなら、買いたい。しかし、それと恋愛は別だ。その人との時間が苦痛であるなら崩壊し、健やかであるなら一生続くはず。
「でも、帰りがどうしても遅くなったり、付き合いたくもない相手とも交渉しなければならない時があって、きっとヤキモキするだろう。そんな思いをさせながら、交際を続けられるのか、私は心配なのだ」
「待つよ、オレは。ゲームでもしながら」
交際できるだけで、ラッキーなんだ。ぜいたくは言えない。
「キミは自己肯定感が低いのか高いのか、わからないな」
「よく言われる」
「そういうところも含めて、キミの魅力なのかもな!」
こんなところで二人きりになると、イーさんの発言でも勘違いしてしまいそうになる。
「私は、交際に必要なのは、人だと考えている」
「う、うん。つまり?」
「私は、恋をしてみたい」
ドキリとした。イーさんでも、飯塚社長でも、こんな気持ちになるのだと。
「もちろん金も大事だ。また、現状維持に回ったら食い物にされる。安定なんてないんだ。だから走り続ける必要がある。しかし、そのために犠牲にしてきた感情だってある。その一つが恋愛だ」
「好きな人がいるのか?」
イーさんは、コクリとうなずく。
遠慮の塊が、オレの中で膨れ上がっていった。
「じゃあ、オレは邪魔だったんじゃないか? せっかくの休みなのに、オレなんかと一緒にいて」
ブンブンと、イーさんが首を激しく振る。
「違うんだ。私は……その……」
「こんなオレでは、恋愛シミュレーションの参考にならないよ」
「そうじゃない! キミはとってもよくしてくれた! キミと過ごす時間は楽しくて、夢中になった! 同時になんだか、キミとずっと一緒にいたい気分になっていたんだ!」
感情的になって、イーさんが言葉を放ち続けた。
鈍いオレにだって、イーさんに向けられている心がどんなものかはわかる。
しかし。
「多分、私はキミが――」
「待った!」
オレは、ストップをかけてしまった。
「それ以上はダメだ。イーさん」
今聞くと、オレだってどうにかなってしまう。
「もっと、よく考えよう。今は、一緒にい過ぎた。冷静になった方がいい。花火みたいに熱くなってるだけだって」
「そうかな? 私は、極めて冷静なつもりなんだが」
だよな。多分オレの方が、ためらっている。
何をビビってるんだ、オレは?
縁日をめぐりながら、イーさんがはしゃぐ。
オレの方は、片手にスマホ、もう片方の手は買ったもので塞がってしまった。
「待ってろ。食べさせてやろう」
爪楊枝で、イーさんがオレにたこ焼きを食べさせてくれる。
「ありがとう。うまい!」
「ソースが口に」
上等なハンカチで、イーさんがオレの口周りを拭いてくれた。
「スマン。いいハンカチなのに」
「ハンカチは、こういうときのために使うんだ。遠慮しなくていいぞ」
見晴らしのいい場所まで、イーさんと移動する。
「きれいだな! 迫力がある!」
とても乙女の感想とは言い難い発言が続き、二人で花火を眺めた。
嬉しそうなイーさんを撮りながら、オレは黙り込む。花火が打ち上がる中、オレはイーさんに声をかけられずにいた。
熱々だったはずのたこ焼きも、すっかり熱を失っている。買ってから、相当の時間が経っているのだろう。それくらい、沈黙していた。けれど、不思議とイヤな流れではない。しみじみと花火を見ながら、まったりしている感じである。
「なんか、二人だけになってしまったな」
会話を弾ませようとしたのか、イーさんが声をかけてきた。
「そうだな。でも、いいんじゃないかな? 撮影もあるし」
「うん。うむ……」
どうしたんだろう? やけに歯切れが悪い。
イーさんの顔が、花火に照らされた。どことなく、言い淀んでいることがあるかのような。
しかし、聞けば二度と口を聞いてくれない気がして、オレから切り出すことができなかった。
「前から気になっていたのだ。仮にだぞ? ハナちゃんは、年上の女性はどう思うんだ? 恋愛対象になるか?」
「あ、その、なんだ。気にしない。まったく。恋愛は、自由だろ」
オレだって、いい歳だ。選り好みはできない。第一、選んでいる時点で恋愛と呼べるのか謎じゃないか。
「奥さんと一五離れた知り合いがいるんだが、三人の子供に恵まれて幸せにしている。だから、関係ないかなって」
「そうか。キミは、そういうと思っていた」
はあ、とイーさんがため息をつく。その後、少し黙り込んでしまう。
「たこ焼き食って、一息入れるか?」
腹に何かを入れたら、落ち着くかも。
しかし、イーさんは「いらない」と遠慮した。
「では、社会的にステータスの高い女性となったら、どうだ? やはり、引いてしまうんだろうか?」
イーさんの質問に対して、オレは首を振る。
「拒絶するなんて、がんばっている人を否定する行為だろ。もし交際してくれるなら、全力で応援するさ」
代わりに家を支えてくれと言うなら、喜んで引き受けよう。
「カネ目当てだとか、ヒモと思われたりするかもしれないんだぞ?」
「言わせておくさ。そんなの」
たしかに、オレだって好き勝手欲しい物を無限に手に入れられるなら、買いたい。しかし、それと恋愛は別だ。その人との時間が苦痛であるなら崩壊し、健やかであるなら一生続くはず。
「でも、帰りがどうしても遅くなったり、付き合いたくもない相手とも交渉しなければならない時があって、きっとヤキモキするだろう。そんな思いをさせながら、交際を続けられるのか、私は心配なのだ」
「待つよ、オレは。ゲームでもしながら」
交際できるだけで、ラッキーなんだ。ぜいたくは言えない。
「キミは自己肯定感が低いのか高いのか、わからないな」
「よく言われる」
「そういうところも含めて、キミの魅力なのかもな!」
こんなところで二人きりになると、イーさんの発言でも勘違いしてしまいそうになる。
「私は、交際に必要なのは、人だと考えている」
「う、うん。つまり?」
「私は、恋をしてみたい」
ドキリとした。イーさんでも、飯塚社長でも、こんな気持ちになるのだと。
「もちろん金も大事だ。また、現状維持に回ったら食い物にされる。安定なんてないんだ。だから走り続ける必要がある。しかし、そのために犠牲にしてきた感情だってある。その一つが恋愛だ」
「好きな人がいるのか?」
イーさんは、コクリとうなずく。
遠慮の塊が、オレの中で膨れ上がっていった。
「じゃあ、オレは邪魔だったんじゃないか? せっかくの休みなのに、オレなんかと一緒にいて」
ブンブンと、イーさんが首を激しく振る。
「違うんだ。私は……その……」
「こんなオレでは、恋愛シミュレーションの参考にならないよ」
「そうじゃない! キミはとってもよくしてくれた! キミと過ごす時間は楽しくて、夢中になった! 同時になんだか、キミとずっと一緒にいたい気分になっていたんだ!」
感情的になって、イーさんが言葉を放ち続けた。
鈍いオレにだって、イーさんに向けられている心がどんなものかはわかる。
しかし。
「多分、私はキミが――」
「待った!」
オレは、ストップをかけてしまった。
「それ以上はダメだ。イーさん」
今聞くと、オレだってどうにかなってしまう。
「もっと、よく考えよう。今は、一緒にい過ぎた。冷静になった方がいい。花火みたいに熱くなってるだけだって」
「そうかな? 私は、極めて冷静なつもりなんだが」
だよな。多分オレの方が、ためらっている。
何をビビってるんだ、オレは?
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