伝説の武具のサイズが合いません⁉ 聖女をダイエットさせろ!

椎名 富比路

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第一章 たいしぼう! (二ヶ月以内に、体重をしっかり落とさないと世界滅亡!)

ポンコツ聖女 セリス・イエット・ロクサーヌ

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「申し訳ありません。裸まで見てしまうなんて」
 セリスという少女を前に、ライカはずっと頭を下げ続けた。

 既に少女は着替えを終えており、宝物庫のソファにポツンと座っている。

 あれは目に毒だった。忘れようとも当分忘れられないだろう。
 鼻血が出なかっただけでも奇跡だ。
 女性から見ても、セリスの裸体は美しすぎる。

 心臓の鼓動が止まらない。生唾を飲む。
 思い出してはいけないと思っても、聖女セリスの艶めかしい姿が目に焼き付いて離れない。

「いえ、わたしは、大丈夫です。それより武具を着られないのが辛くて」
 優しい声でセリスは語った。

 目の前にいるのは、長い金髪を緩く一本三つ編みで結んだ少女が。
 上は清楚な半袖のブラウスにレースのボレロを羽織っている。
 下は、黄色いミニスカートと白いニーソックスだ。
 どちらにも花の刺繍が丁寧に施されている。

 ただ少し気になるのは、一五歳にしてはややポッチャリめという点だろうか。
 特にどっしりと肥えているワケではない。
 お腹の肉が若干たるんでいて、ややニーソックスから肉がはみ出ている程度である。
 
 が、全く気にならない。
 むしろ人によってはストライクゾーンではなかろうか。

 いかん。また頭の中でセリスのプロポーションを想像してしまった。

「改めまして、セリス・イエット・ロクサーヌです。よろしくお願いします」
 少女セリスがかしこまって、ソファから立ち上がる。
 ペコリと可愛らしく頭を下げた。

「それでは、この方が?」

 ここはキャスレイエットだ。そしてここは、領主の家。つまり。

「そうよ。彼女があたしの義理の妹で、選ばれた聖女なの」

 こんなか弱いお嬢様が聖女とは。線も細く、ロクに筋肉も付いていない。

 自分はモンクと呼ばれる武芸者職で、修行僧だから分かる。

 彼女はまともな武芸の修行を積んでいない。
 目を見れば予想できるが、人やモンスターどころか、虫も殺せないのでは?

「ライカ・ゲンヤです。かしこまらずに、ライカと気軽にお呼び下さい」
「わたくしもセリスとお呼び下さい」
「では、セリスさん、よろしくお願いします」

 座したままで、互いに頭を下げ合う。

「聞けば、ライカさんは大変お強いとお聞きしましたが?」

「先日、故郷の統一王者という栄冠をいただきました」
 ライカは、武術大会のいきさつをセリスに聞かせる。
 世界有数の強者を相手にした感想、どうやって勝ち進んだか、などを話す。

「あ、すいません! 話し込んでしまって」
 自分の話に夢中になりすぎて、セリスが退屈してしまったと思った。

「とりあえず、ウチのライカはスッゴいんですよ。大陸王者にまでなったことがあるくらいです」

「それはそれは、お若いのにスゴいんですね、お義姉さま」
 イヤな顔一つせず、セリスは微笑む。まるで自分の事のように喜んでいた。

 うっとりするセリスの顔に、ライカは思わず照れてしまう。

「ミチルさん、セリスさんをやせさせろ、というのは?」

「彼女を、聖女セリスをほっそりした体型にして欲しいの」
 困惑が顔に出ていたのか、ミチルが再度口を開く。

 肩の力がガクリと落ちる。

「大丈夫?」
 よほどショックな顔をしていたのか。心配そうな声がミチルから発せられる。

 事実、ミチルに声を掛けられるまで、ライカは放心していた。

「そんなことのために、ボクに手紙をくれたのですか?」
 幼なじみを前にし、思わず本音が漏れる。

 文を読んで早々、ライカ・ゲンヤは軽く身支度をしてから谷を飛びだした。
 寝食も忘れて野を越え山を越えること数日。
 一週間はかかる旅路を五日で踏破し、地図を頼りに、ようやくキャスレイエットへ到着したというのに。

「自分は魔王討伐隊に選抜された。修行の成果が認められた」と心を躍らせていた。
 その仕打ちがこれか?

「そんなこととは何よ。こっちとしては死活問題なの。あんたの腕を見込んで頼んでるの」
「確かに、ボクは昔、ミッちゃんをダイエットさせた経験がありますけど?」

 丸々と太っていた彼女を、ライカは三ヶ月でスッキリと減量させたのだ。
 嫁に行くからと。
 おかげで彼女は、ラファイエット夫人という栄誉を得た。

「でも、それはミッちゃん本人の努力であって、ボクは関係ないです」
「大アリよ。あなたのダイエット法が、セリス様に役立たないはずがない」
「そもそも理由は? 魔王復活と関係があるのですか?」

 先ほど、死活問題だとか言っていたが。

「あるのよ。これを見て」

 青いカーテンが、また開かれる。

 そこにあったのは、ドレスアーマーだ。
 生地は青く、所々に銀の装飾が施されている。
 全体的にスレンダーなサイズだ。

「これは、さっきセリスさんが着ようとしていた水着ですよね?」
「水着じゃないわ。伝説の武具、サーラス・ヴィーよ。魔王に対抗できる唯一の鎧なの」

 腰の辺りに、何やら装飾品が引っかけられている。
 剣のようだが、柄しかなく、鞘も刃も見当たらない。

 これが武具だと? どう見てもセクシーな水着にしか見えない。

「刃がありませんよ、この剣」
「魔法剣よ。プラーナを集中させることで、プラーナで形成された刀身が姿を現すの」

 プラーナとは、この世界における魔力の総称である。
 人間の体内や自然界のエネルギーは、すべてプラーナの影響を受けているのだ。

「不思議でしょ? でも、あなたになら分かるはずよ。この武具に、相当量のプラーナが内蔵されているのを」

 ミチルに言われて、ライカは目をこらしてみる。

 言われてみれば、プラーナの反応が。
 それも、かなり高いレベルの質量で。
 とはいえ布面積が極端に少ない。
 これでは単なるビキニアーマーだ。

「それで、この魔法の塊みたいな鎧と、彼女に何の関係が?」
「この鎧は、魔王を倒せる唯一の武装なの。けれど、今のセリス嬢にはこれを装着できない」
「資格がない、ってことですか?」
「セリス嬢は、体内エネルギーであるプラーナの総量とか、素質は十分備わっているの。鎧に過去の戦闘記録などを呼び起こす機能があるから、戦闘面はそれでカバーできるわ」

 戦闘力は、特に考えなくてもいいと。ならば、武術特訓はそれなりでいいか。

「ただ……身体が太りすぎていて」

 ライカは、視線をセリス姫に移す。

 これで? と目を疑いたくなる。

「あなたの言いたいことは、わかるわ」
 ミチルが、コクコクとうなずく。

「見た目的には、あたしもセリス様は及第点ってことろなんだけど、鎧からすると、そうでもないみたいなの」
 ライカの疑問を察知したのか、ミチルが代弁してくれた。

 確かに、セリスの胴には若干お腹の肉が余っている。
 指で摘まめばプヨンと贅肉が掴めるだろう。
 太股のニーソックスからは、やや肉がはみ出ている。

 とはいえ、ライカからすれば許容範囲だ。ライカがやせ過ぎなくらいである。
 これで太りすぎというなら、世の女性たちは全員ふくよかだと言わざるを得ない。

 ライカ的には、これくらいな方が愛らしいのだが?

 セリスは申し訳なさそうに、「お恥ずかしい限りで」と、腰の辺りで手を組んでモジモジしている。

「大体、鎧の構造からして極端すぎるのよ。きっちり装着しないと、鎧に秘められたプラーナを解放できないなんて!」
 ミチルが憤慨して腕を組む。

「御覧の通り、姫様は少し減量が必要なの。あなたの雷漸拳が頼りなの。何とかして身体をやせさせて、鎧を着て戦わないと」

「ボクがそれを着て、魔王を倒せばいいのでは?」

 それなら手っ取り早い。
 こんな弱そうな姫様に、世界の将来を背負わせる必要がどこにあるというのか。

「着てみれば、わかるわ」
 さして反対もせず、幼馴染は促した。
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