伝説の武具のサイズが合いません⁉ 聖女をダイエットさせろ!

椎名 富比路

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第一章 たいしぼう! (二ヶ月以内に、体重をしっかり落とさないと世界滅亡!)

セリスはやせられるか⁉

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「さっそく、つけてみましょう」

 おさななじみの反応が気になるが、自分が聖女の代わりができるなら、それに越したことはない。武具を装着してみる。

 想像していたが、胸は相当ブカブカだ。

 セリスのバストは九〇近いらしい。

 対して、ライカのバストは七二と、比較にならなかった。これは体質ゆえ、許容範囲だろう。

 腰回りは、随分とタイトなサイズである。しかし、着心地は悪くない。

「わあっ、ピッタリですね」
 セリスはうっとりと、武具を身に着けたライカに見とれている。

「さて、これで魔王を……あれ?」

 しかし、いざ魔法の剣を発動させようとしても、何も起きなかった。プラーナが身体じゅうを駆け巡るはずなのに。

「やはりお胸がないと、お話になりませんか?」
「そういう問題じゃないの」

「ボクが装備できたら、セリス様を戦わせずに済んだのに」
 装備を外しながら、ライカはガッカリする。

「ありがと。でも、そもそもアンタじゃ無理なの」 

 伝説武具は、ロクサーヌ家でないとパワーを発揮できないという。

「しかも、あの鎧を着た状態で倒さないと、やっつけたとしてもすぐに復活してしまうわ」

 めんどくさい仕組みだ。

「このお腹じゃなければ、あたしがセリスお嬢様に訓練を、と考えたんだけどね」
 ミチルは、お腹をさすった。八ヶ月だという。

「無理はしないで下さい。けれど、ボクなんかでいいのでしょうか?」

「噂には聞いてるわよ。あたしが故郷を出た後も、結構な人数をやせさせたって」

 ミチルの言葉に、ライカは首を振る。
「確かに、雷漸拳は減量には最適でしょう。ですが、減量できた
のは彼女たちが努力した結果です。ボクたちは導いただけ」

「その導きを、セリスお嬢様に伝授して欲しいの。お願いできる?」
 懇願するように、ミチルが手を組む。

 その隣で、困った顔のセリスが同じようなポーズを取る。
 仕方ないか、とライカは決意した。

「ミチルさんの頼みです。引き受けましょう」

 二人の表情が、パッと明るくなる。

「まずは、身長と体重を測定します。移動しましょう」

 三人は客間を出て、浴室に移動した。

「武道の心得は?」
 移動の間、ライカが尋ねる。

 セリスはブンブンと首を振った。実戦経験はゼロらしい。
「騎士団長様の元で、剣術は習っているのですが、訓練が辛くて。魔法の心得は多少あります」

 彼女はそう言うと、人差し指の先端に火を灯す。
 たしかに、プラーナを操る術は持っているらしい。

 ダイエットは相当身体を動かす。
 セリスは魔法使いタイプのようだが、ついてこられるのか?

「セリス様の、ウェイトを見せてください」
「いいわよ」

 木製の身長計と、分銅がついた体重計が、使用人の手で用意された。

 ライカが覗き込んでいるせいか、セリスはモジモジしている。
 あまりジロジロ見ては失礼か。ライカは視線を逸らした。

「我慢して下さい。男に体重を知られるのは恥ずかしい事だとはわかります。しかし、今は大事な時ですので」

 そう言うと、セリスは観念したようにうなだれる。

 セリスが体重計に乗ると、秤の先に吊された分銅がカチャリと音を立てた。

 その瞬間、セリスの顔がりんごのように赤くなる。

「一五七センチメートル 五八キログラム、と」

 続いて、聖女の武具を調べた。
 思っていたよりサイズが小さい。
 セリスが二ヶ月以内に装備しようとすれば、最低五キロはやせなければならない。

「この武具は、ある程度は調節できるんでしょうか?」と、ミチルに問う。

「胸のサイズくらいなら。けれど、お腹周りは厳しいわね」

 となれば、誤差は一キロ未満、といった所か。

「失礼ですが、お歳はお幾つですか?」
「来月で、一五歳になります」

 だとしたら、やや太りすぎか。
 しかし、ライカは少し自信がなくなってきた。
 二ヶ月で、五キロほどの減量が必要なようだ。

 更衣室から出てきたセリスの頭を、ミチルが撫でる。

「大体、どれだけ痩せないといけないかという目安は、わかりました」

 引き受けるにしても、準備が必要だ。あと、心構えも。

「まず、ご家族を呼んで下さい」

 居間に移動して、セリスの両親が来るのを待つ。

 数分後、セリスの父と母と思しき二人組が、居間に現れる。

 セリスの両親は、いかにも優しい顔立ちだった。
 パーツ単位で「いかにもセリスの両親だな」と連想できる。
 この親なら、セリスのような子供ができるだろうと。
 ただ、見る側からすれば、娘に甘いだろうなという印象も同時に与える。

 自己紹介を済ませ、ミチルがライカの身の上を簡単に説明する。
 大陸の武芸大会で優勝したこと、雷漸拳がダイエットに効果があることなどを。

「聞いての通り、ライカはダイエットに関してはプロ並みです。安心して下さい」

 ミチルが自身の体験談を元に、説得をする。

 セリスの両親も、ライカを信頼してくれているようだ。

「娘は、やせられるでしょうか」
「結論から言います。ご安心ください」

 ライカの発言に、セリスの両親は安堵の表情を浮かべる。

「五キロやせるだけなら、二ヶ月あれば十分可能です」
「よろしくお願いします」と、セリスの両親は頭を下げた。
「ただし、ご家族の協力も不可欠です」

 ダイエットは一人でやると危険なのだ。
 肉体的にも精神的にも、支えてくれる存在が必要である。
 間違ったダイエットに、導かないためにも。

「四六時中、監視すべきだと?」
「そうは言いません。娘さんの努力を見てあげて欲しいんです。それで無理をしているようなら声をかけてあげ下さい」

 本人が強く望むなら、ストイックな減量を行ってやせさせることは可能だ。

 しかし、それでは我を通してしまい、人のアドバイスに耳を傾けなくなってしまう。
 正しい助言も、正しい方法も受け付けない。

 ダイエットは根気が必要である。ほとんどの人は、一度失敗すると挫折してしまった。

 周りの意見を受け付けなくなった人は、意固地になって独自のトレーニングを行う。
 間違いであるとも考えず。
 その先に待っているのは、リバウンドという無間地獄だ。

 人の歴史は、脂肪との戦いの歴史である。簡単にやせられれば苦労はしない。

 そのことを、ライカは両親に注意深く指摘した。

 セリスの両親はうんうんとうなずく。

「では、今日から早速、準備を始めましょう」

「準備ですか? 実践ではなくて?」

「はい。やせる準備です。何事も準備が大切なんですよ。いきなり痩せようとしたって、脂肪は簡単に落ちてはくれません」

 そう前置きして、ライカは懸念材料を伝える。
 これが最も重要だ。



「セリスさんが減量するに当たって、ちょっとした問題があります。最悪、ご期待に添えないかもしれません」



「どうしてでしょう? さっきは安心していいとおっしゃいましたが?」

 不安そうに両親が尋ねてきた。



「一五歳といえば、成長期だからです」


 そうライカが伝えると、両親も納得したかのように頷く。


 成長期となると、背も高くなり、身体の部分も大きくなる。
 全身のサイズが大きくなってしまう。

 女性ならば特に、最も身体が作られる大切な時期だ。
 本来なら、無理な減量は控えるべき年頃なのである。

 減量は、「ただやせればいい」なんて考えで始めてはいけない。
 不健康な減量方法を行えば、やせるのではなくやつれる。
 そんなやせ方は、身体を壊すだけ。

 そう伝えると、両親は「お任せします」と言ってきた。

「どれくらいやせないといけないかは、わかりました。ダイエットメニューを進めます。ではセリスさん、動きやすい服装に着替えて下さい。着替え終わったら外出を。ボクは、先に外へ出ていますので」

 セリスにそう告げて、自分は一足先に表で待機することにした。
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