伝説の武具のサイズが合いません⁉ 聖女をダイエットさせろ!

椎名 富比路

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第四章 ちゅうせいしぼう! (途中で何度も挫折しかけたけど、ここまで頑張ってこられた理由は、みんなの声援と支援と希望!)

最後の試練

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 ライカが宣言した瞬間、カメリエやセリスの両親たちが殺到して、セリスを抱きしめた。
 どこに隠れていたのか。

「よくがんばったね」
「はい。みなさん、ありがとうございます」

 改めて、寸法も測定する事に。

 ライカは自分のことのように、状況を見守る。

「ウエストも、基準値に達しておりました」

 テトの言葉を皮切りに、その場全員がセリスに拍手を送った。

 とはいえ、安心するのはまだ早い。
 伝説の武具『サーラス・ヴィー』を装着する儀が残っている。

「あとは、サーラス・ヴィーに認めてもらうだけです」

 つい二ヶ月前まで着られなかった武具の前に、セリスが立つ。

「サーラス・ヴィーに触れてみて下さい。変化が現れるはずです」

 セリスが、ライカの指示通り、アーマーに触れてみる。

 鎧が蒼く光り出す。ほんのわずかだが、サイズが大きくなった気が。

「わわあっ、すごい。サイズが変わりました!」
 セリスの声が歓喜に震える。

「体型が、適切な基準値に達したからです。あなたの背丈に合わせて、装備が変形しました」
「では、お替えに移ります」

 テトの手によってカーテンが閉まった。

 布のこすれる音が、室内に響き渡る。

 パチン、パチンと、金具が取り付けられる音が鳴る。武具を装備しているのだろう。

「ふあ、ピッタリです。ちゃんと装備できてます!」
 カーテンを開き、セリスが飛び出してきた。

 あれだけ窮屈そうにしていたウエストの金具が、今はピッタリ装着されている。
 まるでセリスのために作られたかのように、見事なまでのフィット感だ。

 ライカは息を呑む。

 他の者達も、拍手でセリスを迎える。

 これまで、何度もセリスが武具を装備する姿をイメージした。
 しかし、実物は何もかも違う。
 やはり本物は魅力的だ。
 決していやらしい意味では断じてない絶対仏に誓って。

「はあ、はあ、ライカさん、わたし、はあはあ……があ」

 セリスの様子がおかしい。
 最初は、興奮しているのかと思った。
 だが、ライカの袖をグッと掴み、歯を食いしばる。

「どうしました?」

 ライカが手を差し伸べた瞬間、

「ぐああああっ!」
 突然、セリスが呻き出す。

「セ、セリスさん!?」

 ライカが呼びかけても、セリスは応じない。
 眼光が鋭くなり、目つきも変わる。
 何かに怒っており、身体のどこかが苦しくて、何か悲しげだ。
 呼吸も乱れ、今にも誰かに襲いかかりかねない。

 ぐううう、と何かが鳴った。その音はセリスから響いてくる。

「ああああっ!」
 セリスが吠え狂う。ライカのノド笛に噛みつこうと、襲ってくる。

「セリスさん、落ち着いて!」

「いかん。ライカ殿、セリス殿から離れろ。はよう離れるんじゃ!」
 駆け寄ったカメリエが、ライカからセリスを引きはがす。

 次なるターゲットを求めて、セリスがカメリエに襲いかかろうとした。

 カメリエが手をかざし、魔法でセリスの動きを止める。

「これは、いったい?」
「拒絶反応じゃ! この装備には呪いが仕掛けてある!」
「呪い?」
「……空腹を誘う呪いじゃ」

 装備に込められた呪いとは、いわゆる試練である。
 極限までプラーナを放出させ、生きる活力を奪う。
 その際に、猛烈な空腹感が襲うのだ。

「この試練を乗り換えねば、聖女にはなれぬ。預言書には、そう書いてある」
「そんな。セリスさん、しっかり」

「ライカ殿、セリス嬢から離れよ」
 カメリエが、ライカの肩を掴む。

 しかし、ライカは引き下がらない。

「ダメです。セリスさんは今、戦っているんです。独りぼっちで、空腹に」

 ライカも、断食に挑戦したことがある。
 食べ物に手をつけられないことより、世界に取り残されたような空虚感が辛かった。
 誰かと当たり前に食卓を囲むことを断絶されるのだ。
 犬猫のお預けとはワケが違う。
 いいようもない孤独感が襲ってくる。
 人と一緒に食事が取れないのは、コミュニケーションが取れないことと同義だ。

 もし、ここでライカがセリスを離せば、彼女は戦えなくなる。
 魔王を倒すことはできても、自分を完全に失う。
 一生孤独になってしまうのだ。

 意を決したライカが、セリスを抱きとめる。

「ボクは、逃げません。ずっとセリスさんの側に、痛っ!」
 セリスの前歯が、ライカの肩に食い込んだ。

 滴る血を、セリスは舐め取った。
 鉄臭かったのか、セリスは咳き込む。

「ライカ殿!」
 カメリエたちが駆け寄ろうとした。

 が、ライカは手で制する。
「大丈夫。本当にボクを食べようとしているなら、まず喉を食いちぎるはず」

「しかし!」
「平気です。セリスさんだって戦っているんです」

 この状況下で一番辛い思いをしているのは、他でもないセリスだ。
 一人で戦っている。空腹と、孤独と、自分と。

 ライカは、ゆっくりと息を吸って、吐き出す。雷漸拳の呼吸法で。

「セリスさん、呼吸です。呼吸を整えればリラックスできて落ち着きますよ」

 聞こえているのかは、わからなかった。

 だが、アドバイスだけでも届いて欲しい。
 少しでも、意志があるのなら。

 自分ができるのは、側にいて一緒に耐えることくらいしか。

 セリスが呻こうがライカを引きはがそうとしようが、ライカは挫けない。
 雷漸拳の呼吸をし続ける。セリスに届くように。

 段々と、セリスの呼吸音がおとなしくなっていく。
 まだ噛みついてくるし、声が震えている。
 が、少しはマシになっているようだ。

 ライカは、セリスの手を握りしめる。たとえ自分が分からなくても。
 我を忘れていたセリスの動きが、和らいでいく。

「呼吸を忘れないで。プラーナを安定させましょう。大丈夫です。これまでやってきたんです。あなたならできます。きっと」

 耳元でずっと、落ち着くように誘導する。
 そうだ。頑張ったりしなくていい。
 苦労は分かち合うものだ。一人で背負う物ではない。

「ふああ……」
 しばらく手を繋いでいると、セリスが握りかえしてきた。

「ふぐああ!」
 セリスの身体が、ビクンと跳ね上がる。

「もう一息です。しっかり!」
 セリスの頭を抱きしめて、肩を叩く。

 黒い色のプラーナが、セリスの身体から吐き出された。
 ドロドロしたヘドロの様なプラーナが剥がれ落ちて、空へと消えていく。

「はあ、はあ、すう」
 ライカに身体を預け、セリスが寝息を立て始める。

「うまく、いったようです」

 セリスの身体から、呪いが抜け落ちたのがわかった。

 安らかな寝顔で、セリスは意識を失っている。

「ん、ううん」
 セリスの瞼が開く。

「気がつきましたか?」

「わたしは、一体?」 
 今まで自分が何をしていたのか、セリスは覚えていないようだ。

「サーラス・ヴィーに精神を取り込まれたいたんです。もう大丈夫ですよ。あなたは、自力で呪いに打ち勝ったのです」

 ライカが言うと、セリスは自分の身体をくまなく触り始めた。

「私、何もしていませんか?」
「はい。特に何事も」

「けれど、ライカさん、肩に傷が」
 セリスが、ライカの右肩に手を触れた。

 それだけで、みるみる肩の傷が塞がっていく。

「お気遣いなく、このくらいの怪我なんて平気です」

 実際、肩の傷は跡形もなくなっている。
 かなり深く歯が食い込んだはずなのに。

 凄まじいプラーナ。これが、武具の力か。

「でも、わたしのせいで」
「とんでもない。ボクの不注意ですよ」
 ライカと、セリスが手を取り合う。

「さあ、これで装備は整いました。あとは魔王城へ攻め込んで――」
「大変だーっ!」

 壁を突き破らんばかりの勢いで、屋敷に人が飛び込んできた。
 ドミニクだ。
 急いで走ってきたのか、呼吸が非常に荒い。

「何があったんですか? 話して下さい」と、ライカはコップに水を注いだ。
 ドニミクに飲ませる。


 息を整えながら、ドミニクは言葉を続けようとした。
「魔王が復活したみたいだ。魔王の城に雪が積もりきりやがった!」

 魔王城が雪に埋もれる。
 それは、魔王復活のタイムリミットを意味していた。
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