伝説の武具のサイズが合いません⁉ 聖女をダイエットさせろ!

椎名 富比路

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第四章 ちゅうせいしぼう! (途中で何度も挫折しかけたけど、ここまで頑張ってこられた理由は、みんなの声援と支援と希望!)

魔王復活!

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「魔王領の調査に行ったら、空が真っ暗になったんだ。そしたら、ドワーって雪が降ってきたんだ。タダでさえ寒い魔王領に、吹雪がビューって吹いてさ」

 水休憩を挟みつつ、矢継ぎ早にドミニクは語る。
 擬音が多く要領を得ない。が、一大事なのは確かなようだ。

「そのモヤが、キャスレイエットに近づいてるんだ!」

 魔王の扉から出てきたという物質が、聖女領に迫っている。決戦が近いのか。

「大変だ! 外が!」
 近所の人が、異変を知らせに来た。

 ライカたちは、外に飛び出す。

「空が……」

 突然、辺りが暗くなった。
 まだ昼になって間もない。
 なのに、夜のように真っ暗だ。

 そんなレベルじゃない。
 青空に墨を零したような、異様な光景だった。

 ライカはセリスを守るため、自分の背に隠す。

 夜が蠢いた。
 空間が裂けて、空から一本の黒い帯が垂れ下がる。
 まるで糸が生き物一匹の蛇のような姿となって、屋敷に突進してきた。


 標的は、テトである。


「いかん、あの闇ども、テト殿に取り憑く気じゃ!」

「テトさん!」
 テトを守るため、ライカは黒い帯に蹴りを見舞おうと迫った。

「なにいいいい⁉」

 絶妙な柔軟さで、帯はライカの一撃をすり抜けていく。
 まるで、意志を持っているかのように。

 黒い帯が、テトの身体を縛り上げる。

「あああああぁ!」
 糸に巻き付かれ、もがき苦しむテト。

「テトさん!」

 ライカは糸に触れようとした。
 だが、禍々しいプラーナの力によって、手が弾かれてしまう。
 静電気に当たったかのような痛みが手を駆け巡る。

 糸は完全に、テトを覆い隠した。まるで真っ黒になった、蚕の繭のように。

「大丈夫ですか、テトさん!」
「今、繭を斬ります!」

 セリスとライカが、繭を引きはがそうと近づいた。

 異様な量のプラーナが放出され、繭がモゾモゾと蠢く。

 凶悪なプラーナに充てられ、二人は動きを止める。

 繭の動きが止まった。

 シン、と辺りが静まりかえる。

 糸が引きちぎれる音と共に、繭にヒビが入った。

 ヒビの間から、人間の手が伸びる。
 爪に黒いマニキュアをした手が、繭を真っ二つに引き裂いた。
 その中心に、人の顔が覗いている。
 血液のように赤い瞳が、宝石のように光った。

「テト……さん?」

 その顔は、紛れもなくテトだと思われる。
 しかし、目に光がなく、表情も読み取れない。プラーナの流れも濁っている。

「妾はもう、テトなどという矮小な存在ではない」
 テトの顔をした存在が口を開く。

「では、あなたは何者ですか?」


「我が名は、ベルナテット・ウーイック・ルチュー。魔王なり」



 魔王ベルナテットと化したテトが言い放つ。


 繭が完全に崩壊した。魔王の全貌が露わになる。

 現れたのは、黒いレオタードを着た悪魔であった。
 レオタードは、ヘソの下までカットされた大胆な作り。
 断面図はギザギザになって、金の装飾までされている。腰の食い込みも深い。
 清楚なお嬢様然としていたテトからは考えられない、扇情的な衣装だ。

 テトが体重計に乗る。顎に手を当てながら、針の行方を追う。

 針は、想定していた減量結果を見事にクリアしていた。

「ふむふむ。よろしい。規定通りの目方になっておるわ。さすが雷漸拳といったところか」

 プロポーションを確かめるように、テトが自身の身体を撫で回す。
 普段でも艶めかしいスタイルを誇るテトの身体が、より妖艶に強調された。

「そんな。テトさんが魔王だったなんて」
 ライカは愕然となる。

 だが、あり得ない話ではない。これまで、テトは色々と謎が多かった。

 寒村に住んでいて、きょうだいがたくさんいるはず。
 なのに、やや太り気味だった。
 つまり、普段から栄養価の高い食事を摂っていた可能性が高い。

 どうして、見落としていたのか。
 少しの異変なら、ライカでも気づけたはずなのに。

「あなたの着てい武具、それが魔王装備ですね?」
「そう。妾は減量に成功した。『パール・ヴィー』を着用し、魔王として目覚めたのだ」
「ボクたちに近づいたのも、ダイエットの秘密を探るためですか? パール・ヴィーを身に付けるために」

 魔王武具の肌触りを確かめるように、テトは自身の全身を撫で回す。

「その通りだ。見よ、この素晴らしい姿を。この武具も、身体に吸い付くような」

 ライカの方も、それは感じている。

 今のテトは、これまでとは見違えるほどキレイになった。
 テトの美貌をさらに引き出すかのように、魔王武具は強いプラーナを放つ。

 だが、これでいいのか?

「魔王ベルナテット、テトさんの意志は関係ないんですか!?」

「これは、あ奴自身が望んだこと」
 テトは目を伏せた。

「嘘だ。テトさんは、世界を滅ぼすことなんて望んでいないに決まっています」
「そう言いきれるか?」
「もちろん。彼女は、あなたに操られているだけ」

 テトが本当に世界を憎んでいるなら、とっくに世界は滅びているはず。

「あなたのような存在ごときに、テトさんは屈したりなんかしません!」

「目を覚ましてください、テトさんっ!」
 ライカの腕を振り切るように立ち上がり、セリスが構えを取った。

「もっと呼びかけてください。テトさんを目覚めさせるのです」

「ムダだ! 半人前の聖女が妾に挑むか。よかろう。聖女とまみえるのは五〇〇年ぶりか。見せてもらうぞ。聖女の末裔の力を」

 テトも同様に腕を突き出し、手を開く。
 セリスと違い、表情にも余裕がある。

 先に、セリスが正拳突きを繰り出す。
 数ヶ月前とは比較にならない速度とパワーだ。
 聖女の装備を身に付け、力が倍増しているのか。

 対するテトの方も負けてはいない。重いパンチをまともにガードして、反撃のハイキック。

 手の甲で受け止めただけなのに、風圧で空気の壁を突き破る。

「ええい!」
 セリスとテトが、雷漸拳同士がぶつかり合う。

 指導者であるライカですら、か弱い二人の間に割り込むことができない。
 これはもう、魔王と聖女の戦いなのである。

 だがセリスは病み上がり同然の身体だ。
 ロクに力を発揮できていない。

 段々と、力の差が開いてくる。

 セリスに拳や蹴りを打ち込む度、テトの方は力が充実していく。
 まるで身体が装備に馴染んでいくようだ。

電光、パンチフングル・プヌグス……だったか?」

 腰を落とした状態で、テトが掌打を繰り出す。渾身の雷漸拳が、セリスのみぞおちにヒットした。

「ぐうっ!」
 無防備だった腹部に攻撃を食らい、セリスが呻く。
 失神は免れたが、膝を落としてしまった。

 やはり、セリスはまだ本調子ではないのだ。

「あなたの望みは、何なのです?」
 息も絶え絶えに、セリスが問いかける。

「妾が望むのは、贄である」
 ゆっくりと手を伸ばし、テトの指がライカを差す。

「ライカ・ゲンヤ、我が元に来い。お主だけは助けてやろう」

「どうして、ボクなんです?」

「お主は我をここまで減量させてくれた。利用価値がある。お主だけは、生きながらえさせてやろうというのだ。プラーナも、お主からはもらわん」

「お断りします」
 ライカは首を振った。

「ほほう、ならばお主、世界は滅びてもよいと?」
「ボクは、あなたには屈しない。世界も滅ぼさせません」

 テトを覆う闇のプラーナが色濃くなっていく。
 クスクスと顔をほころばせ、我慢できないとばかりに高笑いを始めた。

「面白い、実に面白いぞ、ライカ・ゲンヤ。この状況下においても、自分は勝てる見込みがあると」
 愉快だと言いたげに、テトは笑い続ける。

「よろしい。妾とて、ふぬけた聖女に勝っても面白くない」
 カツン、と、テトが大げさな素振りでヒールを鳴らす。
「猶予を与える。それまで体調を万全にせよ。妾も、少々ひだるい」
 テトが腹を抑えながら、消えていく。
「魔王城で待っておる」
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