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正十字一番隊、隊長を務めるのは愛染心。副隊長に黒革武将がいる。
先程、例外隊の窮地を救ったのはこの二人だ。
そして、救援に駆けつけた二人のうち、隊長である心の手によって、圧倒的な力の差を見せつけられた少女は、身動き取れずにいた。
言葉通りの意味で、初動を抑えられたのだった。
踏み出す一歩目を狩られ、首筋に小さな掌が添えられた。締められていたわけではないが、息を吸う暇もなかった。
戦いは一瞬にして、少女の敗北、心の勝利として幕を下ろした。
「そうかお前、『ユー』っていうんだな」
動きの封じられた『ユー』の、最後の悪あがき。
それは、心の能力を判断し、沖雪に体の主導権を渡すというものだった。
「かは……っ」
少女だった姿の沖雪が、一瞬の影に纏われ、元の姿に戻る。
「……面白い」
「如何なさいますか、隊長。この者は」
武将が刀の柄に手を置いた。それを見た心は、
「いい。こいつは五番隊に送れ」
身動きの取れないまま体の主導権を返されたところで、沖雪にはどうすることも出来ず、そのまま心に首を掴まれ、強引に武将へ投げ渡された。
最早、抗う気力すら持たない沖雪は、投げられたまま、武将にキャッチされ、連行されることとなる。
「気は楽になったか」
腕を後ろに回され、大凡、枷をつけられた沖雪に問う内容ではなかったが、沖雪はそういった、どこかほっとした自分を、確かに感じていた。
「まぁ、はい。ええ。息すらまともに出来なかったですから、あの人に捕まってた時」
しかし、沖雪は問いの目的を理解して、率直な感想を述べる。
「まるで、体も心臓も、握られていた気分だった」
何者なのだろうか、あの幼女は。
「この世界で、最強のお方だ。あの方より強い者はいない」
口にも出していないのに、答え合わせをされたような武将の口振りに、沖雪はまた心臓に悪い思いをした。
「貴様もまた強いが──」
武将は沖雪を見、再考する。
「──貴様は誰だ?」
「…………」
結局のところ。
沖雪は何もわからないまま、展開する現実を受け流すように振舞っている。
大暴れをしたのは『ユー』という少女であるのに、自分が罪人のような扱いを受けているのも、結局、この超常的な世界や人物たちも、何一つ理解していない。
「僕は……。猫村沖雪……です」
自信なさそうに、呟く。
それもそうだ、自信がない。
本当に自分は、『猫村沖雪』なのだろうか。
思えば、ここに来る以前の記憶が全くない。
では何故、自分の名前を知っている?
この名前はどこで知ったのだろう。
「今のところ、君は危険インシデントという形で扱われている。先程、隊長から正式に通達が送られた。この場合、処遇は各正十字隊長、副隊長を含めた十字議会の中で決められる。会議はすぐに終わることもあれば、長くて数日かかる事もある。貴様はそれまで、正十字五番隊に身柄を拘留される。拘留と言っても、牢獄に閉じ込めておくわけではない。五番隊長が貴様を監視下に置くだけだ。それ故、貴様はこれより五番隊長に身柄を引き渡す」
靄に包まれた内心をそのまま、沖雪は武将から情報量の多い話をされ(しかも八割型理解ができていない)、目の前で扉が設置された。
この自立した扉は先程、心に敗退した後も通過し、その後数名の監視下のもと、手枷を嵌められ、そしてまた、扉を潜ることとなる。
扉は下から木が急成長したような出現の仕方を見せていて(地面の性質には依存しないようだ)、だからか、見た目は木製だ。開閉のたびに高い音が鳴りそうなものだが、無音で開かれ、閉じられている。見た目にそぐわぬ機能性に若干の気持ち悪さを感じつつ、辿り着いたのは、洋風の屋敷である。三階建てのもので、その門の前に出たようだ。
「ここは『正十字五番地点』。五番隊の活動拠点といえば分かりやすいか。しかし……残念ながら、五番隊長には連絡がつかなかった。無視されてしまったようだが、この建物にいるのは確かだ。入って挨拶でもしてこい」
「……は? ちょっと待ってください。じゃあその隊長さんには僕の話が通ってないってことですか?」
「そうだな。だが、滅多なことでもなければ殺されることもあるまい」
なんだそのアバウトな滅多は。
「では、我が付き添えるのもここまでだ」
「ちょ──」
待ってください。
と、いう頃には、扉が閉じられてしまった。
「…………」
残ったのは、後ろに佇む巨大な屋敷と、目の前に森。
流石に、後ろに腕が拘束された状態で、森に逃げようとは思えなかった。
逃げなかったところで、この腕の状態では建物の扉を開けることもままならないのだが。
足で開けるか?
いや、失礼すぎるだろう。インターフォンもない。
「すみませーん!」
玄関から三歩ほど後退し、声を上げる。
「ごめんくださーい!」
なに、滅多なことがなければ殺されることもあるまい。先程は不安心を煽られた台詞だったが、今ではまだ見ぬ五番隊長が頼りの綱なのだ。まあ、この腕では綱など掴めそうにはないが。
「…………」
「誰だてめーは? 三秒以内に答えねーと殺す」
一向に返事のない建物に三度、声をかけようと息を吸い込んだその時、真後ろから声がした。
これが正十字五番隊──隊長、夢見勝との、およそ最悪と呼べる邂逅だった。
先程、例外隊の窮地を救ったのはこの二人だ。
そして、救援に駆けつけた二人のうち、隊長である心の手によって、圧倒的な力の差を見せつけられた少女は、身動き取れずにいた。
言葉通りの意味で、初動を抑えられたのだった。
踏み出す一歩目を狩られ、首筋に小さな掌が添えられた。締められていたわけではないが、息を吸う暇もなかった。
戦いは一瞬にして、少女の敗北、心の勝利として幕を下ろした。
「そうかお前、『ユー』っていうんだな」
動きの封じられた『ユー』の、最後の悪あがき。
それは、心の能力を判断し、沖雪に体の主導権を渡すというものだった。
「かは……っ」
少女だった姿の沖雪が、一瞬の影に纏われ、元の姿に戻る。
「……面白い」
「如何なさいますか、隊長。この者は」
武将が刀の柄に手を置いた。それを見た心は、
「いい。こいつは五番隊に送れ」
身動きの取れないまま体の主導権を返されたところで、沖雪にはどうすることも出来ず、そのまま心に首を掴まれ、強引に武将へ投げ渡された。
最早、抗う気力すら持たない沖雪は、投げられたまま、武将にキャッチされ、連行されることとなる。
「気は楽になったか」
腕を後ろに回され、大凡、枷をつけられた沖雪に問う内容ではなかったが、沖雪はそういった、どこかほっとした自分を、確かに感じていた。
「まぁ、はい。ええ。息すらまともに出来なかったですから、あの人に捕まってた時」
しかし、沖雪は問いの目的を理解して、率直な感想を述べる。
「まるで、体も心臓も、握られていた気分だった」
何者なのだろうか、あの幼女は。
「この世界で、最強のお方だ。あの方より強い者はいない」
口にも出していないのに、答え合わせをされたような武将の口振りに、沖雪はまた心臓に悪い思いをした。
「貴様もまた強いが──」
武将は沖雪を見、再考する。
「──貴様は誰だ?」
「…………」
結局のところ。
沖雪は何もわからないまま、展開する現実を受け流すように振舞っている。
大暴れをしたのは『ユー』という少女であるのに、自分が罪人のような扱いを受けているのも、結局、この超常的な世界や人物たちも、何一つ理解していない。
「僕は……。猫村沖雪……です」
自信なさそうに、呟く。
それもそうだ、自信がない。
本当に自分は、『猫村沖雪』なのだろうか。
思えば、ここに来る以前の記憶が全くない。
では何故、自分の名前を知っている?
この名前はどこで知ったのだろう。
「今のところ、君は危険インシデントという形で扱われている。先程、隊長から正式に通達が送られた。この場合、処遇は各正十字隊長、副隊長を含めた十字議会の中で決められる。会議はすぐに終わることもあれば、長くて数日かかる事もある。貴様はそれまで、正十字五番隊に身柄を拘留される。拘留と言っても、牢獄に閉じ込めておくわけではない。五番隊長が貴様を監視下に置くだけだ。それ故、貴様はこれより五番隊長に身柄を引き渡す」
靄に包まれた内心をそのまま、沖雪は武将から情報量の多い話をされ(しかも八割型理解ができていない)、目の前で扉が設置された。
この自立した扉は先程、心に敗退した後も通過し、その後数名の監視下のもと、手枷を嵌められ、そしてまた、扉を潜ることとなる。
扉は下から木が急成長したような出現の仕方を見せていて(地面の性質には依存しないようだ)、だからか、見た目は木製だ。開閉のたびに高い音が鳴りそうなものだが、無音で開かれ、閉じられている。見た目にそぐわぬ機能性に若干の気持ち悪さを感じつつ、辿り着いたのは、洋風の屋敷である。三階建てのもので、その門の前に出たようだ。
「ここは『正十字五番地点』。五番隊の活動拠点といえば分かりやすいか。しかし……残念ながら、五番隊長には連絡がつかなかった。無視されてしまったようだが、この建物にいるのは確かだ。入って挨拶でもしてこい」
「……は? ちょっと待ってください。じゃあその隊長さんには僕の話が通ってないってことですか?」
「そうだな。だが、滅多なことでもなければ殺されることもあるまい」
なんだそのアバウトな滅多は。
「では、我が付き添えるのもここまでだ」
「ちょ──」
待ってください。
と、いう頃には、扉が閉じられてしまった。
「…………」
残ったのは、後ろに佇む巨大な屋敷と、目の前に森。
流石に、後ろに腕が拘束された状態で、森に逃げようとは思えなかった。
逃げなかったところで、この腕の状態では建物の扉を開けることもままならないのだが。
足で開けるか?
いや、失礼すぎるだろう。インターフォンもない。
「すみませーん!」
玄関から三歩ほど後退し、声を上げる。
「ごめんくださーい!」
なに、滅多なことがなければ殺されることもあるまい。先程は不安心を煽られた台詞だったが、今ではまだ見ぬ五番隊長が頼りの綱なのだ。まあ、この腕では綱など掴めそうにはないが。
「…………」
「誰だてめーは? 三秒以内に答えねーと殺す」
一向に返事のない建物に三度、声をかけようと息を吸い込んだその時、真後ろから声がした。
これが正十字五番隊──隊長、夢見勝との、およそ最悪と呼べる邂逅だった。
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