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「猫村沖雪」
三秒という猶予。
自身を説明するにはとてつもない短な時間。それでも、彼に殺されない為に言葉を投げるには、十分すぎる時間だった。
ここに来て、奇妙な出来事の連続だ。
浮いている島に、自立して下から生えてくる扉。記憶喪失である自分を乗っ取る何者かと、それを圧倒した強き者。
様々な、把握しきれていない事象ばかりが起こるこの世界で、唯一、この状況を打破出来る鍵があるとしたら、それは──彼らが行うコミュニケーションだった。
連絡はどう取り合っている?
少なくとも、携帯電話や無線通信機器などを利用している様子は見られなかった。もしも、こちらより未知の手段で、既知の概念をすら覆すテクノロジーが利用されているとしたら。
この世界で、そう言った仮定の話をすれば、可能性は無限大になる。
だから、沖雪は端的に、名乗るだけで、己が何者かを、そして無害な者だと伝えることが出来ると──確信にまで至ったわけではないが。
賭けに出た。
そしてその賭けは、
「あ? 誰だよ」
負けに終わった。
だが、それでいい。
何もかもが不確定の中──何か他者へ向ける確信よりも、自身の負けの確信ほど、心強いものはなかった。
「正十字一番隊の、黒くてデカイ甲冑の人。あの人から連絡なかったですか?」
「! 黒革のことか……。確かにコンタクトはあったな。無視した。その内容がお前に関係してんのか?」
「ええ、まあ。僕も腕はこんな状態で、あなたに危害を加えることも出来なければ、気力もないんです。五番隊にいろと言われここにいるので、どうかそのアサルトライフルを下げてくれませんかね……」
どうやら、通信機がなくとも、何かしらの形で通信を行うことが出来るのは確かなようだった。自分の名前も、端的に伝わっていればそれはそれで賭けに勝てて五番隊長と和解できたし、負けたら負けたで、信用に値する、この男の味方を話に出せばいい。どちらにせよ、まだこちらの知らないものがあるということを確認出来ただけで、収穫はあった。
だから負けても良かったのだ。
この世界は──この世界の住人は、まだこちらに手の内の全てを見せていない。湯村原水には味方だと諭されたが、沖雪(暫定)が危険インシデントを発生させたことで、そういう簡単な関係になることは不可能となった。
では次に思考をシフトしなければならない。自分の処遇が決定されるのは、十字評議会で行われる数時間から数日のうちの会議の中。そのうちに何が出来るかを早く知り、考え、実行しなければならない。
現状を変える手立てはない。それはもういい。問題なのは、現状が変わった時。味方だと決定されれば何の心配もない。ただ、明らかに、自身の内なる存在、ユーの行ったそれは、味方のものではない。
危険インシデントの発生により、自身が危険分子だと認定され、処罰が下される場合。最早助かる方法も、可能性もない──この世界において、その可能性すらないといって過言ではないのだ。
「──で、ここに来ました」
「敬語なんて使わなくていいよ。俺は名ばかりの隊長だから」
「はぁ。名ばかり?」
「元々、正十字隊は四番までしかねーんだよ。俺が五番にいるのは、俺自身も危険インシデントを起こして、評議会の中でここに隔離されることになったからだ」
「そうなんだ……」
外で立ち話もなんだと、客室に通され、不自由な手枷のせいでくつろげないまま、ソファに腰掛けていた沖雪。
ざっくばらんな説明を、向かいのソファに座る夢見勝へ行い、結果的に親近感を覚えた沖雪だったが、忘れてはならない──勝の言葉。
見知らぬ人間(?)だったとは言え、三秒の猶予が終わったら、自分はどうなっていただろうか。あのアサルトライフルで蜂の巣にされていたか?
答えはおそらく、イエス。
この世界に来てまだ数時間もしていないが、少なくとも、沖雪の肌は、確実な殺意を感じ取れるようにはなっていた。
勝は三秒以上、沖雪が黙っていたか、反抗でもしていれば、確実に引き金を引いていた。
そして、親近感を覚えたということは、少なくとも、勝もまた危険分子だということでもあるので、だから安心感があったかと言えば、それは嘘になるのだった(というか勝自身から、危険インシデントを発生させたと自白されたし)。
「……その手枷、見せてみろ」
何だかんだとソファに座らされたが、結局、邪魔だった手枷を見せろと言われ、沖雪は立ち上がる。
「これ、少し力入れりゃ外れる様になってんな」
「ホント?」
言われて、腕に力を入れたが、枷が外れる様子はない。しっかりと枷の役割を果たしているのが確認できた。
「馬鹿かおめーは。力ってそっちじゃねーよ。つか、なんで気づかねーんだよ」
「……え?」
沖雪は勝の言う意味がわからずにいたが、その様子を見た勝は少し考え込み、
「少し待て」
そう言って目を閉じた。
「…………」
何をしているのかがとても気になるが、待てと言われたので声をかけるわけにもいかず。
「なるほど、ユーね」
「!」
勝の放った名前に動揺を隠せずにいた。
「その枷はユーの力、つまり霊力を吸い込み、解析して外れる様になってる。だがアーカイブを見る限り、猫村沖雪とユーは別人ってわけか。そりゃ危険だわな」
「な、なんでわかるの……」
「……まあ、ここの技術力のものだな──それよりだ。お前、デストロイヤーじゃねーのか?」
「……は? それが、ここの人たちの名前? 凄く物騒な名前なんですけど」
「自分がなんでここにいるか分からねーか?」
「分からない。分からないまま、ここまで来ちゃったんだよ──ただ、強いて言えば、僕は確かに人間だ」
「……なるほどなぁ……」
じゃあ、処分されるだろうな。
淡白に、勝は呟いた。まるで、沖雪をゴミか何かだと捉えているかの様に。
三秒という猶予。
自身を説明するにはとてつもない短な時間。それでも、彼に殺されない為に言葉を投げるには、十分すぎる時間だった。
ここに来て、奇妙な出来事の連続だ。
浮いている島に、自立して下から生えてくる扉。記憶喪失である自分を乗っ取る何者かと、それを圧倒した強き者。
様々な、把握しきれていない事象ばかりが起こるこの世界で、唯一、この状況を打破出来る鍵があるとしたら、それは──彼らが行うコミュニケーションだった。
連絡はどう取り合っている?
少なくとも、携帯電話や無線通信機器などを利用している様子は見られなかった。もしも、こちらより未知の手段で、既知の概念をすら覆すテクノロジーが利用されているとしたら。
この世界で、そう言った仮定の話をすれば、可能性は無限大になる。
だから、沖雪は端的に、名乗るだけで、己が何者かを、そして無害な者だと伝えることが出来ると──確信にまで至ったわけではないが。
賭けに出た。
そしてその賭けは、
「あ? 誰だよ」
負けに終わった。
だが、それでいい。
何もかもが不確定の中──何か他者へ向ける確信よりも、自身の負けの確信ほど、心強いものはなかった。
「正十字一番隊の、黒くてデカイ甲冑の人。あの人から連絡なかったですか?」
「! 黒革のことか……。確かにコンタクトはあったな。無視した。その内容がお前に関係してんのか?」
「ええ、まあ。僕も腕はこんな状態で、あなたに危害を加えることも出来なければ、気力もないんです。五番隊にいろと言われここにいるので、どうかそのアサルトライフルを下げてくれませんかね……」
どうやら、通信機がなくとも、何かしらの形で通信を行うことが出来るのは確かなようだった。自分の名前も、端的に伝わっていればそれはそれで賭けに勝てて五番隊長と和解できたし、負けたら負けたで、信用に値する、この男の味方を話に出せばいい。どちらにせよ、まだこちらの知らないものがあるということを確認出来ただけで、収穫はあった。
だから負けても良かったのだ。
この世界は──この世界の住人は、まだこちらに手の内の全てを見せていない。湯村原水には味方だと諭されたが、沖雪(暫定)が危険インシデントを発生させたことで、そういう簡単な関係になることは不可能となった。
では次に思考をシフトしなければならない。自分の処遇が決定されるのは、十字評議会で行われる数時間から数日のうちの会議の中。そのうちに何が出来るかを早く知り、考え、実行しなければならない。
現状を変える手立てはない。それはもういい。問題なのは、現状が変わった時。味方だと決定されれば何の心配もない。ただ、明らかに、自身の内なる存在、ユーの行ったそれは、味方のものではない。
危険インシデントの発生により、自身が危険分子だと認定され、処罰が下される場合。最早助かる方法も、可能性もない──この世界において、その可能性すらないといって過言ではないのだ。
「──で、ここに来ました」
「敬語なんて使わなくていいよ。俺は名ばかりの隊長だから」
「はぁ。名ばかり?」
「元々、正十字隊は四番までしかねーんだよ。俺が五番にいるのは、俺自身も危険インシデントを起こして、評議会の中でここに隔離されることになったからだ」
「そうなんだ……」
外で立ち話もなんだと、客室に通され、不自由な手枷のせいでくつろげないまま、ソファに腰掛けていた沖雪。
ざっくばらんな説明を、向かいのソファに座る夢見勝へ行い、結果的に親近感を覚えた沖雪だったが、忘れてはならない──勝の言葉。
見知らぬ人間(?)だったとは言え、三秒の猶予が終わったら、自分はどうなっていただろうか。あのアサルトライフルで蜂の巣にされていたか?
答えはおそらく、イエス。
この世界に来てまだ数時間もしていないが、少なくとも、沖雪の肌は、確実な殺意を感じ取れるようにはなっていた。
勝は三秒以上、沖雪が黙っていたか、反抗でもしていれば、確実に引き金を引いていた。
そして、親近感を覚えたということは、少なくとも、勝もまた危険分子だということでもあるので、だから安心感があったかと言えば、それは嘘になるのだった(というか勝自身から、危険インシデントを発生させたと自白されたし)。
「……その手枷、見せてみろ」
何だかんだとソファに座らされたが、結局、邪魔だった手枷を見せろと言われ、沖雪は立ち上がる。
「これ、少し力入れりゃ外れる様になってんな」
「ホント?」
言われて、腕に力を入れたが、枷が外れる様子はない。しっかりと枷の役割を果たしているのが確認できた。
「馬鹿かおめーは。力ってそっちじゃねーよ。つか、なんで気づかねーんだよ」
「……え?」
沖雪は勝の言う意味がわからずにいたが、その様子を見た勝は少し考え込み、
「少し待て」
そう言って目を閉じた。
「…………」
何をしているのかがとても気になるが、待てと言われたので声をかけるわけにもいかず。
「なるほど、ユーね」
「!」
勝の放った名前に動揺を隠せずにいた。
「その枷はユーの力、つまり霊力を吸い込み、解析して外れる様になってる。だがアーカイブを見る限り、猫村沖雪とユーは別人ってわけか。そりゃ危険だわな」
「な、なんでわかるの……」
「……まあ、ここの技術力のものだな──それよりだ。お前、デストロイヤーじゃねーのか?」
「……は? それが、ここの人たちの名前? 凄く物騒な名前なんですけど」
「自分がなんでここにいるか分からねーか?」
「分からない。分からないまま、ここまで来ちゃったんだよ──ただ、強いて言えば、僕は確かに人間だ」
「……なるほどなぁ……」
じゃあ、処分されるだろうな。
淡白に、勝は呟いた。まるで、沖雪をゴミか何かだと捉えているかの様に。
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