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52、ローリー再び

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「おいブルックリン!師団長が呼んでるぞ!」とブルックリンの背後からエドの声がした。

(・・・・くっ、せっかく久しぶりにナーシロー鳥のソテーを楽しんでいたのに。)

「わかったエド、お昼食べたらすぐ行く。」と思わずぶっきらぼうに返事した。

「それはそうとお前相変わらずそれ好きなんだな。鏡見てみろ?顔、にやけてるぞ?」とエドワードは呆れ顔だった。

「ふん!余計なお世話。分かってるなら私の幸せ邪魔しないでよ!」とエドを見ながらしっしっと手で追い払う仕草をした。

「まぁ、早めに行けよ?」と言うとエドは自分もこれからお昼らしく食堂のトレーを取りに行った。


あれから無事にブルックリンの国の防御システムは働いているらしく、なんと階級を上げて貰える事になった。

さすがに防衛を担当するブルックリンが下っ端のままだとまずいと国が動いた結果だ。
(・・・・お給料も増えたんだよねぇ。ふっふっ。やった!!)

アーチャー師団長、ガブリエラ副師団長の下である。エドは先にこの階級に上がっていた。エドはテスタメンターのシステムを大きく改良した功績を認められたのだった。

食事のトレーを「ごちそうさま!」と言って食堂のおばちゃんに渡しブルックリンは急いで食堂を出てアーチャー師団長の執務室へ向かう。

師団長の部屋の前までたどり着くと部屋の扉をノックした。「あぁ良いぞブルックリン、入れよ。」とアーチャーから声が掛かったのでノブを回し「失礼します。」と部屋に入って行った。

「あぁ、隣国へ行くって言ってたがいつからだ?」と話したアーチャーに対し、「師団長、あの仕事は本来なら師団長の仕事じゃなかったのですか?どうして私が??」とずっと疑問に思っていた質問を投げかけた。

同行する騎士団のどの人間と話しても、「えっ、今回は師団長ではないのですか?」と不思議顔されたのだ。

「まぁ、テスタメンターなら誰でも良いんだ。ただ、エドワードはこれから私の下でちょっと特訓を受けて貰う予定だから奴は無理だ。心配するなガブリエラも同行させる。あとこの国を離れるならもう一度ローリーの所へ行って来い。きっと力になってくれる。僕からは以上だ。」

アーチャーはそう言うと手元の資料に目を落とし始めた。その仕草を会話の終了と思ったブルックリンは」分かりました、ローリーさんの部屋へ行ってきます。」と一礼してアーチャーの部屋を出た。


久しぶりのローリーの部屋は相変わらず薄暗い。そしてブルックリンには相変わらずローリーの姿が黒い霧にしか見えなかった。

『久しいな。大地の。ブルックリンと言ったか?』黒い霧の塊みたいなモヤが部屋を渦巻いている。

(ははっ、ここへ来るのは2回目だけどやっぱり慣れないわ。声は聞こえるけどローリーさんの姿が見えないのは怖い。)

「はい、先ほど師団長からここへ来るように言われたんです。私、近々隣国へ仕事で行くんですけど。」

『そうか、分かった。ではしばらくそのローブを外すと良い。外したローブはベッドの上にでもおいて』

(?どうしてローブを?でもローリーさんを信じないと・・・・。)ブルックリンは首元の留め具を外して軽く折り畳むとそうっとベッドの上においた。

次の瞬間、ベッドに置いたブルックリンのローブがフワリと浮き上がり丸い大きな水の玉みたいな物の中へ入った。その中でぐるぐる回るローブ。

(なっ、何これ?何が起こっているの?って言うより私の大切なローブ壊さないでよ!!)

しばらく水の中をぐるぐる回るローブを見ていたが、その動きがピタッと止まった。そして大きくピカー!!っと光ったのだ。

(えっ!ええ!!ーーーーーーー。なんですってぇ!!)



「ファサッ。」とベッドの上にブルックリンのローブが落ちた。思わず恐る恐る手に取るブルックリン。


手に触った感じは変化はない。でも魔力が込められているのはすぐに分かった。

じーっとチェックすると変化したところが何ヶ所かあった。

ローブの裾が今までは無地だったが裾から10センチほどぐるりと金色の糸で複雑な刺繍が施されていた。そしてローブの裏にはいろいろな言語が書かれており、数えただけでも20以上の言語だった。

『ブルックリン、そのローブには多国語に対応できるようになっている。君たちテスタメンターはいくつか言語を習得しているのは知っているがここに描かれているのはそれ以上だ。あと動物とも意思が疎通できるしなんと言ってもを感知できるようになっているんだ。そして魔法による攻撃を受けた場合、中級ぐらいの魔法使いの攻撃だったら簡単に弾くだろうよ。』

(すごい、すごいわ。これだったら自分の魔法に集中出来るってことね・・・・)

「ありがとうございます。ローリーさん、絶対お土産買ってきますね。」とローブを抱き抱えて笑った。そうしたらこの部屋の空気が少しだけ温かくなった気がした。

これはきっとローリーさんも笑っているのだろうとブルックリンは勝手にそう思った。
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