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ハインツ
しおりを挟むサフィノワ伯爵にとって砂を噛んでいるかの様な食事が済み、庭園を案内する話になった。
伯爵は無知を指摘されるのを覚悟で、クリス侯爵親子を庭園に案内する為に連れて出た。
「これは、変わった葉をしてますね?何と言う植物ですか?」と聞かれるのだが上手く答えられない。ハインツの方は庭を興味深げに見ている。
「あっ、あちらにも庭が有るのですね?」と箱庭方向へクリス侯爵が目線を向けた。
「あ、ありますがほんの小さな趣味程度の箱庭が有るだけですよ?」
「今どき箱庭とは珍しい。案内をお願い出来ますかな?」と言って来た。
伯爵は仕方なく2人と共に箱庭の方へ歩いていく。
歩きながら箱庭の全体像が見えて来ると、クリス侯爵が興奮しながら
「これは素晴らしい。一体どちらの庭師の仕事ですか?出来ればご紹介頂きたい。構想もよく練られていて、尚且つこの庭は年中花が咲き、またその背の高低も構想に入ってるのですね。」と大変気に入り庭の話をしたそうな様子。
「実は、私もう1人娘が居まして。。。」
「えっ、先ほどのお嬢さん以外ですか?」
「ええ、そうです。この庭は全てあの子の手による物です。」
「サフィノワ伯爵様、もし良ければそのお嬢さんに1度会わせて貰えませんか?」と頼んで来た。
「ただ、とても恥ずかしがり屋なのです。侯爵様の前で十分な説明は出来ないかも知れませんが宜しいですか?」
「こちらが無理を承知でお願いしているのです。宜しくお願いします。」と頭を下げられた。
「わかりました。呼んで参ります。しばらくお待ち下さい。」と言うと伯爵は急いで離れへ向かった。もちろんフローレンスに箱庭の説明を頼む為だ。
トントントン!とドアをノックし中へと入る。
「おい、フローレンス居るのか?」
「おります。どうしたのですか?お父様?」
仕事中だったのだろう、少しばかりシャツに絵具が付き、さっと洗ったのだろうが手も汚れている。
「実はクリス侯爵様がこの箱庭が気に入り説明を求められている。すまないがフローレンス頼めるか?」
「良いのですか?アンリエッタが。。。」
「アレの事など構わぬ。頼むフローレンス。」
「わかりました。お父様なるべく手短に済ませましょう。」
「ありがとうフローレンス。助かるよ。」
伯爵がフローレンスを伴いクリス侯爵親子の前へと現れた。
「クリス侯爵様お待たせ致しました。娘のフローレンスです。」
「お初にお目にかかります。フローレンスと申します。」と流れるような美しいカーテシーを披露した。
「フローレンス嬢、こちらこそ突然済まないね。私は庭作りが趣味で今までも幾つか作っているがこんなに計算された庭は初めてだ。あれば設計図を見せてもらえないか?」
「お安い御用です。ただ今お持ちしますが、ただ素人同然の私が引いた図面ですのでお目汚しかも知れません。その節はどうかご容赦下さい。」と断り離れの方へ戻って行った。
「伯爵殿、素晴らしいお嬢さんだ。おいくつになられるんだい?」
「行き遅れで。。。22歳になります。」
「そうでしたか。」と答えながらも離れへと去って行くフローレンスをじっと見つめていた。
数分後、「すいませんお待たせしました。」と大きな図面を持ちフローレンスが現れた。
「侯爵様、どうぞお手を。」と図面をクリス侯爵へ渡した。
「あぁ、素晴らしいね。本当によく考えられているね。実際の箱庭がこの図面に入ってるよ。」
「父上、私にも見せて貰えないですか?」とここで初めてハインツから声をかけた。
「あっ、なるほど。」とブツブツと言っている。そしてフローレンスに向かって
「フローレンス嬢、いやスーザン先生。初めてお目にかかりますね。私はハインツ・クロースと言います。貴女にお会いしたくても幻の絵本作家さんなのでここまで来るのに苦労しましたよ。」とにっこり笑った。
「えっ、人違いでは?」と表情を変えずフローレンスが即座に答えた。
「出版社は個人情報だからと教えてはくれませんでした。ただ少しヒントだけ。お庭をされる若い女性だと。あとはこの図面と構図。作品にも出てますよね?」とフローレンスを見つめて畳み掛ける様に話す。
「貴女の作品は全て持っていますしグッズも買い求めています。お願いです。今度、絵本をお持ちしますのでどうかサインを入れて頂け無いでしょうか?」と一歩フローレンスへと近寄った。
「おいおいハインツ、お嬢さん驚いて声も出ないみたいだよ。少しトーンを押さえてあげてくれ。」とクリス侯爵が助け舟を出した。
「もう、隠すのは無理だねフローレンス。クリス侯爵様、ハインツ様おっしゃる通りです。」と先に伯爵が降参した。
フローレンスは俯くと少し掠れた声で「少しお待ち下さい。」と離れに帰って行った。
再び現れたフローレンスは手に絵本を持っていた。
「ハインツ様、良ければこちらをどうぞお持ち帰り下さい。」とある絵本を渡した。
「泣いたクマ」とタイトルが付いていた。
「これはこの本の初版です。何冊か出版社に戴いたうちの1つです。よろしければこちらをどうぞ。」と自筆のサインとロットナンバーを指差して言いました。
「えっ、本当にそんなに貴重な物を頂けるのですか?」
「はい、宜しければ。あと申し訳ないのですが、私はこの様に人目を避けて暮らして居ります。表に出る事は露ほども望んではおりません。今日の事はお忘れ頂けると幸いです。」とフローレンスは軽く会釈をすると離れへ帰って行った。
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