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17、リーベル調査隊編成。一路アルファザードへ
しおりを挟むラリーがデニーロ騎士団長の所へ訪れてから3ヶ月ほどたったある日、ラリーは懐に書類を忍ばせ再び騎士団詰所へ向かっていた。
ラリーは騎士団詰所に着くとノックの後ゆっくりとドアを開けた。
「すいませんがキーン・バルデス殿はどちらに?」と入り口近くの騎士団員に尋ねると「バルデス様は今は席を外しておられます。」と答えた。
「すいませんが少し待たせて頂いても?」
「もちろん構いません。ラリー殿ですよね?こちらへどうぞ。」と空いていた近くの部屋へ通された。
数分後、ドアが開きキーン・バルデスが現れた。やはり大男だ。相変わらず筋肉量もすごい。
「お久しぶりです。バルデス殿。」と立ち上がり一礼した。
「いやいや、楽になさって下さい。ところで本日は何のご用でしょうか?」
「今日は、少し内密にお願いしたい。」とラリーは声を潜めた。
ラリーはバルデスが頷いたのを確認するとゆっくりと話し始めた。
『今回のお話はすでに国王陛下もご存知ですしひとつの作戦として既に認可が降りています。これからバルデス殿には数名の精鋭を引き連れ、アルファザードに侵入調査をお願いしたい。』
『私に内偵をさせようと言うのか??』
『はい。失礼ながらバルデス殿のことを少し調べさせて頂きました。アルファザード語が堪能で尚且つ土地勘が有りますね?』
『あぁ、2年ほどアルファザードに留学して住んでいたことがある。まだ交流が盛んだった頃だ。交換留学生だった。』
『もちろんその事を踏まえアルファザード王宮の調理場に出入りしている酒屋に偽名で入って頂きます。もちろん他の騎士もそれぞれ他の業種で潜入して頂きます。そして調査内容はこちらです。』そう話すとラリーは1枚の紙をバルデスに渡した。
バルデスはしばらくその紙を見ていたが、
『調査内容は概ね分かった。ただ、この最後の教会内部や地下室の存在とは?』
『すいません、その件は今はお話出来ません。どうですか?引き受けて頂けますか?この件はデニーロ団長にもすでに了承して頂いております。』
『・・・・・・期間は?』
『あまり長引くと疑われます。1ヶ月。1ヶ月でこちらへ戻って来て下さい。期間中のこちらとの連絡方法は後ほどお教えします。』と言いながら席を立った。
『お引き受け下さりありがとうございます。では私はこれで失礼します。後ほど他の者から詳細を連絡させます。』と話すと部屋から出ていった。
そしてそれから2週間の間、バルデスをリーダーに精鋭達を調査のために教育を受けさせ、その後それぞれにアルファザードへ旅立って行った。
この調査が後に思わぬ報告をラリー達にもたらす事になった。
◇
「おぉ、さっきまで酷くただれていた右手の火傷がたちまち治ったぞ!!」
1人の老兵士が顔を歓喜に輝かせながら目の前の女性に向かって握手を求めた。
「ありがとうございます。ありがとうございます。何とお礼を言ったらいいか。ワシはこれでこの国のためにもう一度戦える」
「良かったです。お役に立てたのであれば幸いです。どうかお大事になさって下さい。」とその女性が微笑むと周りにいた若い兵士達も「まるで聖女様だ。聖女様の降臨だ。バンザイ、バンザーイ!!」と大声で女性を口々に褒め称えた。
ここはアルファザードの王宮前にある中央広場である。興奮した群衆が先ほど老兵士の火傷を治した女性を取り囲もうとしていた。
「ささっ、ケイト様。王宮でアルト王子がお待ちです。」と側にいた2名の近衛兵がケイトと呼ばれる女性を王宮内にエスコートしようと群衆を遮りその脇を固めた。
「大丈夫よ。1人で歩けるから。」と兵士たちにひとこと言い放つと1人で王宮に向かって歩き出した。
ケイト・ファースト
この女性の名前である。歳は18のころだ。ケイトは王宮内をさっさと歩くと見慣れた部屋のドアを開け「今日の分は先ほど終了しました。私はこれにて下がらせて頂きます。」と部屋の中にいた人物に声をかけた。
「あぁご苦労様。疲れただろう?早く休むといい」とにっこりとこの国の第1王子であるアルト王子が優雅にお茶を飲みながらケイトに話しかけた。
ーーーーくっ。うさん臭いわ。
ケイトは先ほどから痺れだした右手を左手で擦りながら足早に隣接する教会本部の地下へ向かった。
ーーーー早く、急がなくては。
ケイトが教会本部に設けられた特別な入り口のドアに手をかけると「付き添いはここまでで結構です。後は自分で出来ます。」とお付きの兵士たちに声をかけ下がらせると、サッと体を部屋に潜り込ませ目の前にある地下への階段を降り始めた。すでに右目もかすみ始めている。
地下室へ入ると大きな泉が目の前に広がっている。ケイトは素早く衣類を脱ぐと泉にそっと体を浸した。
ーーーーあぁ、体の感覚が戻ってくるわ。もうこんな事いい加減に終わらせたい。この力を使うと自分の大切な何かが少しずつなくなって行く気がする。
もともと国の命令で始めた事だ。
ーーーー我が国には傷を追った人々を癒す聖女の力を宿す事ができる呪文がある。人々の為にぜひ聖女になってくれないか?
地下牢で不安と悲しみに打ちひしがれるケイトに向かって、アルト王子にそう言われた時のことが昨日の事のように蘇る。
ちょうど学校も、もうすぐ卒業という時期で、ケイトは同じ公爵家の次男と婚約が決まったところだった。家族とそのお祝いをしていた最中に王宮からやって来た騎士団に家族全員捕えられたのだ。何の書状も無しに。
ーーーーこんなはずでは無かったのに。アルト王子の婚約者なんて地位も別に欲しかったわけでは無かった。泉の水を手ですくいポタポタとこぼす。
胸元に黒く浮かび上がっている紋章が視界に入る。これさえなければ。でも私がこうしないとお父様やお母様が・・・・
泉の中央にある女神像が微笑みながらケイトを見下ろしている。その微笑みを見るといつもカルスと楽しく暮らしていた日々が蘇る。
『おいケイト!!嫌なやつに虐められたらいつでも俺に言えよ。お前は俺の大事な妹なんだからな!!』どこかの帰り道の馬車の中で、夕陽に照らされた美しい笑顔をケイトに見せながらそう言ってくれたっけ。
『馬鹿カルス!!何度言ったらわかるのよ!私が姉よ。あなたは弟なのよ!!』とカルスの言葉が嬉しかったのを悟らせまいとすぐにそう言い返したっけ。
ーーーーカルス。助けてよ。お父様やお母様や私を助けて。
ポタポタと泉にケイトの涙が落ちて波紋を作る。しばらくの間ケイトはそこから動く事ができなかった。この泉も私の身体を少しでも永らえ保たせるための物でしかない。
ーーーー代々続くアルファザードの呪い。
王家に囚われている両親の命と引き換えにその呪いをケイトの体で受け続けているのであった。
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