婚約破棄。美しい薔薇と呪いの騎士団長。1人で生きて行くんでお節介は結構です。

釋圭峯

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21、遠雷

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「よお~~、久しぶりだな。あれからどれぐらい経ったんだ??」

ここはリーベルの騎士団詰所内にある騎士団長デニーロの執務室だった。今日は月の美しい夜だ。その声はその美しい月をのんびりと眺めているかのような話し方だった。


壮年期に差し掛かったとは言えデニーロの感覚は錆び付いてなどいない。デニーロは机に向かっていたが咄嗟に手元に置いてあった剣を握った。


しばらく息を潜め気を張り巡らし部屋の様子を見る。


「・・・・おいおい忘れちまったのかい?その貴様の右目は俺様が頂いたって言うのによ?」そう言いながらデニーロの部屋に姿を現したのは何とリカルドだった。


デニーロは剣を元の場所に戻すと改めてリカルドと向き合った。


「・・・・驚いたよ。まさかと思ったがリカルド貴様だったとはな。随分と久しいな。若気の至りだったとは言え容赦なくやってくれた事を今思い出したよ。お互い歳を取ったものだな。まぁ座れよ。酒は出せんが茶ぐらいなら入れさせる。」そう言って扉を開け秘書を呼ぼうとするデニーロをリカルドはやんわり手で制した。


「俺も突然来たからな、気にすんなよ。とりあえず話だけは聞いてくれるか?」そう言いつつ笑ってリカルドは応接セットのソファに腰掛けた。

「まさか貴様の方からやってくるとは。一体どう言った了見だ?リカルド?」デニーロがそう尋ねるとリカルドの目に光が籠った。


「もうすぐアルファザードがヤプールに攻め込むぞ?」

「知っている。うちにも考えがあるんでな。」そう話しリカルドの向かい側に腰掛けるデニーロ。



「今から3ヶ月後の深夜0時にアルファザードが動き出す。実はこの動きはフェイクだ。気をつけろよ。奴らはを手に入れ長年の悲願を一気に成就させる気だ。俺から言えるのはここまでだ。悪い事は言わん。先にヤプールと手を組んでおけ。ヤプールのソフィア。いや以前の名はカルス。俺の不肖の弟子だ。こう言えばお前にも心当たりあるだろう?」

「あぁ、全く嫌になるよ。お前の耳の速さには・・・・」デニーロは愉快そうに笑うリカルドの赤い瞳を見つめながらそう話した。

彼の見た目は以前に相見あいまみえた時と変わってない様に見える。若干白髪は増えた気がするがもともとの彼の髪色はグレーだ。


「じゃあ俺はここで失礼するよデニーロ。せいぜい長生きしろよ。ははっ、俺も人のこと言えないがな。」そう話すとリカルドはデニーロの執務室からスウっと姿を消した。あい変わらず行動の読めない奴だ。


「おい、明日にでもチャールズ皇子付きのラリー補佐官を呼んでくれ。」ドアを開け、近くにいた秘書にそう声をかけるとゆっくりと窓辺に立ち明るい月を眺めた。


忘れていた古傷がズキズキと痛む気がする。

・・・・・・もうとっくに完治している筈なのにな。


デニーロはリカルドにやられた右目をそっと押さえた。







次の日の昼下がりだった。ラリー補佐官がデニーロの執務室のドアを叩いたのは。

ドアを開けるなり「すいません、お呼びだとお聞きしました。デニーロ騎士団長ちょうど良かった。私から伺おうと思っていたところです。」

そう話すとドアを締めて部屋のソファに腰掛けた。そしてデニーロに向かって話し出した。


「昨夜バルデス殿がお戻りになられました。もうすぐこちらの詰所にも報告に来られるかと思いますが私の方が先に来てしまいました。」そう話した。そして手に持っていた書類をテーブルの上に置いた。

「バルデス殿の報告書です。一読ください。」そう話すとデニーロの方へ報告書を置き直した。

デニーロはラリーの向かい側に腰掛け報告書を手に取り目を走らせ始めた。

そしてひと言「バルデスには密偵の才能があるらしい。素晴らしい上出来だ」とラリーを見て笑った。

アルファードがヤプールに奇襲をかける事やその日時、割り当てられた人数まで報告書に書かれていた。どこをどうやってここまで詳細に知ることが出来たのか?

とにかくバルデスはリーベルが欲しい情報をほぼ完璧に取ってきていた。

「せっかくのバルデス殿の報告書です。それにそってザックリとですが私の方で考えをまとめてみました。」そう話し懐から数枚の書類を出してデニーロに渡した。

デニーロはラリーからの書類に目を通すと、「ずいぶんと思い切ったな。そう来るか?でもその意見には私も賛成だ。」そう言ってニヤリと笑った。
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