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25、戦いの火蓋
しおりを挟む・・・・・・おかしい。
ヤプール騎士団副団長のハウルはアルファザード騎士団との戦いで妙な感覚を味わっていた。
今回アルファザード騎士団の襲撃を受けている状況からハウル率いる本隊とソフィア率いる別働隊に分かれていた。
配分された兵の数はこちらが圧倒的に多い。
こちらの戦いにかなりの兵数を投入した。ましてやホームでの戦いだから地の利もこちらにあるはずだ。
戦い初めて既に2時間ほど経つ。かなりこちらが押しているはずなのに、あちらの兵士の勢いが落ちてこない。まるで同じ規模の騎士団と戦っている錯覚に陥いるほどだ。普通ここまで兵力差があればそろそろ勢いが止まってもおかしくない。
まるで手応えがないのだ。
そんな事を考えていた時、ソフィア率いる別働隊の様子を見に行かせていた部下が帰ってきた。
「ハウル様、ソフィア様がもうすぐこちらに合流されます。」彼は開口一番にハウルにそう報告した。
「えっ、もうこちらへ来られたと??」
「はい、そして合流の際には驚かないようにとの伝言を預かっております。」
ハウルは何のことかしばらく考えていたが、少しづつ聞きなれない地響きのような音が近づいてくる事に気がついた。
「まっ、まさか・・・・・・。」報告した部下と顔を見合わせる。だんだんと近くなる地響き。小刻みに揺れる地面。周囲の鳥たちは止まり木から飛び立ち、ギャァギャァと鳴いていた。
「ハウル様、ソフィア様が到着されましたがすごい、すごい数の動物を引き連れておられます。そしてハウル様に即時面会を求められております。」
「分かった。すぐに案内して差し上げろ。」
そう話すと程なくソフィアが姿を現した。ソフィアが姿を現した途端この現場に花が咲いたように華やかな雰囲気に包まれた。
「ソフィア殿、別働隊での働き、見事なご采配とお聞きしている。よくぞこちらへまいられた。本来なら休憩をと言いたいところだがまだこの事態では許されない。」
「分かっております。ハウル殿。それよりこちらの戦い、妙な感覚を味わっておいででは無いですか?」とソフィアが言い出した。
「どうしてソフィア殿、それは・・・・・・??」
「・・・・・・やはりそうですね。ここへ来て確信しました。こちらの戦いでアルファザード騎士団は聖女を投入しています。戦っても戦っても疲労もしなければケガもしないとなればあちらの兵士の意気も上がると言うもの。」
「まっ、まさか聖女なんているはずが・・・」
「いえ、間違いなく聖女の存在を感じます。お疲れの所すいませんがハウル殿、すぐこれから敵に1番近い場所で1番見つかりにくい所に私を連れて行ってください。」そう話すとソフィアは腰のアマデウスの剣に手をやった。
「分かりました。しかし私はここから動けない身、すぐに部下に案内させよう。」
そうしてハウルの部下に案内されて戦場近くの少し小高い丘に登った。木陰に隠れソフィアは戦況を見つめた。アマデウスの剣越しに戦場の兵士たちを見つめた。
アルファザードの兵たちの体には所々真っ黒な糸がぐるぐる巻き付いていた。中には体のほとんどが糸に覆われていてもはや人間かどうかわからなくなっている状態の兵士もいた。
・・・・・・やはりね。たくさんの兵士に呪いの痕跡が残ってる。それも比較的新しいものばかり。
ソフィアは自分の周りの兵士たちに向かって「皆さん、少しの間だけ私を守って下さい。すぐに済みますので。」と話すとその場でアマデウスの剣を構え気を練り上げると一気に振り下ろした。
アマデウスの波動で兵士と聖女につながる鎖を断ち切ったのだ。
この動作を何度か繰り返すと「皆さんありがとう。急いでこの場を離れましょう。敵に見つかると面倒です。」ソフィアがそう言うとすぐにハウルの部下たちとその場を離れた。
その効果はすぐに現れた。
目に見えてアルファザード側の兵の数が減り、兵士たちの顔色に疲労が見え始めた。
・・・・・・いける。これなら勝てる。ハウルはヤプール騎士団の勝利を確信した。この戦場は時を待たずしてヤプール騎士団の攻撃でアルファザード騎士団を撤退させた。
そしてアルファザード騎士団が撤退する少し前、1人の女性が複数の騎士に守られるようにしてアルファザード王宮へと逃げていった。
アルファード本国に向かって逃げ出した兵士たちをハウルの許可を得てソフィアが別働隊を連れて追いかけて行く事になった。
その懐にはヨハンがリーベル騎士団のデニーロ団長に宛てた書状を忍ばせていた。
すでにリーベル騎士団がアルファザードからの侵攻を退けそれを逆手に取りアルファザードへ侵攻している事もヨハンには了解済みだった。
ーーーー私がなぜアマデウスの後継者になったのか今なら分かるわ。アルファザードの聖女の呪い。絶対に私が解いてやるわ。
ソフィアは途中で武装し持っている武器を再確認すると間もなくやって来るであろう大きな戦いに備えた。
ーーーーこの古くからの禍い。私がアマデウスで断ち切ってやる。
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