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ピンチ!!
しおりを挟む色とりどりの色彩で華々しく飾られた王宮の大ホール。そこには大勢の貴族をはじめ来賓客が席から立ち上がり興奮気味にステージに惜しみない拍手を贈っている。
この日は陛下主催の御前公演だった。
その満場の拍手の中、ある中年の男が手を振り大きく拍手をしながらステージ中央に進み出た。
彼は四方八方に丁寧なお辞儀をし、深呼吸したあと丁寧に話し出した。普段は胡散臭い男だがこうしてきちんとジャケットを着用したフォーマルな格好をするとなかなかのナイスミドルだ。若い頃はさぞかし女性が寄ってきたんじゃないかと背後でユミリーは思う。
「本日は我がアルテミスの五十周年記念御前公演にお越しいただきありがとうございました。皆様のこの拍手を持ってご満足いただけたと自負しております。そうそう申し遅れました。わたくし『シアターアルテミス』のオーナーのカーネルと申します。以後お見知り置きを」
オーナーがユーモアを交え満足げに挨拶している。公演の余韻で場が盛り上り観客の空気が温まっているためドッと会場が沸いている。
オーナーのカーネルは得意満面だ。この公演の成功でまたシアターとしての格が上がったと思う。
いささか長めの挨拶が済むと王宮内のスタッフが来賓をもてなすために手分けして別室に案内し始めた。
カーネルもアルテミスを更に宣伝するため、マネージャーにこれからの事を指示すると来賓客の方へ向かっていった。
ユミリーは素早く衣装を脱ぎ私服に着替えるとみんなの目に付かないようにするりと更衣室から出た。約三時間後にレセプションと食事会が始まる。
◇◇◇
先日カイルは早急に私が彼に要求したものを手に入れてきた。メイドを一人たらし込み易々と屋敷に侵入したようだ。その辺りの話は聞きたくない。
カイルは取ってきた物を渡しながら「こんなものどうするんだ?」と聞いてきた。ユミリーは「この事はどこかの段階で必ず話すから今は詮索しないで?」と言っておいた。もうじきこの問題は解決する。心からそう信じているからだ。
急いでアパートの自室へ帰りブツをテーブルの上に置くと左手を使いスキャンした。スキャンできる情報は生ものだから急がなくっちゃ。ちなみにカイルが手に入れて来た物とはあの屋敷の持ち主の机に置いてあったハンカチだった。
私の能力は映像で見せてくるが映画のようにずっと映像が流れ続けるわけでない。スナップショットのようと言えば分かってもらえるのかしら?
物を左手に持ちどんな情報が欲しいのか意識すると真っ黒な空間に真っ白なスクリーが浮かび上がる。映像が始まるとパッ、パッ、パッと映像が切り替わっていく。私の感覚だと映像はだいたい一ヶ月前までが限界らしい。それ以上前は真っ黒な映像に切り替わってしまうからだ。
確かにあの屋敷の持ち主が全ての黒幕でありそして強力な協力者がそばにいる。協力者とはあのリンダだ。薄々は感じてた。
私を相当恨んでいる。映像を通じて体にまとわりつくような真っ黒な憎悪も一緒に現れてくる。気持ち悪い。吐き気がする。
彼女も私と同じだったのね、なんらかの形で能力を授かった者。そして彼女だけでない。本人は言ってないけど恐らくカイルもそうだ。ただ私の方が能力値が高かったからか彼には悟られなかった。
・・・・・もう少し様子を見てみないとわからないけど。
◇◇◇
公演終了後、カイルから入手した王宮内の隠し通路の地図を使い目的の部屋に向かう。
その途中で同じく手に入れてもらった女性用の近衛兵団の制服に着替える。これで誰かに見つかっても怪しまれずに済む。近衛兵団には一定数の女性が勤務しているのが功を奏した。
(・・・・・急げ急げ今なら手薄だ)そう思いながら足早に歩いていく。
目的の部屋についた。きょろきょろと辺りを見回しドアのノブを開けると体を素早く潜り込ませた。
さっきカイルに会った時に耳元で「行くなら今がチャンスだ。今なら絶対にあの部屋はもぬけの殻だ」と教えてもらった。
更にカイルは「僕は僕で動くよ。あの屋敷はすでに陛下の許可の上ですでに三日前から特捜部が包囲している。その辺は僕に任せて?」と今まで見たこともない真剣な表情でユミリーを見た。
「うん、分かった。でもカイル無理はしないで?」
「わぁ、優しいねユミリー。でも君がこれからやろうとしている事は僕がやろうとしている事の比じゃないほど危険なことだ。ユミリーこそ気をつけて。部屋での滞在は五分まで、どんなに長くても十分以内で終わらせること、分かったね!!」そう話すと隠し通路の地図と近衛兵団の女性用の制服が入った紙袋を手渡してくれた。
カーテンが閉められていたので部屋の中は薄暗い。それでも分かるほど上質なソファセットに置いてある調度品も高価そうだ。大きな花瓶にはたくさんの花がいけてある。壁にはずらりと歴代の陸軍大将の絵画が飾られていた。
(ダメダメ、のんびりしている暇はない!!)
例の帳簿はこの部屋のデスクには置いてない。左手のスキャンの情報によると・・・・・
ユミリーはある本棚の前に立つと深呼吸した。そして一番上の段の左から六番目の本に手をかけた。ちょっと高い位置にあるから背伸びをして本を引っ張り出すと開いて確認してみた。そこには資金の流れや取引のやり取りが詳細に書かれていた。
バッチリ裏帳簿だ。やはりカイルの言った通りこの部屋だった。制服が入っていた袋にこの帳簿を入れようとした時だった。
「君は一体ここで何をしてるんだ?確か君の名はユミリーだったね?」と背後から声がかかったのは。
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