恋に堕ちる─別れさせ屋としての最後の仕事。彼と出会って私はまた恋をする。─

七転び八起き

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第10話 遠雷

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 沢村さんとの時間を過ごして帰ってから束の間。
 あの状況を思い出してまた落ち込んでしまった。

 早川さんと依頼人は一体どうなったんだろう。
 気になった私は、仕事用に使っていたスマホの電源をつけた。
 そして、早川さんと美術館に行った時に交換した連絡先を開き、最後のメッセージを見た。
 水族館での待ち合わせの話で終わっている。

 試しにメッセージを送ろうとした。
 その時、我に帰って、捨てアカウントを消した。
 もしまだ二人が一緒にいたら大変な事になる。

 送る前にちゃんとした判断ができてよかった。
 私はもうあの人に関わってはいけない。
 そうまた胸に誓って眠りについた。

 ***

 朝起きて、仕事に行く準備をして、電車に揺られて出勤。

 別れさせ屋になる前も私はちゃんとした仕事はしていた。
 ただ、あそこで働いて私は変わってしまったのかもしれない。
 いや、恋人と親友に裏切られてからか。
 恋は怖い。裏切られた時の心の傷が未だに癒えない。

 会社について、オフィスのエントランスに行くと、後ろから声をかけられた。

「春日さんおはよう」

 沢村さんだった。

「おはようございます。昨日はありがとうございました」

 沢村さんの顔を見るとホッとする。

 その時、視線を感じた。
 早川さんだった。

「早川おはよう。」
「おはようございます」

 心なしか、早川さんの表情が暗い。

「早川大丈夫?なんかあった?」

 沢村さん、気配りができて優しくていい上司だ。
 ただ、その理由を知っている私にはここにいるのは拷問だ。

「大丈夫です。ありがとうございます」

 早川さんと目が合ったけど私は目を逸らしてしまった。
 罪悪感が溢れてくる。

 エレベーターから降りて足早にオフィスに向かおうとした。

「春日さん」

 早川さんに呼び止められた。

「はい」

 この人に関わるのが怖い。

「昼に話したいことがある」

 話したい事って──

 胸騒ぎがする。

「じゃあ、また後で」

 そう言って早川さんはデスクに行ってしまった。

 私の事を言われたんだろうか。
 だんだん追い詰められていく。
 怖い。
 午前中はそんな恐怖と戦いながら、なんとか仕事をこなした。

 昼休みになると、早川さんに呼ばれた。
 早川さんについていく。
 エレベーターでまた最上階に行って、屋上への階段を登る。
 ドアを開けると、空が今にも泣き出しそうだった。

「雨降りそうだな」
「そうですね……」

 雷の音が遠くから聞こえる。
 早川さんはフェンスの方に行って、タバコに火をつけた。
 早川さんを見てるとわかる。
 自分の心が揺れ動いているのが。

「ちょっと心配だったから話したくて」
「え……」
「香織が……彼女が、君の事を疑っている」

 あの人は早川さんにも言っているんだ。
 もうここにいるのは危険すぎる。

「何かあったら教えて欲しい」

 そんなこと言われても。

「彼女は事務所にも電話をかけてて、私の事を追求してます」

 早川さんは驚いている。

「そんな事までしているのか……。自分で依頼しておいて、逆恨みだな」
「私が依頼を受けなければよかったんです」

 この人に興味を持ってしまったせいでこんな事に。

「でも春日さんが受けなかったら他の人が来てたかもしれない。それでも結果は同じだ」

 早川さんが近づいてきた。

「俺に興味があったってどういう事?」

 それを今聞くの……?

「彼女が、愛を確かめたいという依頼が特殊だったので、相手がどんな人か知りたいという、ただの好奇心でした……」
「で、どうだった?」

 言葉に詰まる。

「あなたの言うとおりでした……まんざらじゃなかったんです」

 言っちゃいけないのに止められない。
 私はおかしくなっている。

「あの時も、今も、あなたに惹かれているんです」

「そうか……」

 早川さんの表情は変わらなかった。

「ごめんなさい。余計な事を言いました。不快にさせてしまったら申し訳ありません。私は何も望んでいません。」

 私はその場を立ち去ろうとした。

「二度と近づくなってあの時言ったけど」

 その言葉に足が止まった。

「再会して思った。俺も君に惹かれているよ」

 早川さんはそのまま私の横を通り過ぎて行ってしまった。

 私は膝から崩れてしまった。

「そんな事言われても……」

 どうしようもない。
 先が見えないこの状況に戸惑うばかりだった。
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