恋に堕ちる─別れさせ屋としての最後の仕事。彼と出会って私はまた恋をする。─

七転び八起き

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第11話 修羅場

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 それから暫く、特に目立ったことはなかった。
 ただ私は指示された仕事をこなし、早川さんもあれ以上私に何も言ってこない。
 お互い、必要最低限の会話しかしていない。

 でも──

 視線が交わる度に、私たちだけにしかわからない世界が生まれる。
 それを必死にかき消して、いつも通りを装う。
 知らない間に募る想い。
 すれ違う度に熱を帯びていく。
 このまま何事もなく、契約期間が終わるのを祈った。

 ***

 ある日の仕事帰り、駅に向かって歩いていくと、突然腕を掴まれた。
 びっくりして振り返ると
 あの女の人だった。あの時の依頼人。

 早川さんの彼女──

「春日葵さんでしょ?」

 私を鋭く刺すように見つめる瞳。
 足がすくむ。

「人違いです……」

 震える体。
 彼女は私にスマホを見せてきた。
 そこに写っていたのは、私が事務所に登録した時に送った写真だった。

 事務所は私を見放したんだ。
 私は何も言えなくなった。

「蒼真をたぶらかして、私たちを引き裂いた」

 私の腕を掴む力が強くなる。

「そんなつもりはなかったんです」

 私はそんなに深入りするつもりはなかった。

「絶対許さない……あなたが別れさせ屋やってたこと、あの会社に言いふらしてやる」

 そんな──
 そしたら私は社会的に終わってしまう。

「それだけはやめてください!」

 私はその場で咄嗟に土下座をしてしまった。

「汚い女。あんな仕事をしてた時点でろくな人間じゃない。早く蒼真から離れてよ」
「はい……あの会社にはもう行きません」

 恋人に裏切られた気持ち、あの時の私の恨み、まるでそれをそのまま私が浴びているようだ。
 恋人を引き裂いた最低の女。
 例え、あれが依頼人のミスとはいえ、結果的に私と早川さんは惹かれあってしまっている。

 通り過ぎる人たちが私たちを見ている。

 その時、突然私は抱き起こされた。

「蒼真……」

 彼女が驚いて動揺している。

「香織……何をしている」

 彼女は早川さんから目を逸らしている。

「どうやってこの人の居場所をつきとめた」

「……探偵を使った」

 びっくりして何も言えなかった。
 またこの人はそんなことを……。

「お前のことを見損なったよ……」
「だって、この女のせいじゃない!今だって私じゃなくてその女を庇ってる!」

 この状況は確かに火に油だ。

「この人と出会う前から、俺はもうお前への気持ちはなくなっている。八つ当たりするな。お前がそういうことを繰り返すたびに、お前のことが嫌になる」

 彼女はその言葉に驚いて、泣き出してしまった。

「なんで私が嫌われるの!?愛してるのに!!」

 修羅場だ……逃げたい……。
 でも、私は関わってしまった。
 逃げるわけにはいかない。

「ねえ、こんなところで大騒ぎして、邪魔なんだけど」

 静かに低くその場に響いた声。
 振り返るとそこには沢村さんがいた。
 いつもと違って凍てつくような視線だった。

「申し訳ありません」

 早川さんが私を下ろした。

「春日さん行こう」

 沢村さんは私の肩を抱いて歩きだした。

「え……?」
「とりあえず俺に合わせて」

 それはどういう……。

「この人は俺と今付き合ってるから、安心して」

 沢村さんは彼女をじっと見て呟いた。
 彼女は唖然としていた。
 早川さんも複雑な表情をしていたけど、何かを察しているようだった。
 私はそのまま沢村さんに連れられて駅まで行った。

「ありがとうございます……もう大丈夫です」

 沢村さんは手を離した。

「大変だったね」

 この人にまで迷惑をかけてしまった。

「もう私はこの会社にいるのはやめます。会社に損害を与えかねないので」
「そこは俺がどうにかする」

 どうして引き留めるの……?

「もうやめてください。私ももう限界なんです」

 沢村さんは優しいけど、それだけじゃやっていけない。

「……辞めるな」

 沢村さんの表情は今までに見たこともないくらい真剣だった。

「俺のそばにいて欲しい」

 周囲の音が聞こえなくなった。

 私はただそこにいることしかできなくなってしまった──
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