恋に堕ちる─別れさせ屋としての最後の仕事。彼と出会って私はまた恋をする。─

七転び八起き

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第15話 最悪のタイミング

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 気がついたら定時を過ぎていた。
 私は急いで帰り支度をして、オフィスを出ようとした。

「春日さん」

 後ろから沢村さんの声がした。

「お疲れ様。顔色悪いけど大丈夫?」
「……いえ、今日は急いでいるので」

 私は足早にその場を去った。

 ***

 駅まで急いで歩く。
 知らないうちに踏み入れていた。
 絶対に踏み入れてはいけない領域に。

 そんな人だとは思わなかった。
 今まで優しくしてもらったことが黒く塗り潰されていく。

 でも、私を助けてくれた。
 ただ、既婚者だということを最初から言ってくれれば──

 でもよかった。
 今のうちに知ることができて。

 その時頬を涙が伝った。
 何の涙かはわからなかった。
 ただ私は悲しかったんだ。

 ***

 それから、沢村さんとは距離を置いた。
 なるべく話しかけられないように、座席を離れるたびに急いで移動した。
 二人きりになりたくない。
 真実を聞かされてこれ以上気まずくなりたくない。

 ***

 昼休み

 私は屋上に行った。
 そこには早川さんはいなかった。
 今どこにいるんだろう。
 外で食べているのかな。

 空を見上げてぼーっと考えていると誰かが来た。
 振り返ったら、そこにいたのは沢村さんだった。

「邪魔してごめん。君と話したくて」

 鋭い視線だった。

「何でしょうか……」
「なぜ俺を避けている」

 沢村さんは私の仕事の上司。
 さすがに露骨に避けすぎた。

「申し訳ありません」
「謝ってほしいわけじゃない。理由が知りたい」

 言いにくい。
 でも──

「沢村さんに奥さんがいることを他の社員の方から聞きました」

 沢村さんは特に表情は変わらなかった。

「そうか」

 何の罪悪感もなかったの……?

「奥さんがいるのに、私に近づこうとしてたんですよね」
「そうだな」

 ひどい……。

「奥さん悲しみますよ!私を巻き込まないでください」
「悲しまないよ。不倫してるんだから。あっちの方が」
「え?」
「世間体で夫婦でいるだけで破綻してるんだよ」

 沢村さんの瞳は今までで一番淀んでいた。

「俺だって好きでこんな状況になったわけじゃない。でも、君に出会って初めて、この関係を終わらせてちゃんと向き合いたいと思えた」
「だからといって……あなたまで今の状況でそんなことしたら同じじゃないですか」

 どんな事情があっても、もう複雑な関係に踏み入れるのは嫌だった。

「春日さんが俺と向き合ってくれるなら、直ぐにケリをつけてくる」
「は……?」
「無責任なことを言ってるのはわかってる。でも、君にだけは嘘をつきたくない」

 この人は一体何を言ってるの?
 わけがわからない。

 私が屋上から出ようとした時、早川さんと入り口で鉢合わせになってしまった。

 最悪のタイミングだった──
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