恋に堕ちる─別れさせ屋としての最後の仕事。彼と出会って私はまた恋をする。─

七転び八起き

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第16話 繋いだ手

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 早川さんが、最悪のタイミングで現れてしまった……。
 早川さんは、私と沢村さんを見て驚いた表情をしている。

「……お取り込み中、申し訳ありません」

 早川さんが戻ろうとした。
 せっかく会えたのにこんな形でなんて。
 私は手をぎゅっと握りしめた。

「早川待て。話がある」

 早川さんは止まった。

「なんですか?」
「彼女とはどうなった?」
「……なかなか別れを受け入れてもらえず。前よりはマシになりましたが、相変わらずです。春日さんにこれ以上危害を与えないように釘を刺してあります」
「そうか……」

 しばらく気まずい沈黙が流れた。
 なんでこんなことに……。
 ちゃんとした仕事をしたくて派遣会社に登録したのに、結局元に戻ってしまった気分だ。

 人と人との愛と憎しみが混ざり合う場所。
 息苦しい。

「早川は彼女と別れたら春日さんと付き合うのか?」
「は?」

 沢村さんが突然言い出した言葉に驚いた。

「春日さんが好きなんだろ?」

 早川さんが複雑な表情を浮かべている。

「俺は、まず、今の彼女との関係をちゃんと終わらせるつもりです。その後のことは考えてません」
「そうか……お前は正しいな。俺は汚いやり方をした」

 沢村さんは私たちの横をすり抜けていって、戻ろうとする瞬間──

「俺もちゃんと精算する。春日さんが早川とどうにかなる前に」

 その言葉を残して行ってしまった。

 残された私と早川さん。

「いったい何があったんだ」
「私も突然色々言われて混乱してるんです」

 早川さんはゆっくりと歩いて、フェンス越しに都会の景色を見渡して、またタバコを吸い始めた。

「つまり俺は宣戦布告されたのか」
「そうなんでしょうか……」

 私たちは何も言えなくなってしまった。

「一番大事なのは、春日さんの気持ちだから、自分の気持ちに正直に生きればいい」

 そんな──

「私の気持ちを知っているのに、なんでそんなこと言うんですか?」

 早川さんは目を伏せた後つぶやいた。

「君を幸せにする自信がない」

 心にひびが入った。
 それは……私との未来はないってこと?

 ——でも
 あんな出会い方をした私たちが、普通に恋愛をできるわけがない。

「そうですね……私は幸せになる資格なんてないです」

 私は早川さんにふさわしくない。
 沢村さんにも。

「契約期間が終わったら実家に帰ります」

 恋愛は捨てて生きよう。

 私はそのまま屋上を出た。
 ゆっくりと階段を降りて一歩ずつ気持ちを整理する。

『報われなくてもいい』

 私は確かにそう言ったのに、どこか期待している自分がいたんだと、情けなくなった。

「待って」

 早川さんに引き止められた。

「なんですか……?」
「幸せになる資格なんてないとか言うなよ」

 その時、複数人の話し声が聞こえた。
 驚いた私が戸惑っていると、早川さんに手を引かれた。
 そして、屋上の入り口とは逆の場所に二人で身を潜めた。
 現れたのは、沢村さんと早川さんの部署の人たちだった。

「沢村さん、あの派遣の子狙ってますよね」
「もしかしたらもうそういう関係かも」

 もしかして、部署の人たちのほとんどがそういうふうに見ていたの……?
 気まずすぎる。
 なんとか、なんとか耐えよう。
 期限までは──

 気がついたら、私は早川さんに手を引かれた時からずっと手を繋いでいた。
 離すタイミングを失っていたのかもしれない。

 その後、しばらくしたらその社員たちはいなくなった。

 もうすぐ昼休憩が終わる。

 でも私たちはそのまま動けなかった。

 早川さんの手が温かい。
 この瞬間だけは、現実を忘れていたかった。
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