恋に堕ちる─別れさせ屋としての最後の仕事。彼と出会って私はまた恋をする。─

七転び八起き

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第33話 海

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 その日、私は沢村さんと海に来ていた。
 あの時と同じ場所。

「また来られてよかった」

 沢村さんは海の遠くの船を見ている。
 今日はオフの日だから彼は私服を着ている。
 私服姿も素敵で、私にはもったいない人だと思ってしまった。

「沢村さんなら素敵な女性沢山集まりそうですね」
「俺にとって一番素敵なのは春日さんなんだけど」

 いたずらな目線で私を横目で眺めてくる。
 それに赤面して顔を背けてしまう。

「そういうこと言うと心臓に悪いです」
「本当のことを言っているだけだ」

 沢村さんがそっと近づいてきた。

「気持ちは固まった?」
「はい……」

 私は悩んだ、夜も眠れないほど。
 そして出した結論は……。

「私は今、誰とも付き合えないです」
「……それはどういうこと?」

 沢村さんが不思議そうな顔をしている。

「今の私じゃまだ振り子のように揺れてしまうんです。だから、もっと心をしっかり保てるようになってから、また考えたいんです」
「そうか……。まだ悩んでいるのか。」

 沢村さんは困った顔をしている。

「早川に会ったのか?」
「はい、偶然再会しました」
「偶然か~……」

 沢村さんは天を仰いでいる。

「そんなの、勝てるわけがない」
「え?」
「二人を見てると、わかるんだよ。お互い惹かれ合ってることが」
「そ、そうなんですかね……」
「もう俺のことをふってくれ。潔く諦めさせて」

 沢村さんは少し寂しそうな顔をしている。
 でも……

「そう簡単にできないんです。だって、沢村さんのことも真剣だったんです」

 最低な女だってわかってる。
 だけど嘘はつきたくない。

「そうか、俺のこともちゃんと見ていてくれたのか」
「はい……とても信頼できる人です」
「じゃあその信頼裏切ったらどうする?」
「え?」

 それはどういう……
 その時、沢村さんに抱き寄せられた。

「何悩んでるんだよ。もう決まっているんだろう。俺への未練や同情なんかいらない。行けよ。早川のところへ」

 その言葉を聞いた瞬間、涙が溢れた。
 同情なんかじゃない、本気だったんだ。
 だからこんなに胸が締め付けられるんだ。

「いつも助けてもらってばかりで、結局何も返せてないんです」
「何もいらない。気にするな」

 気持ちに応えられないのが申し訳ない。
 でも私はこれ以上自分の気持ちをごまかす事ができなくなった。

「沢村さん、ごめんなさい」
「いいよ。ありがとう。ちゃんと考えてくれて」

 優しい。なんでこの人はこんなに優しいんだろう。

「あなたに感謝しています。ずっと忘れません」
「……じゃあ最後に聞いてほしい事がある」

 沢村さんは私から少し距離を置いた。
 そして私を真剣に見つめた。

「愛している葵。ずっと」

 その言葉を聞いた瞬間、私はどれだけこの人に想われていたかやっとわかった。
 好きとかそういうものじゃない。
 もっと沢村さんの想いは深かった。

「ありがとうございます」

 こんな私を愛してくれて。

 沢村さんは背伸びをした。

「言えてすっきりした!」

 青い海の向こうの果てを二人で見た。

「何か悩みあったらいつでも話聞くから連絡して。あと、早川と別れたら教えてね」

 沢村さんはからかうように言った。

「なるべく自分で解決できるようにします」
「それは残念だな」

 私たちはそのあと、現実へ戻った。

 恋人にはなれなかった。
 でも私はこの人に出会ってよかったと、本当に思えた。
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