ダイヤの首輪─先生の歪んだ愛に囚われて─

七転び八起き

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第五章

第58話

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 先生は何も言わなかった。
 たぶん、事実を受け止められてない。
 私はただ、今の自分を知ってもらう為にくらいの気持ちだった。

 でも普通の家庭とはかけ離れていたから、やっぱショックだったのかな。
 連れてくるんじゃなくて、言葉で言うべきだったかな。

 ──でも

 私は先生に今日来て欲しかった。
 ただいつも先生についていっていた私。
 私は先生にもっと近づきたいと思っていた。

 それは、私の全てを見せた上で。

 もし、仮にもし、先生と結ばれる未来があったとして、そしたらその時にわかる事ではあるけど、未来なんかどうなるかわからない。
 私が大事なのは今。
 私は今この瞬間をただ大事にしたい。

 だから今日は、ここで先生を、独り占めしたかった。
 最近足りなかった分も。

 遼君の事ですれ違ってしまった。
 でも、また戻れた。
 ちゃんとできない私を受け入れてくれた。

 先生が少し変わったのを感じていた。
 私に無理に求めなくなった。
 その理由はわからない。

 いつも、びっくりして戸惑いつつも、私も先生を求めていた。
 もう待ってるだけなのは嫌だった。
 私だって先生が欲しい。

 私は先生を抱きしめた。
 今までないくらい強く。
 先生の温もりを、ただ求めた。

 先生はそっと、恐る恐る、私を優しく包み返してくれた。

 私は──

 自分から身に纏っていたものを全て床に落とした。

 そして、先生に触れた。

「やめろ!そんな事するな!」

 先生は私から離れた。

「ダメですか……?私はそうしたかったんです」

 先生は目を逸らして何も言わない。
 私はまた近づいて、また触れた。

 先生は……男の人は、喜ぶと思ってたんだけど。

「嫌ですか……?」
「そうじゃなくて」

 今まで私がここまで自分から先生に踏み込んだ事はなかった。
 私はもっと先生を知りたいと思った。
 どんな反応をするのか、どんな表情をするのか。

 そっと、唇を寄せた。
 先生は少し反応したけど、拒絶はしなかった。
 どんな気持ちかわからない。

 でも、先生の体は私を受け入れようとしていた。

「先生に拒絶されたらって怖かったので、嬉しいです」

 心はどうかまだ不安だけど。
 先生の理性をただ取り去っていく。
 私をもっともっと求めて欲しい。

 先生の呼吸が乱れていく。

 ふと先生の顔を見たら、戸惑いと切なさみたいなのが混ざっていた。

 ──愛しい

「先生、大好きです」

 その時、私は先生に強く抱きしめられて、その勢いで先生と床に倒れ込んでしまった。
 先生は躊躇いつつも、私にキスをした。
 今までで一番優しかった。

 先生が私に触れる手が、いつもよりかなり繊細だった。

 先生も何もかも脱ぎ捨て、『先生』と『教え子』、その枠組みを全て取り払った。
 この瞬間、私達はただの人間になった。

 たとえ、現実のどんなしがらみがあって、私たちを揺るがそうとしても、私の先生への気持ちは何も揺らがなかった。

「先生……」

 でもやっぱり癖でそう呼んでしまう。

「俺の名前を、お前が求めるままに言えよ。先生とか今は言うな」

 先生も同じ事を思ってくれていた。

 やっぱり私はこの人と出会う為に生まれてきたんだって、この時思えた。

 私は先生の名前を呼び続けた。
 何度も何度も。

「あなたがいれば、私はもう何もなくても生きていけるんです」

「俺はお前がいないと生きていけない」

 これが私達の愛のかたちなのかな。
 ただ薄れていく思考の中で、私はこの人の存在全てを自分に刻んだ。
 歪んだ恋の先に辿り着いたのがここなら、何もかもに意味があった。

「白乃、愛してる」

 先生が好き。初めて会った日からずっと。
 どんなに追い詰められたって変わらなかった。

 先生が私の全てだった。
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