ダイヤの首輪─先生の歪んだ愛に囚われて─

七転び八起き

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第七章

第74話

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 土曜日の朝。
 フリースクール見学当日。

 少し緊張しながら、遼君との待ち合わせ場所に向かった。

「白乃さん、おはよう!」

 遼君は思ったより早く来ていた。

「白乃さん緊張してる?」
「うん、ちょっと……」

 二人で田中さんに教えてもらった住所を頼りに歩いた。
 フリースクールは、住宅街の中にある一軒家だった。
 看板も小さくて、普通の家みたいだった。

「ここかな?」

 インターホンを押すと、田中さんが出てきてくれた。

「お二人とも、ありがとう。よく来てくれました」

 中に入ると、思ったより明るくて温かい雰囲気だった。
 リビングのような大きな部屋に、年齢の違う子たちが数人いた。
 本を読んでいる子、絵を描いている子、ゲームをしている子。

 みんな思い思いに過ごしている。

「みんな、見学の方が来てくれました」

 田中さんが声をかけると、何人かの子がこちらを見た。

 ──でも、誰も挨拶しようとはしない。

「無理に話しかけなくても大丈夫ですからね」

 田中さんが私たちに説明してくれた。
 私と遼君は、しばらく様子を見ていた。

 その時、小学校高学年くらいの女の子が、私のところに来た。

「あなたはだれ?」
「大学生です。来年から先生になるよ」

 その瞬間、女の子の表情が変わった。

「私、先生嫌い」

 はっきりと、でも静かに言った。
 私は何と答えていいかわからなくて、言葉が出なかった。
 女の子はそのまま、また自分の場所に戻っていった。

 胸に何かが刺さったような感覚だった。

 私が目指している「先生」という職業。
 この子にとっては嫌いなものだった。

 田中さんが、そっと近づいてきた。

「あの子は、学校で辛い思いをしたんです」
「そうなんですか……」
「先生が怖くて、学校に行けなくなりました」

 私は、その子をもう一度見た。
 一人で本を読んでいる。
 とても静かで、大人しそうな子だった。

「でも、少しずつ心を開いてくれるようになりました」

 田中さんは優しく説明してくれた。

「時間をかけて、気持ちに寄り添うことが大切なんです」

 私は、田中さんの言葉を胸に刻んだ。

 その後、他の子たちとも少し話した。
 中学生の男の子は、いじめで学校に行けなくなったと教えてくれた。
 高校生くらいの女の子は、勉強についていけなくて自信を失ったと話してくれた。

 みんな、それぞれ違う事情を抱えていた。

 遼君は、ある男の子と長い時間話していた。
 家庭のことで悩んでいる子だった。
 遼君の表情が、とても真剣だった。
 前よりも逞しく見える。

 見学が終わって、田中さんがお茶を出してくれた。

「どうでしたか?」
「色々考えさせられました」

 私は正直に答えた。

「先生が嫌いな子がいるって、考えたことがなかったです」
「そういう子、実は少なくないんです」

 田中さんの言葉に、また胸が痛んだ。

「でも、だからこそ、先生という立場の人には知っておいてほしいんです」

 私は、まだ整理できない気持ちを抱えていた。

 帰り道、遼君と歩きながら話した。

「白乃さん、大丈夫?」
「うーん……ちょっとショックで」
「そういう子もいるって事を知るのが大切なんだと思うよ」

 教師になりたい気持ちは変わらない。
 でも、私のせいで生徒たちを傷つけてしまうのではないかと、不安がよぎって自信を無くしてしまった。
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