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4章 商人ピエールの訪れ
74.狂い始めた歯車
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屋敷に戻るとスーとエラがご飯を作って待っていた。
「美味しそうだね」
「エラがほとんど全部やった」
「両腕が使えるのが嬉しくて少し張り切っちゃいました」
エラは手を握ったり広げたりしながらアピールする。
料理や家事が出来るだけに片腕ではもどかしい思いも多かったのだろう。
エラ達が作った料理を囲んでみんなが食事をする。
だいぶ賑やかになったものだ。
初めて2人の料理を食べるが、見た目通りかなり美味しい。
スーが作ったというスープもエラの作った料理に引けを取らないくらい美味しい。
食後に穂花にイタズラを仕掛けた理由を聞かれた。
「理由は色々あるけど、ひとつにはピエールが直情的になってくれれば対策が立てやすいからかなぁ」
「色んなこと考えてて凄いね。ハルくんには助けられてばっかりだよね。昔から・・・あれ?前に命の危機を救ってもらったことがあったけ?」
穂花は曖昧な記憶に首を傾げる。
だが、その行動が俺にとっては重大なことだった。
確かに俺は昔、穂花と暎斗を命の危機から救ったことがある。しかし、その時の記憶は魔法で消してあるので、その事実を知っているのは俺と姉さんだけだ。
これまでの穂花の言動には記憶と一緒に消えたはずの俺への好意も垣間見える。
その事を踏まえると、どういうわけか日本にいた頃に掛けた魔法がこの世界に来てから、だんだんと効果を発揮しなくなってきていると考えて良さそうだ。
もし、あの時の記憶が戻れば穂花だけでなく暎斗も間違いなく混乱する。
暎斗は暎斗で記憶を取り戻した時に思い出してしまうものがある。
暎斗は俺の姉さんが好きだったのだ。
それを思い出した時に暎斗が姉探しに全力を注ごうとする可能性はかなり高い。
そうなれば、ルルとは必然的に行動を別にすることになる。
そんな事態は出来れば避けたい。
対処はすぐには思いつかないので、ひとまず目の前の穂花を相手する。
「穂花、命を救った云々は置いといて、やっぱり俺のことをラウトって呼ぶのは違和感ある?」
「うん、ハルくんって呼び方がどうしても抜けなくて」
「じゃあ無理してラウトって呼ばなくていいよ。俺たちだけの時はハルくんでも良いからさ」
「分かった」
とりあえず穂花を誤魔化すことはできた。
この事は、これからも意識しておいた方がいい気がする。
街にピエールがやって来て街はどこかピリピリしていた。
「おい、どこ向いて歩いてやがる」
「す、すみません」
普段なら何も起こらない些細な事で揉めごとに発展しそうな雰囲気である。
そして、ピエールの魔の手はすでに及んでいた。
「おい、ポーションはねぇのか?」
「申し訳御座いません。ただ今在庫を切らせていまして……」
こんなやり取りが街のあちこちで起こるようになった。
そんな街の様子を見てピエールはほくそ笑む。
これでポーションが欲しければ相場の数十倍の金額を出さなくては買えない。
後は待っていれば勝手に金が集まってくるのだ。
だが、一週間後。
ピエールが買い占めたポーションを買う者は一人としていなかった。
「何故だ!!」
ピエールは机を思い切り叩いて叫ぶ。
ピエールもこの事態に冷静ではいられなかった。
一つとして売れない理由は分かっていた。
誰がポーションをばら撒いているのだ。
街の服屋、靴屋、飲食店、その他あらゆる店でポーションが販売されている。
そこに法則性はなく、今日売っている店と明日売っている店は全く別の店なのだ。
勿論、見つけ次第買い占めているが、まったくもって追いつかない。
そして、売ってる店に誰から買ったかを問い詰める、とこれまたバラバラな人物にたどり着く。
打つ手がピエールにはなかった。
おちょくられている様なその手口に腹を立てることしか出来ない。
ご立腹な様子を遠くから眺めていたスーは主人であるラウトにピエールの様子を伝えに向かう。
スーはピエールがこの街に来てからの動向を逐一見張り、それをラウトに報告していた。
「今日も新たな動きはなしか、でもピエールもこのままじゃ終わらないだろうから、明日も見張りをお願いできる?」
「任せて」
街にポーションを売り回っている張本人であるラウトはピエールの狙いを尽く潰していた。
ポーションはラウトが姿を変えて色んな店にランダムで売っているので、対策の仕様はない。
俺はピエールの動きに注意しつつ、他の事にも目を光らせていた。
それは不動産屋の店主の動きである。
俺はピエールの監視はスーに任せて、不動産屋の動きを探っている。
その中で、不動産屋がどこから調達したのか、剣や弓、盾などの大量の装備品を用意しているのを見た。
屋敷もスラムとの協力関係も失った不動産屋が、武器を大量に買うのは明らかにおかしい。
以前、スーと見た魔石と言い、何かの計画が実行されているとみて間違いないだろう。
俺の予測では、街を魔物に襲わせる計画だと考えている。
怪我人が出ればポーションの需要が増えるため、ピエールの買い占めが意味を増すからだ。
ピエールも関与している可能性が高いが、確証はないので、何が起きても対応できるように監視の手を緩めないようにしたい。
数日後、スーからある報告がもたらされた。
「ラウト様、ピエールに動きがあった。多分、街を出ようとしてる」
「なるほど」
丁度、その日、不動産屋の店主も動きを見せていた。
店主は店の前に調達した武器や装備品を広げて販売していたのだ。
そして、街に近い森で、魔石の魔力の反応が探知に引っ掛かった。
俺の予想通りピエールが仕組んだ第2の作戦らしい。
ピエールは魔物が来る前に街を逃げようと考えたらしい。
まあ、逃げるピエールは後回しだ。
魔石に寄って来た魔物が街に押し寄せるだろう。
だが、ここには最強の冒険者とその仲間達がいる。
さて、街に被害が出ることはあるのでしょうか?
「美味しそうだね」
「エラがほとんど全部やった」
「両腕が使えるのが嬉しくて少し張り切っちゃいました」
エラは手を握ったり広げたりしながらアピールする。
料理や家事が出来るだけに片腕ではもどかしい思いも多かったのだろう。
エラ達が作った料理を囲んでみんなが食事をする。
だいぶ賑やかになったものだ。
初めて2人の料理を食べるが、見た目通りかなり美味しい。
スーが作ったというスープもエラの作った料理に引けを取らないくらい美味しい。
食後に穂花にイタズラを仕掛けた理由を聞かれた。
「理由は色々あるけど、ひとつにはピエールが直情的になってくれれば対策が立てやすいからかなぁ」
「色んなこと考えてて凄いね。ハルくんには助けられてばっかりだよね。昔から・・・あれ?前に命の危機を救ってもらったことがあったけ?」
穂花は曖昧な記憶に首を傾げる。
だが、その行動が俺にとっては重大なことだった。
確かに俺は昔、穂花と暎斗を命の危機から救ったことがある。しかし、その時の記憶は魔法で消してあるので、その事実を知っているのは俺と姉さんだけだ。
これまでの穂花の言動には記憶と一緒に消えたはずの俺への好意も垣間見える。
その事を踏まえると、どういうわけか日本にいた頃に掛けた魔法がこの世界に来てから、だんだんと効果を発揮しなくなってきていると考えて良さそうだ。
もし、あの時の記憶が戻れば穂花だけでなく暎斗も間違いなく混乱する。
暎斗は暎斗で記憶を取り戻した時に思い出してしまうものがある。
暎斗は俺の姉さんが好きだったのだ。
それを思い出した時に暎斗が姉探しに全力を注ごうとする可能性はかなり高い。
そうなれば、ルルとは必然的に行動を別にすることになる。
そんな事態は出来れば避けたい。
対処はすぐには思いつかないので、ひとまず目の前の穂花を相手する。
「穂花、命を救った云々は置いといて、やっぱり俺のことをラウトって呼ぶのは違和感ある?」
「うん、ハルくんって呼び方がどうしても抜けなくて」
「じゃあ無理してラウトって呼ばなくていいよ。俺たちだけの時はハルくんでも良いからさ」
「分かった」
とりあえず穂花を誤魔化すことはできた。
この事は、これからも意識しておいた方がいい気がする。
街にピエールがやって来て街はどこかピリピリしていた。
「おい、どこ向いて歩いてやがる」
「す、すみません」
普段なら何も起こらない些細な事で揉めごとに発展しそうな雰囲気である。
そして、ピエールの魔の手はすでに及んでいた。
「おい、ポーションはねぇのか?」
「申し訳御座いません。ただ今在庫を切らせていまして……」
こんなやり取りが街のあちこちで起こるようになった。
そんな街の様子を見てピエールはほくそ笑む。
これでポーションが欲しければ相場の数十倍の金額を出さなくては買えない。
後は待っていれば勝手に金が集まってくるのだ。
だが、一週間後。
ピエールが買い占めたポーションを買う者は一人としていなかった。
「何故だ!!」
ピエールは机を思い切り叩いて叫ぶ。
ピエールもこの事態に冷静ではいられなかった。
一つとして売れない理由は分かっていた。
誰がポーションをばら撒いているのだ。
街の服屋、靴屋、飲食店、その他あらゆる店でポーションが販売されている。
そこに法則性はなく、今日売っている店と明日売っている店は全く別の店なのだ。
勿論、見つけ次第買い占めているが、まったくもって追いつかない。
そして、売ってる店に誰から買ったかを問い詰める、とこれまたバラバラな人物にたどり着く。
打つ手がピエールにはなかった。
おちょくられている様なその手口に腹を立てることしか出来ない。
ご立腹な様子を遠くから眺めていたスーは主人であるラウトにピエールの様子を伝えに向かう。
スーはピエールがこの街に来てからの動向を逐一見張り、それをラウトに報告していた。
「今日も新たな動きはなしか、でもピエールもこのままじゃ終わらないだろうから、明日も見張りをお願いできる?」
「任せて」
街にポーションを売り回っている張本人であるラウトはピエールの狙いを尽く潰していた。
ポーションはラウトが姿を変えて色んな店にランダムで売っているので、対策の仕様はない。
俺はピエールの動きに注意しつつ、他の事にも目を光らせていた。
それは不動産屋の店主の動きである。
俺はピエールの監視はスーに任せて、不動産屋の動きを探っている。
その中で、不動産屋がどこから調達したのか、剣や弓、盾などの大量の装備品を用意しているのを見た。
屋敷もスラムとの協力関係も失った不動産屋が、武器を大量に買うのは明らかにおかしい。
以前、スーと見た魔石と言い、何かの計画が実行されているとみて間違いないだろう。
俺の予測では、街を魔物に襲わせる計画だと考えている。
怪我人が出ればポーションの需要が増えるため、ピエールの買い占めが意味を増すからだ。
ピエールも関与している可能性が高いが、確証はないので、何が起きても対応できるように監視の手を緩めないようにしたい。
数日後、スーからある報告がもたらされた。
「ラウト様、ピエールに動きがあった。多分、街を出ようとしてる」
「なるほど」
丁度、その日、不動産屋の店主も動きを見せていた。
店主は店の前に調達した武器や装備品を広げて販売していたのだ。
そして、街に近い森で、魔石の魔力の反応が探知に引っ掛かった。
俺の予想通りピエールが仕組んだ第2の作戦らしい。
ピエールは魔物が来る前に街を逃げようと考えたらしい。
まあ、逃げるピエールは後回しだ。
魔石に寄って来た魔物が街に押し寄せるだろう。
だが、ここには最強の冒険者とその仲間達がいる。
さて、街に被害が出ることはあるのでしょうか?
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