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第2話
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数日後。
少女に嫌がらせをしている連中が、暴漢を放とうと動き出す少し前。
吾輩はついに覚悟を決めた。
女神とやらにもらった力で人間に戻ると、まだベッドで寝息を立てている少女を見下ろす。
夢見が悪かったのか、目尻を涙で濡らす少女を前に、今からすることを考えると心が痛んで仕方ない。
だが。
心を鬼にして襲いかかった。
人の姿に戻り、掛けていた薄い毛布を力強く剥ぎ取ると、寝巻きに手を掛けて、力任せに破る。
突然の狼藉に、目を覚ました少女が目を見開いて叫び、暴れる。
破れた寝間着から胸があらわになったようだが、断じてそちらに目はやらなかった。
暴れようとする少女を、傷つけないように慎重に注意して押さえつける。
叫び声を上げられるように口はふさがなかったが、結局少女は最後まで何も叫ばなかった。
ただ、悲しそうな目で吾輩を見ていた。
吾輩は少女に覆いかぶさると、毛布を被り、ゆさゆさと毛布の中で身体を動かす。
吾輩には男女のまぐわいというものに関する知識がない。
ただ、ベッドのなかでゆらゆらと身体を前後に動かすものであるらしい。
毛布を被ってからは、少女は固くぎゅっと目をつぶっていたが、吾輩がただゆさゆさと揺れていると、うっすらと目を開いた。
目の前では、上半身裸の不細工な男が覆いかぶさり、ただゆらゆらと動いている。
少女からすると、何が起こっているのかまったく訳がわからないことだろう。
そうしていると。
不意に少女の部屋の扉が開いた。
そこには、いつも少女をいじめるやつらが立っていた。
彼女たちは吾輩と、吾輩に襲われている少女に目をやると……ひとつ、嬉しそうに嫌らしく笑い。
状況を存分に理解したのち、大声で悲鳴を上げて、衛兵を呼ぶよう叫んだ。
彼女たちは、結局暴漢を呼びはしなかったらしい。
最後の最後に、薄っぺらの貴族の良識とやらで踏みとどまったのかもしれぬ。
もしくは、さすがに工作が王に露見することを恐れたか。恐らく後者に違いない。
慌てた衛兵が部屋に入ってきた。
吾輩に誰何するが、吾輩に名前はない。
黙っていると、少女から引きはがされ、持っていた棒で殴られた。
ひどく堅い棒だった。
少女は、自分が襲われたにもかかわらず、吾輩に向けられる殴打さえ止めようとした。
ぼこぼこ殴られながら、吾輩はひとつ、少女に微笑んで見せた。
少女は、そんな吾輩をただじっと見て……
一言だけこう言った。
「……ねこ、さん?」
どうして少女がそう言ったかは、とんとわからない。
そして、もはや聞くこともかなわない。
なぜなら入ってきた衛士たちに連れ出されてしまったからだ。
*
痛い、痛いというのに、衛兵は吾輩を殴るのをやめなかった。
ひたすら堅い木の棒で吾輩を打った。
散々打ちのめされてから、牢に放り込まれた。
高いところにある窓から、小さくて綺麗な月が見えた。
*
数日が経ち。
牢の役人が噂をしているのを聞くに、少女が王に召されるのは、取りやめになったらしい。
よかった。本当によかった。
……少女は、いまどうしているだろうか。
王に召されることなく、貴族にいじめられることがなくなることを喜んでいるだろうか。
少女は、ふたたび故郷に帰ることができるだろうか。
本来ならば吾輩は直接少女の姿を見に行って、傍らで片時も離れず、傷物扱いされる少女を護りに行くのが筋であり、吾輩としてもそうしたかったが――。
いたく王の怒りにふれた吾輩は、毎日刑吏に水や湯を浴びせかけられ、昼夜なく打たれ続け、飯もなく、そろそろ命の火がつきそうであった。
硬く冷たい牢の中で、もはや起き上がることもかなわず、大の字になって小窓から月を眺める。
月がとても綺麗だと感じた。
金色に輝く月が、金色に輝く少女の髪と同じだけ綺麗だと思った。
今回の人生でもまた、どうやらまた女性のおっぱいを見ることはかなわぬようだ。
それに、誰とも懇ろになることもできなかった。
ただ、前回の人生よりは、明らかに価値があったと思うのだ。
少女が救われたのなら、それが今回の吾輩の人生の役割であった。
(続く)
少女に嫌がらせをしている連中が、暴漢を放とうと動き出す少し前。
吾輩はついに覚悟を決めた。
女神とやらにもらった力で人間に戻ると、まだベッドで寝息を立てている少女を見下ろす。
夢見が悪かったのか、目尻を涙で濡らす少女を前に、今からすることを考えると心が痛んで仕方ない。
だが。
心を鬼にして襲いかかった。
人の姿に戻り、掛けていた薄い毛布を力強く剥ぎ取ると、寝巻きに手を掛けて、力任せに破る。
突然の狼藉に、目を覚ました少女が目を見開いて叫び、暴れる。
破れた寝間着から胸があらわになったようだが、断じてそちらに目はやらなかった。
暴れようとする少女を、傷つけないように慎重に注意して押さえつける。
叫び声を上げられるように口はふさがなかったが、結局少女は最後まで何も叫ばなかった。
ただ、悲しそうな目で吾輩を見ていた。
吾輩は少女に覆いかぶさると、毛布を被り、ゆさゆさと毛布の中で身体を動かす。
吾輩には男女のまぐわいというものに関する知識がない。
ただ、ベッドのなかでゆらゆらと身体を前後に動かすものであるらしい。
毛布を被ってからは、少女は固くぎゅっと目をつぶっていたが、吾輩がただゆさゆさと揺れていると、うっすらと目を開いた。
目の前では、上半身裸の不細工な男が覆いかぶさり、ただゆらゆらと動いている。
少女からすると、何が起こっているのかまったく訳がわからないことだろう。
そうしていると。
不意に少女の部屋の扉が開いた。
そこには、いつも少女をいじめるやつらが立っていた。
彼女たちは吾輩と、吾輩に襲われている少女に目をやると……ひとつ、嬉しそうに嫌らしく笑い。
状況を存分に理解したのち、大声で悲鳴を上げて、衛兵を呼ぶよう叫んだ。
彼女たちは、結局暴漢を呼びはしなかったらしい。
最後の最後に、薄っぺらの貴族の良識とやらで踏みとどまったのかもしれぬ。
もしくは、さすがに工作が王に露見することを恐れたか。恐らく後者に違いない。
慌てた衛兵が部屋に入ってきた。
吾輩に誰何するが、吾輩に名前はない。
黙っていると、少女から引きはがされ、持っていた棒で殴られた。
ひどく堅い棒だった。
少女は、自分が襲われたにもかかわらず、吾輩に向けられる殴打さえ止めようとした。
ぼこぼこ殴られながら、吾輩はひとつ、少女に微笑んで見せた。
少女は、そんな吾輩をただじっと見て……
一言だけこう言った。
「……ねこ、さん?」
どうして少女がそう言ったかは、とんとわからない。
そして、もはや聞くこともかなわない。
なぜなら入ってきた衛士たちに連れ出されてしまったからだ。
*
痛い、痛いというのに、衛兵は吾輩を殴るのをやめなかった。
ひたすら堅い木の棒で吾輩を打った。
散々打ちのめされてから、牢に放り込まれた。
高いところにある窓から、小さくて綺麗な月が見えた。
*
数日が経ち。
牢の役人が噂をしているのを聞くに、少女が王に召されるのは、取りやめになったらしい。
よかった。本当によかった。
……少女は、いまどうしているだろうか。
王に召されることなく、貴族にいじめられることがなくなることを喜んでいるだろうか。
少女は、ふたたび故郷に帰ることができるだろうか。
本来ならば吾輩は直接少女の姿を見に行って、傍らで片時も離れず、傷物扱いされる少女を護りに行くのが筋であり、吾輩としてもそうしたかったが――。
いたく王の怒りにふれた吾輩は、毎日刑吏に水や湯を浴びせかけられ、昼夜なく打たれ続け、飯もなく、そろそろ命の火がつきそうであった。
硬く冷たい牢の中で、もはや起き上がることもかなわず、大の字になって小窓から月を眺める。
月がとても綺麗だと感じた。
金色に輝く月が、金色に輝く少女の髪と同じだけ綺麗だと思った。
今回の人生でもまた、どうやらまた女性のおっぱいを見ることはかなわぬようだ。
それに、誰とも懇ろになることもできなかった。
ただ、前回の人生よりは、明らかに価値があったと思うのだ。
少女が救われたのなら、それが今回の吾輩の人生の役割であった。
(続く)
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