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第一章

二匹目

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 皆さんごきげんよう。コーリアでございます。…………っと。こんなかたくななあいさつはやめて……改めましてこんにちは。コーリアです。今、やっと計画書に方が着いたので、これより……


 狩りを始めようと思います!

……ということで、まずは……私の幼少期から責めて行きます!
 『コーリアの幼少期。』
 ある日、コーリアが庭で遊んでいると、バルベルトというまぁ、いってしまえば……クソガキ?に出会う。……ごめんごめん。口が悪いけど、本当にその通りなんだから!そのガキ……バルベルトはコーリアの髪をまるでオモチャだとでも言うように引っ張り、泣き叫ぶコーリアを前に笑っていた。あげくの果てに自分でスッ転んだのだが……ここからが本題だ。
 
 なんと……性格の曲がったクソガキはそれをコーリアのせいにして泣きじゃくった。おかげさまでコーリアは悪者だ。気弱で性格のいいコーリアが言い返すわけもなく悪役令嬢としての名を上げてしまったわけ。

 まぁ、子どもの頃のことだ。それだけで狩りを行うのはちょっと私も気が引ける。最悪なクソガキに変わりはないが有余が必要。……そう思って今のバルベルトについて調べることにした。性格とか?まぁ気づかいとか?そのあたりがなんとかなっていれば……見逃そうかなぁ……そう思ったのだ。

……なのにっなのにっ。

アイツは……何一つ変わっていなかった!

 それどころか悪化していることが発覚。っとに……変わらないのね。バルベルト。
そっかぁ……そうなのかぁ。OK!

 第2ターゲット確定!!狩りに伺いまーーす。
 ちなみに、第1ターゲットは婚約者。まぁ、彼は結果的に巻き込まれただけだし。これぐらいで許してやるかって思って。あのぐらいですんでるけど。……私ね、そこまであまちゃんじゃないんだぁ。殺しはしないけど、犯罪だからね?……同じくらいの苦しみは味わってもらう。
 
 まずは、バルベルトなんだけど……バルベルトは女癖悪くてとっかえひっかえ甘い言葉をはいては愛人を増やしているらしい。
 だからぁこーんなバルベルトさんには『社会的に抹殺』して頂きましょう!

 まず、下準備にあなたが好きですアピールから。何しろアイツ、『貴公子』って呼ばれてんの。実際はもちろん違う。笑顔ふりまく女ったらし。作った愛人の顔すらまともに覚えてないそうよ。だから、いかにもそれそうなラブレターでも送ろうと思って。近づいてぼろ出させて狩る。
……それが私の作戦!!

 さぁ、狩りを始めましょう。

 虫の声響く静かな夜。今宵、狩りが開かれます。チャイムの音が開始の合図。持ち物はきらびやかなドレスに、あれよこれよ。さぁ、お楽しみください。

 こないだのラブレターのおかげで人のいいバルベルト様は、私を夜会に招待した。その女今宵、狩られるともつゆ知らず。私の手には可愛いポーチとある小さなビラと手紙を数千枚。
 私はコーリアからアゼリアに変わった。バルベルト様を想う可愛い女に。だから、少しの間だけ相手をしてあげる。おきれいな『貴公子』のね。

「ごきげんよう。バルベルト様。」
バルベルトの顔はあまり変わらない。容姿だけでいえば『貴公子』そのものだ。
「あぁ。こんにちは。君は……」
「いやぁね。アゼリアです。恋人のお顔もお忘れですか?」
「あ……あぁ。アゼリアか。変わらず美しいね。」
はい。出ましたーー。お決まりのセリフ。そして、愛人把握してなーい。もうちょっと遊ぶかな。
「まぁ。お上手ですね。いろんな方にいってるんでしょ?」
「まさか!君だけだよ。」
いやいや、嘘はいけないなぁ貴公子様。さっき、セリフはいてるの見ましたよ?
「うれしい!……ねぇ、バルベルト様。私たちが出会った時のこと覚えてらして?」
「あぁ。もちろん覚えているよ。」
嘘つき。私たち、いやアゼリアとバルベルトは出会ったことないし。た・に・んですよ?よぉーし。もういっちょ!
「あの夜の星空、今も忘れられないです。一緒に夜会を抜け出して見ましたよね。」
「……あ…あぁ。そうだったな。」
「あら?お忘れに?……そうよね。私ひとりのことなんて……記憶にないかしら。」
あぁーー。この演技いつまでやろうかなぁ。なんていっても受け入れるしかない貴公子がおかしくて笑いそう。
「そ……そんなことないさ。あの日のことは忘れられない。君との大切な思い出だ」
「ほんと?……うれしい!」
……うん。疲れた。もうそろそろいいかな。狩り時だ。ここまで相手してあげたんだから少しは感謝してよね。最後の夢の時間よ。たぶん……私は後ろで合図をまつ友人にゴーサインを送った。
「ところでバルベルト様。私ね、さっき夜会の会場でこんなもの拾ったの。何枚も落ちていたから……ざっと50枚近く?拾って来たんだけど……これあげるわ。」

 そこには、私がかき集めたバルベルトの愛人への数百枚にもおよぶラブレターと、もう数百枚にもおよぶ悪行と揉み隠した借金の数々の履歴書だ。全部、しっかりバルベルト宛のものである。
「そうそう。会場にはまだまだ数百……いや数千枚ぐらい?落ちていたの。私はね、まだ拝見していないんだけど。バルベルト様に早く会いたくって!私、拝見していいかしら?」
みるみる青くなるバルベルトの顔はもはや『貴公子』などではない。幽霊の類い?なのか?と言ってもいいほどの血の気の引いた顔だった。
「あら?顔色がよろしくないようね。体調でも崩しましたか?お腹のご調子が?……それとも……その紙に何かよろしくないことでも?」
「あ……あぁ。いや、対したことはないよ。大丈夫だ。」
よろしくなくて当たり前よね。貴公子様?笑顔がなってないわよ?
「ほんとに?よかった。私、気になってましたの。さっき、通りかかった時これを見た夜会の方たちが青い顔……赤い顔。色とりどり。……そうねぇ、あなたのお父様は……確か……赤いお顔をされていたわ!」

バルベルトの顔はこれでもかというぐらい血の気が引いた青白い顔だった。

「ねぇ。やっぱりバルベルト様。お顔、血の気が引いたようだわ。私、心配です。今日は休まれたら?……ゆっくりゆっくり……ね。」
「あ…あぁ…」

別れの挨拶をすることもなくバルベルトは夜会の会場へと姿を消した。今後、バルベルトが改心しない限り幸せをつかむことも、恋人を作ることもできないだろう。バルベルトのお父様はとても人の良い方だ。仕事も人間関係も。バルベルトの性格が曲がったのはいつからだろう。今はなき、お母様が原因なのだろうか。それでも、私ができることはたかが知れている。

 私にできることは、バルベルトの全ての悪事を暴き、落とし、そして

 今を壊すことだけなのだ。後は、本人のみぞ知る……である。


 皆さま。狩りは楽しまれましたか?

 夜会に放たれた一匹の野獣。獲物を狩り、夜の闇夜にて消え去ります。最後に残るのは、野獣の雄叫びか。……獲物の悲鳴か。

 次のチャイムまでもう少し。
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