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第2章
4 パレードを観ました
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長かった前王の喪がようやく明け、陛下の即位を祝うパレードが数ヶ月後に行われると、サイラスが話してくれた。
言った後すぐに「しまった」という顔をしたから、本当は私に知らせるつもりはなかったのだろう。
陛下に口止めされていたのかもしれない。
私はダメだと繰り返すサイラスに「見たい」としつこくお願いした。そして最後には根負けしたサイラスから「こっそりとなら」という回答を引き出した。
陛下の意向で、私は王宮で行われる陛下の民衆への挨拶などを見に行くことは許されていない。陛下に近づくことを許されていない。
そう、聞かされている。
でも街で行われるパレードなら、たまたまその日そこにいたという言い訳がギリギリ立つ。
多分、今回が陛下となった殿下を目にすることのできる、最初で最後の機会になる。
私があの人を見ることのできる、最後の機会になる。
サイラスが、パレードが行われる通り沿いの建物の、二階の部屋を借りてくれた。
人混みは危険だからと、夜も明けきらぬ早朝、朝靄に紛れて建物に入った。サイラスは、殿下と顔が似ていて目立つから危ないので断ろうとしたのだけれど、帽子で顔を隠し気味にして一緒に来てくれた。「母上に何かあったら殺される」なんて冗談を言って。
部屋の中には、時間をずらして建物に入った護衛たちもいる。通りからも観衆に紛れて別の護衛が見守ってくれているらしい。
屋敷で一緒に暮らしているとあまり実感がないのだけれど、サイラスも王子なので警護には気を使うようだ。
私の我が儘で引っ張り出してしまって、少し申し訳なく思った。
時間が経つにつれ、どんどん通りに人が集まってくる。
屋敷から出ることがほとんどない私は、陛下を一目見ようと通りを埋め尽くす人のあまりの多さに、息苦しささえ感じていた。
やがて時間になったのか、窓の外から遠く、パレードの音楽が聞こえてきた。お祭り騒ぎに浮かれる人々のざわめきも。
新王のお披露目とあって、王都の主要な通りを一日かけて周るらしい。
使用人に扮した護衛に護られて、私はちょっとよい商家の奥さん風の服でひっそりと窓辺に立った。今日は、通り沿いの建物に住む人なら、みんなそうしている。手持ちの一番良い服を着て、陛下を一目見ようと窓から身を乗り出している。
その人たちと同じように。
サイラスは「見飽きた顔だから僕はいい」と窓から離れた部屋の奥に座った。そんなことを言いつつも一緒にいてくれるサイラスは、やっぱり優しい。
賑やかな音楽の音がだんだん大きくなってきた。陛下を目にして興奮する、人々の歓声も。
派手な輿に乗る人影が見えた。
近づいてくるその姿を一心に見つめる。遠くてまだ細かいところまでは見えないけれど、仕草でなんとなく彼だと分かった。
混沌とした感情が胸に込み上げる。
陛下の乗る輿が近づいてくる。
口々に新王を祝う声。
陛下に向かって振りまかれる、視界を覆い隠しそうなほどの無数の花びら。
興奮に湧く市民の歓声に応えるその姿をなんとか目に焼き付けようと、窓枠をつかんで必死に身を乗り出す。
輿がちょうど、私がいる部屋の前を通った時だった。
ふと、陛下の視線がこちらを向いた。
そして驚いたように見開かれる。
一瞬、辺りが無音になったような錯覚を覚えた。
殿下が私に気づいた。
予想外のことに、硬直する。
微笑もうとしたけれど無理だった。むしろ泣きそうに顔が歪む。
殿下はそんな私に「仕方ないな」とでもいうように一瞬苦笑してみせると、すぐに前を向いてしまった。
そのまま、陛下を乗せた輿は去っていく。二度と私の手の届かないところへと。
殿下の視線が私に向けられた。
殿下が、私を見てくださった。
もう一度、私に微笑んでくださった。
そして、去って行ってしまった。
永遠に…
私は堪えきれず床に泣き崩れた。
泣き声は、パレードの音がかき消してくれた。
長かった前王の喪がようやく明け、陛下の即位を祝うパレードが数ヶ月後に行われると、サイラスが話してくれた。
言った後すぐに「しまった」という顔をしたから、本当は私に知らせるつもりはなかったのだろう。
陛下に口止めされていたのかもしれない。
私はダメだと繰り返すサイラスに「見たい」としつこくお願いした。そして最後には根負けしたサイラスから「こっそりとなら」という回答を引き出した。
陛下の意向で、私は王宮で行われる陛下の民衆への挨拶などを見に行くことは許されていない。陛下に近づくことを許されていない。
そう、聞かされている。
でも街で行われるパレードなら、たまたまその日そこにいたという言い訳がギリギリ立つ。
多分、今回が陛下となった殿下を目にすることのできる、最初で最後の機会になる。
私があの人を見ることのできる、最後の機会になる。
サイラスが、パレードが行われる通り沿いの建物の、二階の部屋を借りてくれた。
人混みは危険だからと、夜も明けきらぬ早朝、朝靄に紛れて建物に入った。サイラスは、殿下と顔が似ていて目立つから危ないので断ろうとしたのだけれど、帽子で顔を隠し気味にして一緒に来てくれた。「母上に何かあったら殺される」なんて冗談を言って。
部屋の中には、時間をずらして建物に入った護衛たちもいる。通りからも観衆に紛れて別の護衛が見守ってくれているらしい。
屋敷で一緒に暮らしているとあまり実感がないのだけれど、サイラスも王子なので警護には気を使うようだ。
私の我が儘で引っ張り出してしまって、少し申し訳なく思った。
時間が経つにつれ、どんどん通りに人が集まってくる。
屋敷から出ることがほとんどない私は、陛下を一目見ようと通りを埋め尽くす人のあまりの多さに、息苦しささえ感じていた。
やがて時間になったのか、窓の外から遠く、パレードの音楽が聞こえてきた。お祭り騒ぎに浮かれる人々のざわめきも。
新王のお披露目とあって、王都の主要な通りを一日かけて周るらしい。
使用人に扮した護衛に護られて、私はちょっとよい商家の奥さん風の服でひっそりと窓辺に立った。今日は、通り沿いの建物に住む人なら、みんなそうしている。手持ちの一番良い服を着て、陛下を一目見ようと窓から身を乗り出している。
その人たちと同じように。
サイラスは「見飽きた顔だから僕はいい」と窓から離れた部屋の奥に座った。そんなことを言いつつも一緒にいてくれるサイラスは、やっぱり優しい。
賑やかな音楽の音がだんだん大きくなってきた。陛下を目にして興奮する、人々の歓声も。
派手な輿に乗る人影が見えた。
近づいてくるその姿を一心に見つめる。遠くてまだ細かいところまでは見えないけれど、仕草でなんとなく彼だと分かった。
混沌とした感情が胸に込み上げる。
陛下の乗る輿が近づいてくる。
口々に新王を祝う声。
陛下に向かって振りまかれる、視界を覆い隠しそうなほどの無数の花びら。
興奮に湧く市民の歓声に応えるその姿をなんとか目に焼き付けようと、窓枠をつかんで必死に身を乗り出す。
輿がちょうど、私がいる部屋の前を通った時だった。
ふと、陛下の視線がこちらを向いた。
そして驚いたように見開かれる。
一瞬、辺りが無音になったような錯覚を覚えた。
殿下が私に気づいた。
予想外のことに、硬直する。
微笑もうとしたけれど無理だった。むしろ泣きそうに顔が歪む。
殿下はそんな私に「仕方ないな」とでもいうように一瞬苦笑してみせると、すぐに前を向いてしまった。
そのまま、陛下を乗せた輿は去っていく。二度と私の手の届かないところへと。
殿下の視線が私に向けられた。
殿下が、私を見てくださった。
もう一度、私に微笑んでくださった。
そして、去って行ってしまった。
永遠に…
私は堪えきれず床に泣き崩れた。
泣き声は、パレードの音がかき消してくれた。
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