【完結】なにぶん、貴族の夫婦ですので

夫

いつものように、ダンが想いを込めて私を見つめる。私はその視線を、嬉しさと後ろめたさの入り混じった気持ちで受けとめる。
ダンの手が、テーブルに置いた私の手の甲にそっと重ねられた。剣ダコのできた大きな手。その温もりを味わおうと、そっと目を閉じる。

次の瞬間、不意にガチャリとドアが開いて、あまり家に帰って来ない夫が現れた。
互いに硬直する。
ダンは慌てて重ねていた手を引いて、私から一歩離れた。

油断していた。
夫は騎士だからか、普段からあまり気配がしない。メイドたちと違って。
そう知っていたのに。

夫は私たち二人を見て、複雑そうな顔をした。
怒り、ではない。
困惑と…悲しみ、だろうか？
よくわからない。

「っ…これはっ…！」

ダンが私を庇うように一歩前に出た。
けれど夫は

「ダン」

静かに名を呼ぶことで、彼の動きを止めた。
夫は私をじっと見ている。
それからふっと軽くため息を吐くと視線を逸らした。そして

「後で話そう」

そう言いおいて、部屋から出て行った。