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歳の差なんて関係ないって言われても(シックスティイヤーズオールド) ⑨
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いつの間にか午前二時近くになっていた。
でも、いくら二時間ほど前に還暦になってしまったと言っても、隣に若い娘がほぼ半裸で横たわっている状況で、しかも場所は男女が概ね愛し合うために世に存在するラブホテルの一室である。
すんなりと寝られるはずはなく、私の目はますます冴えてくるのであった。
そしてタマコにとっては大変な夜になってしまったこと、その原因の一端は私にあったに違いないことなどを考えているうちに、彼女に対しての愛しさがもう一度こみ上げて来た。
その感情は親子以上も年齢が離れていても確かに男が女に感じる愛の種類のものであった。
私の片方の手は自然とタマコの首の下にもぐりこみ、気がつけばこちら側を向かせて抱き寄せていた。
するとタマコは何も言わずされるがままの状態で、まるで子猫のように身体をあずけてきた。
髪の毛を撫ぜ、もう片方の手でキャミソールの上から少女のように小さな胸の部分を掴んでみたが、彼女は何も言わず目をつぶっていた。
どれくらい時間が経ったのだろう。
いつの間にか寝入ってしまったが、途中目が覚めると腕の中にタマコの顔があった。
二十歳を少し過ぎたタマコは、髪の毛や首筋などからまだ少女の匂いが漂ってきて、懐かしい香りはやがて私を青春時代に引き込んだ。
その香りは魔術のように、今日還暦を迎えてしまったことなど嘘だとばかりにすべてを忘却の彼方に放り捨て去るのであった。
まるで母親の乳房にしゃぶりつくように胸に顔を埋めて微かな寝息をたてているタマコの安息の寝顔を見ていると、私までもが穏やかな気持ちに包まれ、性欲とは異なる感情で少し開いた彼女の唇に自分の唇を重ねた。
「今夜は大変だったな、タマコ。こんな事件は経験したくとも出来ないだろうし、ずっと先々も忘れないだろう。本当にこれは事件なんだよな、誰にも言えないふたりだけの秘密の事件だな」
そうこころの中でつぶやいたときにタマコの目が開いた。
そして今度は私の唇に彼女の方から唇を重ねてきて激しいキスとなった。
私はタマコをきつく抱きしめた。
タマコは起き上がり、私の体の上に覆いかぶさってきた。激しいキスが続いた。
「田中SVのこと、わたし前から好きだったんです。ホントです」
唇を離してタマコは言った。
「抱いてください、田中SV」
「だからSVはやめろって。ベッドの上だよ」
「あっ、そうですね。田中さん、抱いてください」
タマコは私の首筋に唇を押し付けた。
私は今置かれているシチュエイションは明らかに異常だしフェアじゃないと思った。
「タマコ、嬉しいけど、俺と君とは親子ほども年が離れているんだよ。それに彼氏もいるんだから・・・」
「歳の差なんて何ですか?関係ないです。彼氏なんて、いないのと同じ」
吐き捨てるようにタマコは言った。私の理性と欲望とが数分間闘った。
だがいつの間にか私の身体の上でタマコは寝息をたてはじめていた。
やれやれ、今夜はこれまでの人生で最も目まぐるしい日だなと思いながら、タマコの身体を横に移して布団をかけてやった。
しばらく彼女の寝顔を見ていると、再び意識が消えて私も眠りに落ちた。
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