サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽

Pero

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サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 ㊲

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     第一章 2001年 春

       三十七

 僕はバックパッカーとしては全くの初心者の部類であるが、日本での引っ込み思案な性格が、旅先では何故か躊躇することなく周囲の人に気軽に声をかけることができるようだ。

 おそらく旅に出ているという開放感と、やはり一人旅では常に誰かと話をしたいという自分では意識しない気持ちが内奥にあり、それが無意識のうちに行動となって表れるのに違いない。

 勿論、ビエンチャンのGHでのように、Hさんが気軽に僕のような冴えない中年男に声をかけてくれたから、このような素敵な旅になったのだが、僕だけではなく、旅先では訪れる土地へのときめきと不安が交差するものだから、無意識に積極的になるのかも知れない。

 また、旅の情報なども聞きたいから、おそらく誰もが日本での日常生活とは異なった気安さで、同じ旅行者に話しかけるものだとも思う。

 但し、これは善良な良識ある旅行者間での話で、見るからに危なそうな、何か薬や違法なものに手を出していそうな旅人には、直感的にヤバさを感じる時があり、自然と近寄らないものだ。

 要するに、類は友を呼ぶという諺にもあるように、真面目な目的で旅しているものは同じ様な人とめぐり合い、女や薬が目的の輩はお互いに臭いを嗅ぎつけてつるむだろうということである。

 前置きはともかくとして、僕は体調があまり芳しくない状態ではあったが、ネットカフェで知り合ったタンクトップの日本女性とカフェで一時間程話をした。

 彼女は小出さんといい二十八才、去年暮にオフィスワークをキッパリと辞めて一旦田舎に帰ったあと、田舎では何もないので再び東京に戻り、四月下旬から一ヵ月半の予定で東南アジアの旅に出てきたという。

 今回の旅は、以前旅先で知り合った男性とバンコクで落ち合い、チェンマイからチェンコーンを経てメコン川を渡ってラオスに入り、スピードボートでルアンパバーンに到着したらしい。

 このあとその男性とは別行動をとる予定で、男性はラオス北部を目指し、彼女はビエンチャンからタイに入って、インドネシアのバリ島に向かってゆっくり男漁りをすると語っていた。(男漁りは僕のアレンジです)

 僕は彼女が男性と一緒に旅をしていると聞いて、ショックのあまりにストローで飲んでいたレモンシェイクを鼻に吸い込んでしまってちょっとむせたが、かろうじて平静を保ち、「それで彼は今どうしているの?」と訊いた。

「実はスピートボートがすごく寒くて、ちょっと風邪をこじらせてしまったらしく、高熱を出して宿で寝込んでいるんですよ。一応薬は飲みましたから、昨日よりは少し良くなっているようですけど・・・」

 僕は体調を崩している旅行者が他にもいることにちょっと安堵したが、「じゃあ、そばについてあげないといけないんじゃないですか?」と、その男性の体調が気になって聞いてみた。

 旅先での体調不良はきちんと治さないと、旅そのものが楽しくなくなる。

「いいんですよ、私がいても何もできないし、それにこれから別行動をとるのですから」

 まあ僕は彼女と彼の関係などに入り込む権利も気持ちもないので、それ以上はその話には触れなかった。

「今夜六時頃に、この前の通りをズーと真っ直ぐに二百メートル程行った右側にある、ナジムというインド料理屋さんに他の仲間といますから、もしよければ食事をご一緒しませんか?彼も体調が良くなっていれば誘ってあげればいかがですか」

 こんなセクシーな女性とこれで別れるのがちょっと惜しかったので一応誘った。
 それから彼女と別れ、いったん宿に戻った。

 相変わらず体調が悪く、ベッドに横になってガイドブックなどを眺めていたら眠くなってきた。

 一時間ほど時間があるので目覚まし時計をセットすると、僅か三秒程であっという間に眠ってしまった。

「ウーン」という自分のうめき声に目が覚めると、時刻は午後六時を過ぎていた。
 慌てて顔を洗って歯を磨き、再び汗で汚れたTシャツを着替えてから、六時二十分ごろに宿を出た。

 ネットカフェに少しだけ立ち寄ってから「ナジム」に行こうと思って歩いていると、昨日バンビエンからバスで一緒だった日本人青年と偶然出会った。

「どこに行くのですか?」

「ネットカフェ寄ってから、夕食の約束の場所に行くんですよ」

 すると彼は「僕も一緒にお邪魔してもいいですか?」と言う。

 もちろん大勢の方が楽しいから僕はオッケーをした。
 彼はO村君といい、神奈川県横浜市から旅をしているとのことである。

 ネットカフェで、ホームページの掲示板に少し書き込んでからナジムに着いた。

 既にHさんとN君がビールを飲んでいて、その席に僕たちふたりが座り、しばらくしてから僕の代わりに洞窟ツアーに行ったI氏が現れた。

 皆でビアラオで乾杯後、各自が本場のインド料理をそれぞれ注文した。

【小出さんは来てくれるかなぁ】

 僕は小出さんがこの店に現れるかどうか自信がないので、彼女を誘っていることは黙っていた。

 *このインド料理店についてと、小出さんが果たして現れたかどうかは次号をご期待くださいね

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