サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽

Pero

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サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 ㊸

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     第一章 2001年 春

        四十三

 ラオスでは毎月二機や三機も飛行機が墜落していて、その度に多くの人々が犠牲になって、ただでさえ人口の少ない国が出生人口より飛行機事故で亡くなる人のほうが多いので人口が減少気味らしい。

 というのは勿論嘘に決まっているが、そんな危惧を抱きそうなくらいオンボロのプロペラ機だった。

 Hさんとニコン青年は十五分ほど立ち話をしていたが、時はふたりを引き裂く・・・やむなくニコン青年と別れたHさんは心なし寂しそうだったが、いよいよルアンパバーンともお別れだ。

 今回は残念ながら体調を崩してしまったので、思うように行動できなかったが、噂に聞いていた通りの魅力的な町だった。

 今度来る機会があれば、必ずニコン青年のゲストハウスに泊まってあげようと思った。
 
 さて、飛行機はゴーという音とともにあっけなく飛び立ち、みるみる高度を上げて行き、窓から見るルアンパバーンは緑豊富な綺麗な町だった。

 機内ふたり掛けの席が通路を挟んで両側に並び、定員は八十名程に思えた。
 僅か四十分程のフライト時間なのだが、オシボリと飲み物サービスがあり、ふたりのキャビンアテンダントが慌しく動いていた。

 途中何度か機体が大きく揺れると、隣の席のHさんはすごく怖がっていたが、僕は飛行機に乗った時は毎回死を覚悟しているので、別段どうってことはなかった。

 離陸して二十分ほど経ったときに、突然キャビンアテンダントが座っている席の近くの扉の辺りから水蒸気のような煙が立ち上った。

 僕たちの席のすぐ近くだったので、Hさんはキャーと叫んでシートベルトを締め直した。
 僕が平然と水蒸気の様子を眺めていたら、彼女が「怖くないんですか?墜ちるかもしれません」と言う。

「いや大丈夫でしょう。それにあなたと一緒なら、万が一墜落したとしても思い残すことはありません」

 そう僕は言ったのだが、Hさんは「私は嫌です。まだ死にたくありません」と言うのであった。(涙)

 まあ僕にもこの先の人生でやりたいことがたくさん残っているので、一応ヒヤヒヤしながらも顔に出さずに寝たフリをしていたら、間もなく午後十二時過ぎにビエンチャン空港に到着した。

 さすが首都の空港で、ルアンパバーンよりもかなり大きかったが、それでも宮崎空港程度だろうか。

 僕達は空港を出て、ともかくお土産を購入してから今日のうちにタイに入り、今夜の夜行列車でバンコクに向かう予定なので、目の前のタクシーに乗って市内に向かった。

 見覚えのある通りや建物の前を通過して、タラート・サオに到着したが、途中一週間ぶりに見るビエンチャン市内の様子がすごく懐かしく感じた。

 タラート・サオで僕達はビアラオと書かれたTシャツや民芸品などを買って、そのあと市場内のレストランで休憩したのだが、ふたりとも下痢のため何も食べられず、バナナシェイクなんかを飲むだけだった。

 考えてみれば、親子ほどに近い年齢差の男女が、異国のレストランで下痢状態でぐったりしている姿はかなり滑稽なものだと思うのだが、その時は本当に大変だった。

 しばらく休憩してからトゥクトゥクでボーダーまで向かい、入国時と反対の手続きをして、あっという間にメコン川を渡り、タイのノンカイに到着した。

 ボーダーからのバスはノンカイ駅には行かずに、だだっ広いバスターミナルに到着した。
 そこから駅まではトゥクトゥクを利用しなければならない。

 この時、トゥクトゥクの値段交渉で、向うの言い値と僕達の希望の値段とがかなり差があって、ちょっと時間がかかった。

 最初向うは五十バーツを提示してきた。僕達は体調が悪かったので、ふたりとも妙にイライラした状態で、三十バーツで行ってくれと譲らなかった。

 実際は彼女の方が毅然とした態度で、「三十じゃないと駄目、甘く見ないで!」バシッと音が鳴るように宣言し、それを僕は横でハラハラしながら見ていただけで、普段穏やかな彼女の意外な部分を垣間見たような気持ちになった。

 結局、「まあいいじゃないですか、四十バーツということで」と、僕がオロオロと情けなく間を取って交渉し、ともかく駅まで行ってもらった。

 彼女は既にバンコクまでの二等エアコン寝台席のチケットを購入していたので、僕の分を買うために窓口に向かった。

 もしここで僕がチケットを取れなければ、残念だが彼女とはお別れで、僕は夜行バスでバンコクに向かうつもりであった。

 今から思えば三等席ならば空席は当然あったと思うのだが、その時は体調がひどくて、とても寝台席以外で帰ることが頭になかった。

 僕は心の中で「どうか空席がありますように」と、神仏御先祖様などに念じながら窓口で、「バンコクまで、二等エアコン寝台席を」と言った。

 ところが窓口の駅員は無情にも、「Full」と言うのであった。

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