84 / 208
第二章 2002年 春
サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 84
しおりを挟む
第二章 2002年 春
84 Hさんとの再会 そして帰国
その二 (第二章 完結)
Hさんに、「ミャンマーでビールばかり飲んで、肝心の遺跡を訪ねたの?」と問い詰められ、N君は正直者だから言葉に窮したようだ。
「えっ?そりゃ行きましたよ。マンダレーのお寺は暑い中二ヶ所訪ねました。マンダレーヒルにも登りましたよ、マンダレーの町を一望できる絶景でしたわ」
N君にしては動いている方かもしれない。
何しろ彼はこちらから行こうと言わなければ、その土地の見所を積極的に訪ねようとはせずにビールばかり飲んでいるのだから。
「バガンには行かなかったのですか?」
さらにHさんの執拗な問いに、N君はエアコンのよく効いた部屋なのに汗だくになっていた。
「暑さに参って動けなかったのでバガンには行かなかったのですよ。それに遠いし・・・」
「バガンが遠いですって?飛行機で三十分、船だと十時間かかりますけど、それくらい旅行者にとっては普通でしょ?冬にルアンパバーンからフェイサイまでボートで行った時より楽かもしれませんよ」
「あの時は暑くなかったですから」
苦しい言い訳をしているN君と、それを厳しく攻め立てる二人を僕はニヤニヤしながら眺めていた。
勿論Hさんだって本気で言っているわけではない。
旅先でドップリ浸かりがちのN君に対するアドバイスの一つのようなものだ。
さて、朝食に出かけようということになった。
ホテルを出て通りを少しサーヤム方面に歩くとヌードル食堂がある。
何度かここで食べたことがあるので味は安心だ。しかし時刻が早かったので細麺しかないと言う。
ヌードルスープ・ウイズ・チキンを三人が注文したが、Hさんだけはノーパクチーなのだ。彼女は香草が大の苦手。
「今日はこれからどうしますか?」
HさんもN君もバンコクにもう一泊できるのだった。
「僕は今日の午後便で帰国するから、昼過ぎには空港に行かないとね」
この日は土曜日だったので、ウイークエンドマーケットに行くことで話が決まった。
一旦ホテルに戻り、パッキングを済ませてロビーで落ち合い、三人だからタクシーで行こうということになった。
僕だけがバックパックを背負ってのマーケットだ。
簡単にお土産をいくつか買ったら空港へ早目に行こうと思っていた。
ところがウイークエンドマーケットに着く少し前から雨が降り出した。
タクシーを降りて素早くマーケットに入った。ここは屋根がある市場だから大丈夫だ。
広い市場内の様々な店を覗いて歩く。僕だけが重いバックパックを背にして。
一時間ほど雨宿りをかねて市場を歩いたが、雨はやむどころかますます激しくなってきた。
店の中には雨が商品にかかってしまうので、一旦閉めるところも出てきた。
マーケットの端でバケツをひっくり返したような大雨を眺めながら、僕たち三人はしばらく佇んでいた。
今回の旅は恵まれた。
行き当たりばったりで、バンコクに到着した朝、ドムアン駅に最初に来た列車に乗ることに決めていたが、それがラオス国境・ノンカイ行きだったことが幸運の始まりだったのかもしれない。
旅の前半を同行してくれたR子さん。こんな怪しげなオヤジにも係わらず三日間も一緒に過ごしてくれた。
屈託のない笑顔が懐かしく思う。
後半をたまたま付き合ってくれたY子さん、それに韓国人青年との出会いも初めてドミトリーに泊まるきっかけとなった。
Y子さんは恐縮するくらい気遣いをする人だった。
最後にホテルをシェアしようと言って断られたけど、僕には何のたくらみもなかったことを念のため申し添えたい。
そして旅の終わりにN君とバンコクの歓楽街を楽しんだ。Hさんとも再会できた。
「N君、Hさん。雨はやみそうにないし、僕は早めに空港へ行くよ。また日本で会いましょう」
「そうですね。じゃあまた」
二人の言葉を背に受けて、僕は降り続く雨の中を視界に止まっている青いタクシーめがけて走ったのだった。
- 第二章 2002年 春 完 -
第二章を最後までお読みくださりありがとうございました。
この旅行記の感想をお寄せくださると嬉しいです。今後の旅行記などへの参考にしたいと思っています。
E-mail pero@carrot.ocn.ne.jp
※引き続き第三章 2006年暮れから年始の旅 を数日後から開始します。
よろしくお願いします。
84 Hさんとの再会 そして帰国
その二 (第二章 完結)
Hさんに、「ミャンマーでビールばかり飲んで、肝心の遺跡を訪ねたの?」と問い詰められ、N君は正直者だから言葉に窮したようだ。
「えっ?そりゃ行きましたよ。マンダレーのお寺は暑い中二ヶ所訪ねました。マンダレーヒルにも登りましたよ、マンダレーの町を一望できる絶景でしたわ」
N君にしては動いている方かもしれない。
何しろ彼はこちらから行こうと言わなければ、その土地の見所を積極的に訪ねようとはせずにビールばかり飲んでいるのだから。
「バガンには行かなかったのですか?」
さらにHさんの執拗な問いに、N君はエアコンのよく効いた部屋なのに汗だくになっていた。
「暑さに参って動けなかったのでバガンには行かなかったのですよ。それに遠いし・・・」
「バガンが遠いですって?飛行機で三十分、船だと十時間かかりますけど、それくらい旅行者にとっては普通でしょ?冬にルアンパバーンからフェイサイまでボートで行った時より楽かもしれませんよ」
「あの時は暑くなかったですから」
苦しい言い訳をしているN君と、それを厳しく攻め立てる二人を僕はニヤニヤしながら眺めていた。
勿論Hさんだって本気で言っているわけではない。
旅先でドップリ浸かりがちのN君に対するアドバイスの一つのようなものだ。
さて、朝食に出かけようということになった。
ホテルを出て通りを少しサーヤム方面に歩くとヌードル食堂がある。
何度かここで食べたことがあるので味は安心だ。しかし時刻が早かったので細麺しかないと言う。
ヌードルスープ・ウイズ・チキンを三人が注文したが、Hさんだけはノーパクチーなのだ。彼女は香草が大の苦手。
「今日はこれからどうしますか?」
HさんもN君もバンコクにもう一泊できるのだった。
「僕は今日の午後便で帰国するから、昼過ぎには空港に行かないとね」
この日は土曜日だったので、ウイークエンドマーケットに行くことで話が決まった。
一旦ホテルに戻り、パッキングを済ませてロビーで落ち合い、三人だからタクシーで行こうということになった。
僕だけがバックパックを背負ってのマーケットだ。
簡単にお土産をいくつか買ったら空港へ早目に行こうと思っていた。
ところがウイークエンドマーケットに着く少し前から雨が降り出した。
タクシーを降りて素早くマーケットに入った。ここは屋根がある市場だから大丈夫だ。
広い市場内の様々な店を覗いて歩く。僕だけが重いバックパックを背にして。
一時間ほど雨宿りをかねて市場を歩いたが、雨はやむどころかますます激しくなってきた。
店の中には雨が商品にかかってしまうので、一旦閉めるところも出てきた。
マーケットの端でバケツをひっくり返したような大雨を眺めながら、僕たち三人はしばらく佇んでいた。
今回の旅は恵まれた。
行き当たりばったりで、バンコクに到着した朝、ドムアン駅に最初に来た列車に乗ることに決めていたが、それがラオス国境・ノンカイ行きだったことが幸運の始まりだったのかもしれない。
旅の前半を同行してくれたR子さん。こんな怪しげなオヤジにも係わらず三日間も一緒に過ごしてくれた。
屈託のない笑顔が懐かしく思う。
後半をたまたま付き合ってくれたY子さん、それに韓国人青年との出会いも初めてドミトリーに泊まるきっかけとなった。
Y子さんは恐縮するくらい気遣いをする人だった。
最後にホテルをシェアしようと言って断られたけど、僕には何のたくらみもなかったことを念のため申し添えたい。
そして旅の終わりにN君とバンコクの歓楽街を楽しんだ。Hさんとも再会できた。
「N君、Hさん。雨はやみそうにないし、僕は早めに空港へ行くよ。また日本で会いましょう」
「そうですね。じゃあまた」
二人の言葉を背に受けて、僕は降り続く雨の中を視界に止まっている青いタクシーめがけて走ったのだった。
- 第二章 2002年 春 完 -
第二章を最後までお読みくださりありがとうございました。
この旅行記の感想をお寄せくださると嬉しいです。今後の旅行記などへの参考にしたいと思っています。
E-mail pero@carrot.ocn.ne.jp
※引き続き第三章 2006年暮れから年始の旅 を数日後から開始します。
よろしくお願いします。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる