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第三章 バンコク近郊・意外展開旅行記
サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 85
しおりを挟む予定では、第三章は2006年暮れから年始の旅を考えていましたが、2002年の夏の旅行記に変更します、よろしくお願いします😅
第三章 バンコク近郊・意外展開旅行記
この旅行記は2002年の夏のものです。
体調が悪くなったり良くなったりしながら、中島みゆきさんや南こうせつさんと知り合ったり(よく似た人ということですけどね)、バンコクのカオサンの安宿でノンフィクション作家の大倉直さんと遭遇したのもこの旅のラストのあたりでした。
★第一話★
交渉制タクシーとの奮闘と偶然の再会
午前十時二十分、関空発シンガポール航空便タイ・バンコク行きの機内は、毎回の如く満員であった。
三人並びの通路側の席を希望した僕の内側の二席には、二十過ぎの若い女性が座っており、ちょっと話をすると初めてのタイ旅行だという。
節約バックパッカーでもなくて、宿泊ホテルは三千円程度の所を予約しているらしく、また旅の期間も四日間だというので、それなら旅行代理店のパックツアーのほうが安くて安全だと思いますよと、分かったような偉そうなアドバイスをして満足をする僕であった。
しかし僕はこの時点ですでに三十九度近い熱があり、フラフラの状態なのだった。
ただ食欲だけは全く衰えがなく、出された機内食をスープの一滴まで平らげてしまい、横の女性に笑われる始末だった。
現地時間で一時半頃にバンコク・ドムアン空港に着き、重いバックパックを背負って鉄道駅に行く。
二十分ほど列車を待つが一向に来る気配がなく、身体も重いのでタクシーで宿まで行くことに決め、空港のタクシー乗り場へ戻り乗車する。
しかしこれがいけなかった。メータータクシーに乗ったつもりが、交渉制のタクシー乗り場だったのだ。
発車してしばらく経ってから、「マーブンクロンまでいくらだ?」の僕の問いに、「三百五十バーツだ」と眠たいことを言うのだ。
「お前クレイジーか?何を言うてんねん。二百バーツで行ったらんかい!」と憤慨して適当な英語で言うも、彼は首を横に振って言葉が分からない振りをしている。
「ともかく降りる。BTS(スカイトレイン)の最寄の駅で降ろしてくれ」と言うとようやく頷き、それから十五分ばかり走ってモーチット駅近くで停車した。
しかしここからが大変だった。
僕がここまで六十バーツくらいだろうけど、メータータクシーではないから百バーツを支払った。
「それでいいか?」と言って、百バーツ紙幣を手渡そうとすると、「ノーノー」と首を振り困った顔をするのだ。
相変わらず彼は三百バーツ以下の値段は譲らず、馬鹿げた価格に僕が次第に憤慨の度を増してきて、声も大きくなってきた。
彼は要するに空港の担当者に五十バーツは手数料として持っていかれるので、三百バーツをもらっても取り分は二百五十バーツだと言うのだ。
しかしそちらの都合なんぞ関係がない、ともかくクレイジープライスだ!と僕も絶対に引かない姿勢だ。
結局、十数分の交渉のあと、彼も泣きべそをかいたような情けない顔をするので、人情味溢れた渡世の仁義を守る人生を送っている僕としては、メータータクシーに乗らなかったのは僕のミスでもあるので、ここは自分の非がある分を認め、二百バーツで手を打つといった。
ところがである。それでも彼は仏像に題目を唱えるが如く、「三百バーツ!三百バーツ!なんまいだぁ」とホザクのである。
身体がカッカと火照り、頭にも随分と血がのぼりはじめて、高熱があるに加えて高血圧の持病も持つ僕としては早くホテルで休みたい気持ちが強く、とうとう彼に屈服してしまったのだった。
“二百七十バーツ” この値段はマーブンクロンまで行っていたら、ちょっと高い程度で済んだかもしれないが、BTSのモーチット駅で降りたわけだから、相場より200バーツほど多く支払った計算になる筈だ。
冷蔵庫のようによく冷えたBTSスカイトレインでサイアムに向かいながら、このトラブルは今回の旅の今後を暗示しているのではないかと、ちょっとモーレツかなり激烈弱気になっていたのだった。
スカイトレインのナショナルスタジアム駅で降りて、ジムトンプソンの家の近くに所在する安宿街に歩く。
この周辺は東京の渋谷駅や新宿駅周辺と遜色ない喧騒と雑踏である。
僕は重いバックパックを背負いながら、三十八度以上の熱っぽい身体を引きずるようにして、いつもちょっと贅沢する時に泊まる「Kri Thai Mansion」のフロントに着いた。
しかし僕の顔を見るや否や、中国系のフロント女性は満室ですと素っ気なく言うのだ。
「明日は空きますか?」と僕は訊いてみたが、彼女は首を横に振りながら、「明日も今のところ空きそうにありません」と言うのだった。
心身ともにほぼ瀕死に近い状態になりながらそのホテルをあとにして、近くの宿を訪ね歩いた。
しかし、二軒訪ねるも満室だ。連休だから何処も一杯じゃないかと二軒目のフロントの男性が言った。
連休ってどういうことなんだろう。
さらに奥に歩いて、「Bed&Breakfast」と看板のかかったちょっと小さめの宿を訪ねた。
入ったところはレストランになっていて、その奥が事務所だ。
ガラス張りの事務所に入って行くと、中年の女将さんが、「最後のシングルの部屋が空いてるよ。三百八十バーツ(1200円程度)」と言うので、僕はとりあえず救われた気持ちになり、部屋を見せてくれと言うのも忘れてチェックインしたのだった。
部屋はなかなか小奇麗で、シーツも清潔だ。
シャワー室は結果的にお湯が出なくて水シャワーを浴びることとなったが、居心地はあまり悪くはなかった。
ただ、エアコンが効きすぎていて温度調節が不能、十分間つけて一時間ほど消すといったことを何度も繰り返さなくてはならず、熟睡ができなかった。
ともかくバックパックを降ろして少し横になり、疲れが少し取れたような気がしたのでコンビニへ買い物に出た。
今夜は食欲もないから、飲み物とクッキーでも食べて早く寝ようと思った。
通りに出て右に曲がった所にあるセブンイレブンに入った。
店の奥のほうに進もうと思ったその時、「Peroさん!」と背後で大きな声がした。しかもその声は女性のものだった。
【ん?ここはバンコクだ。どうして僕の名前を呼ぶ人がいるのだろう】と不思議に思いながら恐る恐る振り向くと、何とそこには去年のラオス旅行で知り合って数日一緒に移動し、この年の春も一日だけN君とともに過ごしたH嬢が立っているではないか。
何とまあ、偶然とは恐ろしいものだ。
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