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第四章 タイ・ラオス・ベトナム駆け足雨季の旅
サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 145
しおりを挟む二十九話
2007年7月5日、ラオスのサワナケートからベトナムのフエを往復して、さらにタイ北東部のムクダハーンを経てバンコクへ駆け足で戻ってきた僕は、サワナケートのバスターミナルで知り合ったI君と再会するために、ホアランポーン駅近くのファミリーGHを訪れた。
入り口で本を読んでいた男性がルポライターの大田周二さんだった。
普段の活躍の場はミャンマーや、イスラム信者が比較的多いタイの南部らしいのだが、いずれも目下のところ情勢が落ち着かず、取材にはしばらく様子見状態なので、このGHに長期滞在しているのだとか。
精悍な顔つきに反して、すごく丁寧な物腰、笑うと目じりが下がり、人の良さが窺えた。
遠慮なく入り口のチェアーに座りI君が戻るのを待った。
最初は当然大田さんのことはまったく知らなかったので、このゲストハウスには旅行中の滞在かと思っていた。
だが話の途中で「実はここの雑用をしているのですよ。宿泊代は無料にしてもらって、客対応とかその他諸々をやっています。清掃は別のスタッフがいますけどね」とおっしゃった。
ファミリーGHは一応「地球の歩き方」のゲストハウス部分の最後尾あたりに掲載されているので、日本人のバックパッカーがよく訪れるらしい。(今は無くなっています)
チェンマイに本社のある旅行代理店が経営していて、ファミリーGHまでは手が回らないらしく、タイ人の親戚筋に任せっきりの状態なので、収支は最悪だとか。
つまり、任されているタイ人が博打好きで、店の売り上げを一か八かの博打に流用した挙句大穴を空け、ある日突然行方不明になったままだとか。
大田さんも「バカなタイ人気質が思いっきり出たゲストハウスですよ。ま、私は宿代タダだし、店番やっていればよいのですけどね」と呆れていた。
僕が訪れた日の少し前にも、別のタイ人夫婦が店を任されていたが、奥さんが夫の博打好きに愛想をつかして出て行ったとか、話の真相は明確には覚えていないが、つまりそのような経営上の不始末が続いて、ゲストハウス自体の収支は全く成り立っていないとのことだった。
そんな話をしているところへI君が帰ってきた。
「アッ、藤井さん、戻ってらっしゃいましたか」
目上の人間への言葉遣いも丁寧な、しっかりした若者の姿がそこにあった。
ついこの前、サワンナケートのバスターミナルで少し言葉を交わしただけなのに、何故か懐かしい思いがした。
隣の店でペプシを買ってしばらく三人であれこれ話をした。
I君はタイが大好きで、これまで何度も訪れているらしい。
家業を手伝って、ある程度まとまった貯蓄ができてはタイを中心とした東南アジアに旅行に出て、帰国したらまた仕事に復帰して頑張る、といったことを繰り返している。
ただ、家業も廃業することになるらしく、そうなると就職しては辞めて旅に出て、また新たな職場に就くといったことが現実的には難しくなるだろうと言っていた。
「長期の旅行は快適で、心が洗われるのですが、帰国してからの仕事がこの不景気で厳しいですからね」
I君は語っていた。
大田さんのプライベートな部分を、いくら読者の少ないメールマガジンで書いたとしても、大田さんのことを知る人に検索エンジンで引っかかったらまずいかも知れないので、あまり詳しく書かないが、とても魅力的な人だった。
長年、編集関係に従事し、「パゴダの国のサムライたち」や「ルポルタージュ 長良川河口堰を考える─人と自然の共生を求めて」などを出版したあと、いろいろなことがあってタイを活動の場としたようだ。
近くの某ゲストハウスに滞在する行儀の悪い欧米人に「ヤキ」を入れたり、正義感と男気の強い人である。
この日はI君と近くの屋台で食事をして別れたが、もう少し滞在しているとのことなので、パタヤーから戻ってきたらまた飲みましょうと言って別れた。
旅も終盤になってきたが、気持ちの良い酔い方でカオサンの宿に戻った。
◆今日はホアランポーン駅を訪れました。変わりはありませんでした。
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