サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽

Pero

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第六章 ベトナム旅行記・アイスコーヒーウイズミルク

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        第六話


 ハノイ駅はサイゴン方面の統一鉄道が発着するA駅と、ラオカイやドン・ダン方面の列車が発着するB駅に分かれていて、改札を入ればプラットホームが隣接しているのだが、駅が東側のA駅と西側のB駅とに完全に分けられ、それぞれのチケット売り場が設けられていた。

 僕がB駅に到着したのは午後八時前くらいで、辺りはかなり暗かったが、駅周辺の屋台や商店などはまだまだ人々でごった返していた。

 考えてみたら、バンコクからハノイに着く間に機内食を食べたきり、到着後はアイスコーヒー・ウイズ・ミルクは二度も注文したが、食事は一度も摂っていないことに気がついた。

 駅近くのフォー屋(フォーとは代表的なベトナム麺で、米粉を蒸して作った白い麺を、牛骨スープや鶏がらをベースにしたものに味の素を小匙でドバッと入れ、香草やら肉類や野菜を適当に乗っけて、さらにライムをひと絞りして食べるもので、これは本当に美味しい)にでも入ろうかとも思ったが、どういうわけかあまり腹が減っていないし、売店でタイガービールを購入してベンチに腰を下ろしてゆっくり飲んだ。(因みに五千ドン・・・三八円くらい)

 ラオカイ行き夜行列車は十時発だから改札は九時から行われる予定で、駅の待合室には家族連れや商売人風の男女、旅行者などがポツリポツリと現れてきた。

 ビールを飲んだせいでかトイレに行きたくなり、重いバックパックを背負ったままトイレの入口に座っているおばちゃんに千ドン(約八円)を支払って小便を済ませた。
(ハノイには無料の公衆トイレというものはないらしく、公園のトイレも有料で、入口におばちゃんが座っている)

 待合室には新聞の売り子やフランスパンを売りに来るおばあさん、水タバコ屋のオヤジさんなどがいて、あれこれ眺めていて退屈しない。

 しかしどういうわけか欧米人バックパッカーは時々見かけるが、日本人旅行者は全く見かけない。それに駅の待合室全体の雰囲気がどうも退廃的というか元気がないので、僕は不安な気持ちがいつまでも消えなかった。

 午後九時を過ぎるとようやく駅全体に人が増えてきた。チケット売り場では予約していない人々が駅員と大きな声で交渉している。

 午後九時半頃には待合室と、駅舎の隣のちょっとした広場の向こうにある大きな鉄扉が開かれ、ぞろぞろと乗客が改札口に向かい始めた。

 改札口は日本の駅のものとは全く違っていて、大きな屋敷の入口のような扉を開けて、駅員がチケットをチェックするのだが、乗客ではない人も簡単に中に入ってしまえるようであった。
 僕もバックパックを背負って中年の太った女性駅員にチケットをチェックしてもらって中に入り、プラットホームに停まっている黒っぽい巨大な列車の方に向かった。

 プラットホームといっても僅か十数センチ高くなっている程度で、これは昔の欧米の映画などによく出てくる駅のホームという感じである。
 要するに列車に乗る際に手すりを持って、ステップにかなり足を上げないと乗れないくらい低いもので、足の短い僕などにはちょっと大変なのだ。

 僕がチケットの番号を見ながら歩いていると、十五才にも満たないと思われる少年がベトナム語で、「何番の席なのですか?僕が案内してあげましょう。」という風に話しかけてきて、チケットを覗くのだ。

「これ何て書いてるんだい?ハードSって書いてるのかなぁ」

 印字された文字が読みにくいので、僕はその少年にチケット見せた。

「Hard sleeperですよ。三一番のコンパートメントです。こちらです」

 彼は僕を親切に案内してくれるので、なんだか分からないままついていった。

 目的の車両の乗り込み口近くまで来ると、制服を着た女性駅員が僕にチケットを見せなさいといってきたので、ここまで案内してくれた少年は要するに観光客に対しチップを目的にしているのだ。

 僕は少年に五百ドン札(四円程)を渡して「ありがとう」と礼をいった。

 ともかくハードスリーパーの席というのは、いわゆるコンパートメントで、一部屋に三段ベッドが二列並んでいるのだが、ベッドといっても木のベッドにござを敷いているだけのもので、硬いからそう呼ぶのだろう。
 僕の席は三段の最下部で、これはあとで分かったことなのだが最も値段の高い席である。

 因みに値段は約二千円で、このハノイからラオ・カイ間の列車は、ハードシート席(硬座席)、ソフトシート席(硬座席にビニールを張ったものでちょっとだけクッションがあるらしい)、それにこのハードベッド席の三種類あるが、寝台車はこの車両のみだった。

 要するに最も値段の高い席に乗車しているわけで、しかも僕はそのコンパートメントの中でも一番値段の高い最下部席であるということなのだ。(最上席は天井との間が狭く窮屈で、真中の席はまだ良い方だが窓の外が見えない)

 あの人の心遣いに感謝したが、ベトナムの列車は自国民と外人とは運賃が異なっていて、外人はほぼ倍の値段らしいのだ。
 しかし殆どのベトナム人はハードシート席か、ソフトシート席に乗車するようで、コンパートメントに乗れるベトナム人はかなり生活にゆとりのある人か、ビジネスマンか公務員という立場の人であるらしい。

 僕は木のベッドを開けてその中にバックパックを入れて(最下部席のベッドの下だけが収納箱になっている)、窓の向こうに見える人々や風景を眺めていた。 

 しばらくして同じコンパートメントに三十才前後の男性が入ってきて、反対側の三段ベッドの最下部席に座り、ベッドの下の収納箱にアタッシュケースとショルダーバッグをしまって現地の新聞を読み始めた。

 そして彼の方から、「どこから来たのですか?」と話しかけてきた。
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