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運命の人
しおりを挟む伊吹と部屋でランチタイムを楽しんでいると、千畝が彼を呼びに来た。
月に何回か、こんなふうに突然招集がかかる。
特別慌てた様子もなく伊吹はいつもマイペースだけれど、最近の彼は少し様子が違っていた。
「ユミ、行ってくる。」
この部屋を出ていく時、必ず私にキスをする。
「行ってきますのチュウ」というやつだ。
「い・・伊吹君・・・っ!!」
唇にではなく、頬や額に優しく落とされる彼のキスは、たまらなく心臓に悪い。
男性経験値底辺層の私には、少々刺激が強すぎる。
イケメンからのキス。
何度されようが、簡単に慣れることは出来なかった。
早くしろと、千畝が腕時計を見ながら彼を急かす。
伊吹が私の頬にキスした後、千畝とバッチリ目が合った。
何か言いたげな視線だと思うのは、妄想が過ぎるだろうか。
以前重ねた千畝の唇の感触が、一瞬にして蘇る。
一人になった部屋で、ナポリタンを口に運びながら、私はここ数日の出来事を思い返していた。
(伊吹君と一線越えそうになったり、大我君と一緒にお風呂に入ったり・・・私のモテ期、すごくない・・・?!大我君の裸・・・もっとじっくり見たかったなあ・・・♡)
「・・・アンタ、誰?」
「え?」
突然響いた声に、顔を上げると、そこには見知らぬイケメンが立っていた。
青い髪の、美青年。
ネイビーに近いような、深い青の髪色が印象的だ。
至近距離でなくともはっきりわかるほどまつ毛が長く、きめ細やかな肌は病的なほど白い。
生気が感じられず、精巧な人形のように見える。
じっとこちらを見つめている瞳は、ひどく冷たい。
声も細く、機械音のように抑揚がなかった。
「アンタ、誰?」
答えない私にイラついたのか、彼はもう一度同じ言葉を投げる。
「えっと、初めまして。私は・・・ユミです。」
英語の教科書によくある例文めいた自己紹介に、内心自虐ツッコミしつつも、気の利いた言葉が見当たらない。
「ユミ・・?アンタは・・・人質?」
彼はまるで、ロボットみたいだ。
途切れ途切れに言葉を紡ぐ彼の顔の美しさに、見惚れてしまう。
(こんな色男のロボットだったら、ぜひ一台欲しいなぁ・・・♡)
「あ、純夏、ここにいたのか。頼むから、急に居なくなるのやめてくれよ。」
薄く扉を開けて部屋を覗いた茶髪の長身男が、ホッとした顔で、ロボットイケメンの元へ駆け寄る。
ロボットの彼は、純夏という名前らしい。
響きが美しいその名は、彼の雰囲気にぴったりだ。
茶髪の長身男も、これまた当然のようにイケメンだった。
手足が長く、顔が小さくて、モデルのようなスタイルをしている。
自信がなさそうに見えるのは、彼がため息ばかりついているせいだろうか?
登場してからすでに5回は、深いため息を吐き出している。
「あれ?この部屋って、例の監禁部屋ですか?すみません、突然・・・」
(監禁相手に、この腰の低さ・・・!?誰なんだろう、このイケメン・・・・♡)
いとも簡単に監禁部屋の扉を開け閉めするこの組織の男どもは、私が逃げ出すという危機感を一ミリも抱いていないらしい。
(まぁ、こんな天国から逃げ出すわけないけど・・・!)
「とんでもないです。私は数ヶ月前から監禁されております、ユミと申します。」
無駄に丁寧な会話を交わし、深々とお辞儀を交わした私たちは、顔を見合わせてふっと苦笑いを浮かべた。
「俺は葉月っていいます。こっちはペアの純夏。こいつ、目離すとすぐどっか行っちゃって。ほら、純夏、行くぞ。」
手を引いて扉の外へ連れ出そうとする葉月の手を、青髪の彼はパッと振り解いた。
「やだ。俺、今日からずっとここで暮らす。」
純夏は、じっと私を見つめたまま動かない。
「はぁ?お前何言ってんだ。とりあえず今は会議に出ないと、ボスにぶっ飛ばされるぞ。」
聞き分けのない子どもをあやすように、葉月が呆れた表情で説得にかかる。
「一眼見て、すぐわかった。・・・アンタは、俺の・・・運命の人だ。」
抑揚のない淡々とした声で言うと、純夏は私を指差した。
目の前まで歩いてきた彼は、私の手をとり跪くと、手の甲にそっと口付ける。
「アンタは、俺の運命の人だ。」
彼は私の目を見つめながら、もう一度同じ言葉を繰り返した。
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