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雪解けの前に
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外周に設置されたフェンスの近くに置かれたベンチに鬼谷が座る。それに合わせて燈も横に座った。
「なんでだと思う?」
「それがわからないから聞いてるんじゃないか」
「そうだけど。ただ教えるだけじゃ面白くないじゃない」
「面白さなんて求めてないんだけど」
「いいから」と鬼谷が言って燈は渋々考える。
「う~ん、内蔵の病気。とか?」
「内蔵ね。燈君は腎臓が悪いんだっけ?」
「ううん。体全体が悪いよ。特に腎臓の調子が悪いってだけ」
「そう……辛い?」
「それ、よく聞かれるんだけど。病気はそんなに辛くないんだ。ただ……」
「ただ?」
「……何年か前、公園で怪我した女の子のこと覚えてる?」
「え……うん。すぐ横の公園だよね」
鬼谷はフェンスの外に視線を移す。
屋上から見るとほぼ真下にあたる位置に公園がある。燈は公園を見下ろしながら頷いた。
今はもう無くなってしまっているが、昔は雲梯が設置されていた。本来ぶらさがる為に用意された棒を橋と見立てて、歩いて渡った時に事故にあった女の子がいた。
棒と棒の隙間に入り込む形で落ちてしまった女の子は落下の時に頭を強打。反動で顔を強くぶつけてそのまま擦りつけるように落ちてしまったらしい。
経過の観察を兼ねて入院した少女は惨たらしい傷痕を顔に残していた。少女自身もそのことに気を病んでいた様子で、入院当初は全く口を開かなかったのを覚えている。
「子供が入院してくるなんて滅多にないから二人で話しかけて友達になったよね」
「そうそう。燈君が提案したのよね。『彼女とお話したいから手伝って~』って」
「そんな言い方はしてなかったと思うけど……」
たまに大袈裟な言い方をするんだこの人は。
「それで、その子がどうしたの?」
「うん。仲良くなって色々お話しようとしたら彼女はすぐに退院してしまった。その子に限った話ではないけど、ここに来る子はいつかいなくなる。ここに残っているのは僕だけで……なんだか世界から隔離されてしまったような感覚がして、病気よりもそれが辛いんだ」
「隔離……か。うん、そうね。辛いよね一人は」
鬼谷の表情が暗いものに変わっていることに気付いて、燈はしまったと思った。
昔の記憶を共有している彼女もまた、長い時間この病院に取り残されている一人なのだと失念していた。それに彼女は自分よりも長い時間ここにいる。
燈が抱えている孤独を、鬼谷はより重く感じているはずだ。
ごめん。
そう謝ろうと口に出すより早く、鬼谷は表情を明るいものに変えてベンチから立ち上がる。
「燈君。あれを見てみなさい」
「あれって、どれ?」
「あれよあれ、病院の入口」
フェンスに近づき地面を指さす鬼谷に言われるまま、病院の入口を見てみるとトラックが止まっていた。荷台のロゴに見覚えがある。
「コンビニのトラック……?」
「そう、正解!」
鬼谷はこちらに向かって親指を突き立てる。
「多分購買の商品を補充しにきたのよ。早速見に行きましょ」
「えぇ……購買って確か2階でしょ……面倒だよ」
ちなみにここの病院は8階建てて、今いるのは屋上である。
「エレベーター使うんだから大してかわらないでしょ。ほら、プリン買ってあげるから」
「……まぁいいけど」
甘言に釣られて燈は頷く。
質素な食事に慣れたとはいえ、やはり味の濃いものは燈にも特別なものだった。
「そういえば、何であの子の話をしてたんだっけ」
エレベーターに向かう途中、燈がふとそう言った。「ん~……?」
悩んだような素振りを見せた鬼谷はこちらを振り向き笑顔を見せる。
「わかんないっ」
楽しそうに言った彼女はエレベーターのボタンを押した。
「なんでだと思う?」
「それがわからないから聞いてるんじゃないか」
「そうだけど。ただ教えるだけじゃ面白くないじゃない」
「面白さなんて求めてないんだけど」
「いいから」と鬼谷が言って燈は渋々考える。
「う~ん、内蔵の病気。とか?」
「内蔵ね。燈君は腎臓が悪いんだっけ?」
「ううん。体全体が悪いよ。特に腎臓の調子が悪いってだけ」
「そう……辛い?」
「それ、よく聞かれるんだけど。病気はそんなに辛くないんだ。ただ……」
「ただ?」
「……何年か前、公園で怪我した女の子のこと覚えてる?」
「え……うん。すぐ横の公園だよね」
鬼谷はフェンスの外に視線を移す。
屋上から見るとほぼ真下にあたる位置に公園がある。燈は公園を見下ろしながら頷いた。
今はもう無くなってしまっているが、昔は雲梯が設置されていた。本来ぶらさがる為に用意された棒を橋と見立てて、歩いて渡った時に事故にあった女の子がいた。
棒と棒の隙間に入り込む形で落ちてしまった女の子は落下の時に頭を強打。反動で顔を強くぶつけてそのまま擦りつけるように落ちてしまったらしい。
経過の観察を兼ねて入院した少女は惨たらしい傷痕を顔に残していた。少女自身もそのことに気を病んでいた様子で、入院当初は全く口を開かなかったのを覚えている。
「子供が入院してくるなんて滅多にないから二人で話しかけて友達になったよね」
「そうそう。燈君が提案したのよね。『彼女とお話したいから手伝って~』って」
「そんな言い方はしてなかったと思うけど……」
たまに大袈裟な言い方をするんだこの人は。
「それで、その子がどうしたの?」
「うん。仲良くなって色々お話しようとしたら彼女はすぐに退院してしまった。その子に限った話ではないけど、ここに来る子はいつかいなくなる。ここに残っているのは僕だけで……なんだか世界から隔離されてしまったような感覚がして、病気よりもそれが辛いんだ」
「隔離……か。うん、そうね。辛いよね一人は」
鬼谷の表情が暗いものに変わっていることに気付いて、燈はしまったと思った。
昔の記憶を共有している彼女もまた、長い時間この病院に取り残されている一人なのだと失念していた。それに彼女は自分よりも長い時間ここにいる。
燈が抱えている孤独を、鬼谷はより重く感じているはずだ。
ごめん。
そう謝ろうと口に出すより早く、鬼谷は表情を明るいものに変えてベンチから立ち上がる。
「燈君。あれを見てみなさい」
「あれって、どれ?」
「あれよあれ、病院の入口」
フェンスに近づき地面を指さす鬼谷に言われるまま、病院の入口を見てみるとトラックが止まっていた。荷台のロゴに見覚えがある。
「コンビニのトラック……?」
「そう、正解!」
鬼谷はこちらに向かって親指を突き立てる。
「多分購買の商品を補充しにきたのよ。早速見に行きましょ」
「えぇ……購買って確か2階でしょ……面倒だよ」
ちなみにここの病院は8階建てて、今いるのは屋上である。
「エレベーター使うんだから大してかわらないでしょ。ほら、プリン買ってあげるから」
「……まぁいいけど」
甘言に釣られて燈は頷く。
質素な食事に慣れたとはいえ、やはり味の濃いものは燈にも特別なものだった。
「そういえば、何であの子の話をしてたんだっけ」
エレベーターに向かう途中、燈がふとそう言った。「ん~……?」
悩んだような素振りを見せた鬼谷はこちらを振り向き笑顔を見せる。
「わかんないっ」
楽しそうに言った彼女はエレベーターのボタンを押した。
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