143 / 228
第四章、愛は指先にのせて。
20
しおりを挟む
しかしあゆらの反撃はこれにとどまらない。
「つい熱くなってしまい申し訳ございませんでした。驚かせてしまったお詫びと今日という日のお祝いのために、一曲弾かせていただいてもよろしいでしょうか?」
「もういい、お前は下が」
「ああ、ぜひあゆらさんのピアノを聴きたいな」
「わたくしもお聴きしたいですわ、あゆらさんはピアノの腕も一級品ですもの」
「な……」
これ以上自由にさせては何をしでかすかわからないと案じた幸蔵はあゆらを退かせようとしたが、客たちの声により不可能となった。
もはや観客たちは“岸本幸蔵の娘”としてではなく“岸本あゆら”という個人に魅せられていた。
「志鬼、聴いて行ってちょうだい」
そろそろ退場するべきかとタイミングを見ていた志鬼は、あゆらにそう言われ、その場に残ることにした。
清志郎のことは苗字に敬称までつけ呼んでいるのに対し、志鬼のことは名を呼び捨てている。二人がいかに親しい仲かは、もはや会場中の人間が知っただろう。
「お母様、お父様、帝くんもぜひ……最後までご静聴くださいませ」
そう言ってあゆらは胸を張り、舞台の脇に置かれたグランドピアノまで歩くと、椅子に腰を据え、色白の指を鍵盤に添えた。
美しい指先が滑らかに、ロマンティックで、少し寂しげな音楽を奏で始める。
それを耳にした志鬼は、こう思った。
――俺でも聴いたことある曲や。
ヴェートーベン作『エリーゼのために』。
あゆらは教養がない志鬼にもわかるよう、難しい曲ではなくあえてポピュラーな曲を選んだ。
「つい熱くなってしまい申し訳ございませんでした。驚かせてしまったお詫びと今日という日のお祝いのために、一曲弾かせていただいてもよろしいでしょうか?」
「もういい、お前は下が」
「ああ、ぜひあゆらさんのピアノを聴きたいな」
「わたくしもお聴きしたいですわ、あゆらさんはピアノの腕も一級品ですもの」
「な……」
これ以上自由にさせては何をしでかすかわからないと案じた幸蔵はあゆらを退かせようとしたが、客たちの声により不可能となった。
もはや観客たちは“岸本幸蔵の娘”としてではなく“岸本あゆら”という個人に魅せられていた。
「志鬼、聴いて行ってちょうだい」
そろそろ退場するべきかとタイミングを見ていた志鬼は、あゆらにそう言われ、その場に残ることにした。
清志郎のことは苗字に敬称までつけ呼んでいるのに対し、志鬼のことは名を呼び捨てている。二人がいかに親しい仲かは、もはや会場中の人間が知っただろう。
「お母様、お父様、帝くんもぜひ……最後までご静聴くださいませ」
そう言ってあゆらは胸を張り、舞台の脇に置かれたグランドピアノまで歩くと、椅子に腰を据え、色白の指を鍵盤に添えた。
美しい指先が滑らかに、ロマンティックで、少し寂しげな音楽を奏で始める。
それを耳にした志鬼は、こう思った。
――俺でも聴いたことある曲や。
ヴェートーベン作『エリーゼのために』。
あゆらは教養がない志鬼にもわかるよう、難しい曲ではなくあえてポピュラーな曲を選んだ。
0
あなたにおすすめの小説
クラスでバカにされてるオタクなぼくが、気づいたら不良たちから崇拝されててガクブル
諏訪錦
青春
アルファポリスから書籍版が発売中です。皆様よろしくお願いいたします!
6月中旬予定で、『クラスでバカにされてるオタクなぼくが、気づいたら不良たちから崇拝されててガクブル』のタイトルで文庫化いたします。よろしくお願いいたします!
間久辺比佐志(まくべひさし)。自他共に認めるオタク。ひょんなことから不良たちに目をつけられた主人公は、オタクが高じて身に付いた絵のスキルを用いて、グラフィティライターとして不良界に関わりを持つようになる。
グラフィティとは、街中にスプレーインクなどで描かれた落書きのことを指し、不良文化の一つとしての認識が強いグラフィティに最初は戸惑いながらも、主人公はその魅力にとりつかれていく。
グラフィティを通じてアンダーグラウンドな世界に身を投じることになる主人公は、やがて夜の街の代名詞とまで言われる存在になっていく。主人公の身に、果たしてこの先なにが待ち構えているのだろうか。
書籍化に伴い設定をいくつか変更しております。
一例 チーム『スペクター』
↓
チーム『マサムネ』
※イラスト頂きました。夕凪様より。
http://15452.mitemin.net/i192768/
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる