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住まわされる。

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「ハァ……せっかく役に立てると思ったのに、ダメだな私……仕方ない、食べてもらえなかったら、私が明日も食べよう」

 くるみが反省しながら前を向くと、またあの写真が目に入る。ダイニングに着席すると、トロフィーが飾られたチェストが、ちょうど目線に来るのだ。
 フォトフレームの中の佐藤甘音、その隣にある、ガラスに覆われた表彰状を、くるみは改めてじっと見た。
 そこに書かれた筆記体の文字は、すべて繋がっているようで英語かどうかもわからない。
 しかし、一番上にある見出しのような文字は、太く大きく書かれていたので、アルファベットとして認識できた。
  
「ええと……シー、オー、ユー、ピー、イー……」

 くるみは書かれた文字を一つ一つ読み上げながら、スマホの検索エンジンに入力していく。
 すると、最後まで打つ前に、ネットの予測機能で候補が上がってきた。表彰状の文字と一致したスペルをタップすると、パッと画面が切り替わる。
 
「……クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー?」

 くるみは検索結果に並んだ、カタカナを拙く読み上げた。
 素人が読むと噛んでしまいそうなほど、長くて難しい言葉だ。
 これだけではなにもわからないので、とりあえず一番上に出てきた結果をタップする。と、コックコートを着たパティシエたちの写真に切り替わる。
 さらに人差し指で画面を動かすと、内容を説明する文にたどり着いた。 
 くるみはそこに書かれた文字を、夢中で追いかける。
 二年に一度、フランスのリヨンで開催される、パティシエの世界最高峰の大会。
 そこまで読んだくるみは、まさかと思い、歴代の結果を遡ってクリックしていった。
 すると十八年前の記事に、その人を見つけたのだ。
 金色のメダルを胸に、誇らしげにトロフィーを掲げた彼女は、今、チェストの上でフォトフレームに囲まれた人物と同じだった。
 選ばれるのは国内でほんの数名。出場するだけでも恐ろしく狭き門だろう。それなのに、彼女はリーダーとして出場し、日本チームを世界一に導いていた。
 甘路は十歳で母を亡くしたと話していた。ならばそれは、このコンクールの直後になる。
 甘路の母である甘音は、死の間際までパティシエとして注力し、見事な成果を残し、この世を去ったのだ。
 思わず釘付けになっていたくるみは、この一家の全貌を捉えると、スマホをテーブルに置いて遠い目をした。

「……なんで私なんかが、こんなすごい人たちの家に住めるんだろ、やっぱりなんかの間違いなんじゃ、それか夢か……」

 もっと他に考えなければならないことがあるような、そんな気がするくるみだが、急激な眠気に襲われ思考がぼやける。
 これはダメだと思ったくるみは、瞼を瞬かせながら、メガネを外してテーブルに突っ伏した。
 昨夜に続き、今日はいろんなことがありすぎた。十年分くらいの充実した一日を過ごしたのだ、体力や精神力に限界が来てもおかしくない。

「佐藤さん、まだかな、遅い、なー……」

 甘路の帰宅を待っていたくるみは、晩御飯を食べるのも忘れ、夢の中に落ちていった。
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