甘い運命～極上パティシエの強引な誘惑～

住まわされる。

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　くるみがうたた寝した頃、パティスリードゥートンの厨房では、身を削るように奮闘する彼の姿があった。
　もう何時間作り続けているのか、自分でもわからない。動きを止めた甘路の周り、調理台の上には、ケーキ作りに必要な器具が散乱している。そしてその中には、いくつもの試作品が置いてあった。
　ベリー系の果物がふんだんに使用されたフルーツタルト、紅茶を練り込んだミルクレープ、絶妙な柔らかさのチーズケーキも、甘路を納得させられない。
　どこにでもあるオーソドックスで安心感のあるケーキから、芸術的とも呼べる創作感溢れるケーキ。シンプルな味が好きな子供から、舌の肥えた大人まで、一口で唸らせるスウィーツを作る。
　そんなことはお手のもの、甘路にとっては簡単だったのだ。この症状が出るまでは――。

「クソッ……なんでなんだっ」

　味見したスプーンを握りしめ、調理台に拳を叩きつける。
　何度この行為を続けただろう。同じだとわかっているのに、性懲りもなく繰り返す。
　そんな甘路は左手に、くるみにもらったメモを持っていた。
　そこには、甘路が頼んでいた、ホワイトチョコのシャンパーニュの感想が書いてある。
　――二つのお酒の味、酸味の強い方が多めで、大人向けな風味に。←お酒の種類がわからなくてすみません。ほんの少し絹豆腐が入っていて、しっとり感あり。でも無塩バターでふわふわ軽い感じもする。ホワイトチョコがたくさんなので濃厚、バニラエッセンスがふわっと広がる。めちゃくちゃ美味しかったです――。
　大きめでバランスが取れた文字の中に、ミミズのように流れている部分があり、文章としては成立していないようなメモだったが。それはくるみが、感じたことを急いで書き留めてくれた証拠でもあった。