蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜

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仙界

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 蛇珀がいろりの家に滞在するようになり、早一月が経過していた。

 三月後半、春休みに入ったいろりは、時折友人や母と出かけたりした。
 しかしいろりは生まれつき目が見えなかったせいか、今でもあまり外出を好まなかった。そのため一日のほとんどを蛇珀と共に部屋で過ごしていた。
 それは互いにとって至福の時ではあったが、蛇珀はいろりにもっと多くのものを見せたいと思っていた。
 その黒くも透明感のある瞳に相応しい、美しい景色を映してやりたいと感じていたのだ。

「これが青、黄に、緑……」

 そう言いながら、蛇珀は画用紙に筆で取った絵の具の色を滑らせていく。
 いろりに色を教えているのである。

 いろりはそんな蛇珀の声に真剣に耳を傾け、白い紙に広がっていく様々な色を目で追っていた。
 
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